第2話 ダメ人間

 おかしい。昨日までは確かに仕事に行っていた。それまでは普通に動いていたはずだった俺の体は、全くといっていいほど動かなくなっていた。動けないだけでなく、瞳からは涙が溢れ、動悸が激しくなり、頭もぐらぐらと、眩暈なのか頭痛なのかよく分からない症状がたくさん発現していた。

 

 そのような身体状況でも、着信が続く。しかし電話もしたくない。誰とも話したくない。助けてくれる誰かもいない。何度も電話をかけようと手を伸ばしはひっこめて、ただただ布団のなかで、気色の悪いおっさんは震えて泣いていた。


 ふと我に返る。このままでは会社の同僚や上司に迷惑をかけてしまう。俺は何をしているのだこのダメ人間が。しかし電話は無理だ。今の俺にはとてもできない。ならばせめてメールで連絡をいれたらどうか。・・・それしかない。


 「大変申し訳ありませんが、体調不良のため本日は年休をいただけませんでしょうか」


 この文章を打ち込むだけでかなりの時間を費やしてしまった。しかし時間はかかったものの、あとは送信するだけだ。震える手で送信ボタンを押す。送った瞬間、深いため息が出た。いつの間にかまた布団に潜り込み、膝を抱えておいおいとみじめに泣いていた。


 どれくらい時間がたったろうか。再び目が覚めたころには太陽が真上にある時間帯だった。ふとスマートフォンを見る。


 「もう会社来なくていいよ」


 救いはないのか、救われたのか分からない。ただおっさんはみじめに泣き、これからの人生に絶望した。

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あい 粋令 @ikimero

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