第3章「理想の夢」
最近はアラームを設定しなくても起きられるようになった。僕はあの音が大嫌いだから嬉しいことではあった。
スマホの時刻は6時20分を表示していた。遅刻はしなくて済みそうだ。いつものように洗面所に向かう。
「今日は綺麗だな。」
ニキビひとつない自分の肌に何故か関心を覚える。昨日夜にたまたま買えた大好きなメロンパンを舌の上で味を楽しみながら頬張る。食べ終えた頃にはちょうど家を出るにはいいタイミングであった。
歯磨きを終えて家を出てバス停に着くとちょうどバスがやってきた。今日はなんて運がいいのだろうか。そうこう考えながらバスに乗り込むと自分と運転手以外が誰もいないことに気がつく。
なんて至福な時間なのだろうか。1人用の席に座り自分の世界に入り込み考え事を始める。今日のお昼は何を食べようか、講義で眠たくならないだろうか、そんなくだらないことを考えていた。
バスから降りるといつものように歩いて大学へ向かう。不思議なことに門を通るまで誰ともすれ違わなかった。また余計なことを考える時間が省けたが妙に違和感がした。
そうこうしている内に講義室に入ると中には彼女の姿が見当たらなかった。適当に空いている席へ腰を掛けると隣に彼女が座ってきた。
「おはよ!!」
いつものように元気のいい挨拶が飛んでくる。
「おはよう。」
今日は何故か明るい声で返事をした。そして彼女が口を開く。
「今日なんだけど講義終わったあと時間ある?」
「あるけどどうしたの?」
「実は駅前に新しく出来たカフェが気になってて、、」
「一緒に行かない?」
彼女にそう言われた僕はかなり動揺していた。一瞬取り乱してしまうがすぐに平凡を装う。
「もちろんいいよ。」
「やった!じゃあお昼食べたら最寄り駅集合で!」
元気に集合場所を伝えた彼女は満足そうな顔をして前を向く。僕は心の中でガッツポーズをしながら時が過ぎるのを待っていた。
そして別々でお昼を取った後に集合場所に向かうと既に彼女の姿が見えた。僕が半ば早足で彼女の元に向かうと、
「おー!きたきた!」
と元気な声で僕に手を振った。
「じゃあ行こっか!」
そう彼女が言うと突然僕の腕を掴んで目的地まで引っ張って行く。
生まれてから彼女がいなかった僕は動揺を隠せないでいたが、何とか目的地までたどり着くことが出来た。その後は彼女とカフェで他愛ない世間話をしたりと何かと楽しい時間を過ごした。
帰り際彼女が僕が帰ろうとすると何故か僕のことを引き留める。そして彼女は言った。
「今日カフェに誘ったのは本当はね、君に好きって伝えるためなんだ。」
「っ、、!」
動揺が隠せないまま彼女の口から次の言葉が出てくる。
「好きです、付き合ってください!」
答えはひとつなはずなのになんと返すべきか自分の脳内に問いかけてしまうほど混乱していたが一生懸命選んだ言葉を精一杯口から吐き出す。
「僕も君のことが、」
と、次の言葉を吐こうとした瞬間。
「すきで、、」
目の前の視界がグラっと揺れる。そして何故か立っていられなくなり地面に体を打ち付けたまま意識を手放してしまった。
明晰夢の片思い towa @amamiya-kasa
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