【第2章のあらすじと登場人物】

ホーリーウェル魔導学院は、魔術師マジシャンの教育の為に作られた9年制の学校であり、運営は国王に任命された学院長が務める王立学校だ。


学院長クランプは貴族派の男と面会をしていた。中央集権による王権の暴走を阻止し、貴族連合による評議制にしようという動きへの参加するようにとの画策であったが、クランプは態度を明確にしない。


いきり立った男は捨て台詞を残して立ち去ろうとしたが、クランプは豹変し威圧する。彼は男が敵国の工作員であることを看破していた。男を追い払ったクランプは、新たに現われた男と平和と安全について言葉を交わす。


四方を異教徒で囲まれたこのマーキュリー王国で、絶対平和主義を唱えれば忽ち領土を蹂躙されてしまう。それを防ぐためには、他国より強力な力を持っていなければならない。ホーリーウェル魔導学院の存在意義を改めて自覚する。


この学院は、第一等級以上の魔術の才能を持つ者……すなわち貴族……が対象であり、生活魔術以上の魔術を使うことができない平民は入学することはできない。


しかし、ごく稀に魔術の才能を持つ平民の子供が生まれる事がある。つまり何らかの事情で貴族と性的関係を持った平民の子であり、その子供達が敵対勢力に拉致・誘拐されないために『特別生イレギュラーズ』の制度を設けている。


その制度を利用して入学するシェリルだったが、周りは貴族の子女ばかり。みすぼらしい衣服を着ているシェリルは悪目立ちしてしまう。

陰口が囁かれる中、随行する聖騎士パラディンユーリアは控室で着替えるように促す。

その頃スカーロイ辺境伯令嬢のステファニー・アニエス・ハンコックは、マルムストローム公爵令嬢クラリス・リディア・ジャウエットと会話を交わしていた。

やがて入学の式典が始まり、学院長クランプが厳しくそして温かい歓迎の辞を述べる。それを受けて新入生主席のクラリスが答辞を述べるが、クランプはここで『特別生イレギュラーズ』の紹介をする。


アルフォード大聖堂の白い紋章エンブレムが施された青い片肩マントペリースを特別な制服に纏わせた桃色の髪の美少女が現れる。それは身だしなみを整えたシェリルであり、その姿を見て多くの生徒が『聖女』だと認識する。

そんなシェリルにステファニーは反発し、クラリスは興味を抱いた。


シェリルが配属されたのは、学院の中でも特に能力に秀でた生徒が集められたSクラス。たった7人しかいない選抜クラスだった。シェリルに関心を持つクラリス、反発し対抗心剥き出しのステファニー、本好きなシェリルに親近感を抱くセラフィーナ、聖女に憧憬の念を抱くレイコ、そしてあまり深く考えていない男子生徒のトーマスとハサン。


担任となったのは聖騎士パラディンユーリアによく似た外見をしている風精族エルフのマリオン。彼女はまず一つの試練を与える。暗闇に閉じ込め闇を払うように言う。それぞれに力を発揮する生徒達だが、マリオンの放つ魔術は強力で払う事はできない。そこでクラリスは全員の力を結集して闇を払うように提案する。それでもなかなか解決には至らない。


その時シェリルが光を放つ。心の迷い、不安を打ち払い魔力を自分の中に集中させることが突破口を開くと伝える。

こうして試練を突破したSクラスの生徒だが、この試練でマリオンはこの後の合同クラスへの振り分けを考えていた。その結果シェリルはステファニーやセラフィーナと共にAクラスで授業を受ける。


この時教壇に立ったハッタリーから魔術理論の講義を受けるが、師であるレイモンドとの教えの違いに困惑する。その事に違和感を覚えたシェリルだったが、「教わるべき生徒が教師の教えに疑問を持つのは生意気」とステファニーに叱責される。


別の日、体育の授業が行われ兎人族ラビノイドのイナバが教師として現れる。

魔術と体力強化に何の関係があるのか理解できないハサンは、獣人族への嫌悪感から敵意を露わにする。そんなハサンにイナバは自分に一番得な魔術をぶつけてみろと言い放つ。


逆上してイナバに攻撃をするハサンだったが、煙を払うように打ち消されてしまう。魔術を放つためには体力も必要だという事を、身を以て生徒達に伝えるイナバが、凄腕の冒険者だという事にシェリルは気付いた。


一方、アルフォード大聖堂では、枢機卿カーディナルセーラムが、賢者セージシルヴィに面会していた。セーラムは『天空の聖女』の可能性のある少女シェリルに関してアルフォード大聖堂の判断に一任すると言う国王からの見解を伝える。

シルヴィは思いを巡らせる。


一人私室に戻ったシルヴィは、懐から取り出した天使の像を象ったペンダントを取り出して、握りしめる。

「……俺も君に逢いたいよ……科乃しなの……」

その独白を耳にする者は誰もいなかった。



【主な登場人物】


<ホーリーウェル魔導学院>


・シェリル

年齢13歳 シェリル・ユーリアラス 主人公 

本当の名前は『天空の聖女セインテス』である『シナノ』

『アニマ』と戦いで、激しく消耗し『天空の聖女セインテス』としての全ての力を失う。

風の大精霊シルフィード』のユーフェミアの力で一命は取り留めたものの、赤子になり、冬の日に教会前に捨てられていた。『天空の聖女セインテス』であるため、幼くして膨大な魔力を持っているが、記憶を含め全ての力を失っており、最初から覚え直しているためコントロールができず、それが原因で事件を起こし、村を追い出される形でアルフォード大聖堂の保護下に入る。

聖騎士パラディンユーリアの尽力もあって、ホーリーウェル魔導学院の『特別生イレギュラーズ』として入学する事になる。


・ステファニー

年齢13歳 ステファニー・アニエス・ハンコック 人間族ヒューム

敵対国家ジール王国と境界を接するマーキュリー王国西端のスカーロイ辺境伯領を守護する。ハンコック家の長女。

才気煥発で武芸にも秀でているため、当主であり父親からも「其方そなたが男子であれば」と嘆息されているが、本人は弟アンドリューを溺愛しており、家を継ぐ気はない。

また政略結婚は断固拒否しており、自立の道を模索して商会『アニエス商会』を立ち上げている。

特別生イレギュラーズとして入学したシェリルにアルフォード大聖堂が後ろ盾にいることに反発し、一方的にライバル視している。火属性の魔術が得意。


・クラリス

年齢13歳 クラリス・リディア・ジャウエット 人間族ヒューム

王室の双璧そうへきと呼ばれる『マルムストローム公爵家』の長女であり、清楚可憐せいそかれんを具体化したような金髪ブロンドの縦巻きロールした髪が印象的な美少女。

アルフォード大聖堂からの特別生イレギュラーズであるシェリルを他の生徒達は反発・畏怖・警戒しているが、友好的に接してくる数少ない存在。

情熱的なステファニーに対して冷静沈着で、狼狽える事はない完璧超人。しかし、いつも穏やかな態度崩さないため、真意を読み取る事はまず不可能であり、シェリルは不気味さすら感じている。水属性の魔術を得意とする。


・セラフィーナ

年齢13歳 セラフィーナ・ライラ・グリフィン 人間族ヒューム

ストラトフォード伯爵令嬢 本好きの少女。大人しく控え目であるため、自分を前に出そうとはしない。本が大好きなため、シェリルとよく図書館で一緒になる事が多く、Sクラスの中では一番シェリルに親近感を抱いている。

光属性の魔術が得意。


・レイコ

年齢13歳 レイコ・イシュトリア・ミヤマ 人間族ヒューム

ラフェステラ子爵令嬢 

代々アルフォード大聖堂を統括する枢機卿カーディナルを輩出するミヤマ家の令嬢。聖魔術の適性を持っているが、次期候補者に、異母兄アヤトがいるため彼女自身は未だ本洗礼を受けておらず、貴族令嬢として育てられている。

光属性の魔術が得意。


・トム

年齢13歳 トーマス・スコット・レキシントン 人間族ヒューム

エンデバー男爵長男

レキシントン家は『エルスワース辺境伯領』にて、領主であるシェフィールド家の管領かんれいを務めている。

王家から見れば直臣じきしんではなく、陪臣ばいしんではあったが、戦場での数々の功績から、エルスワース領に隣接する未開地を『エンデバー男爵領』として拝領している。

放射系の魔術よりも、自らの身体や装備品に魔術を流し強化させる事に特化した魔術剣士タイプ。騎士学院に進むかどうか迷ったが、主であるエルスワース辺境伯より、魔力を強化する事を求められたため、魔導学院に進学した。


・ハサン

年齢13歳 ハサン・イブン・ターヒル 人間族ヒューム

イオタ男爵長男

領有権を巡って戦火が絶えないイオタ島を守護するターヒル一族の長子。

王宮は『アニマ』の勢力から島を奪還した功績により300年前より『イオタ男爵』に叙任し、今に至っている。勇猛果敢な性格で、魔術に秀でている。

土属性の魔術が得意。


・マリオン

年齢310歳 マリオン・ヤヌス・カロン 影風精族シャドウエルフ

ホーリーウェル魔導学院の初年度Sクラスを担当する教師。魔術の能力は学院長クランプをも凌駕する実力を持っており、入学する生徒に対して試練を与え、属性を見極めている。

実は風精神族ハイエルフアイリスの侍女で密命を帯びている。

褐色の肌に白銀色の長い髪が特徴の美女。



・クランプ

年齢40歳 クランプ・アーレ・ハイパーソン 人間族ヒューム

代々王宮筆頭魔術師を輩出するハイパーソン家の長男。

ホーリーウェル魔導学院の学院長であり、非公開であるが、王国の諜報活動を司る王室中央情報局の副局長を務めている。

周辺国の動向がきな臭くなっている状況を踏まえ、王国の戦力である魔術師マジシャン育成の任を命じられている。

知能の高さは一族でもトップクラスであり、謹厳実直な性格であるが、与えられた任務や役割を理解し、老獪な政治家を演じている。


・フェイ

年齢非公開 フェイ・ヴォルゴート・ハイパーソン 人間族ヒューム

クランプの父にして、元王宮筆頭魔術師。現在は王室中央情報局長官を務めている。長く続く王国の歴史に精通しており、長い時を生きているが、人間族ヒュームであるため、徐々に老化が進んでいる。人生の全てを王国に捧げたため、その行く末を案じている。

若き頃より賢者セージシルヴィを誰よりも信奉し、彼のクランに所属し冒険者経験もある。老獪さでは息子クランプを遥かに凌駕しているが、一切口は出さず彼に任せている。


・イナバ

年齢 25歳 イナバ・ベローウッド 兎人族ラビノイド

ホーリーウェル魔導学院にて体育を指導する講師で、魔術と体力が密接に繋がっていることをシェリル達に伝える。

現役の『妖精銀ミスリルクラスの冒険者であり、兎人族ラビノイドの中では突出して強力な膂力がある。


<アルフォード大聖堂>


・ユーリア

年齢210歳 ユーリア・ミュウ・ヴェシヒイシ 森風精族エルフ

アルフォード大聖堂所属、エルスワース辺境伯領管掌の聖騎士パラディン、聖騎士序列は第3位。

シェリルをアルフォード大聖堂の『特別生イレギュラーズ』として入学させることに尽力した。彼女が用意したシェリルの制服からシェリルが『聖女』認定される。

白銀色の長い髪が特徴の美女。


・ミシェル

年齢27歳 ミシェル・カレイジャス 人間族ヒューム

アルフォード大聖堂の聖騎士長キャプテンパラディン

平民であり、若くして神官としてアルフォード大聖堂で大司教ビショップを勤め上げた後、聖騎士パラディンになる。実はシェリルの入学以前の先代のホーリーウェル魔導学院の『特別生イレギュラーズ

騎士としての実力も超一流


・セーラム

年齢63歳 ウィンストン・セーラム 人間族ヒューム

ノイルフェール枢機卿カーディナル

アルフォード大聖堂の最高責任者でありながら、外見に威厳はない。収まりの悪い灰色の髪といつも前屈みの姿勢は高位聖職者とは思えず、むしろひなびたパン屋の親父的印象がある。

温厚な性格であり、賢者セージシルヴィを崇拝している。


・アイリス

年齢不詳 アイリス・ルーナ・ヴィ・ユーミル 風精神族ハイエルフ

賢者セージシルヴィの高弟筆頭であり彼の『養女』。風精族エルフの始祖と言われており、常にシルヴィと行動を共にしている。輝く白金色髪プラチナブロンド氷青色アイスブルーの瞳をそなえた美貌を持つ女性で数少ない大魔導師メイガス

幼い時は明朗快活で優しい性格だったが、この世界の歴史の中で人間族ヒュームの有様を目の当たりにしてきたことから幻滅し、今ではこの世界の人間族ヒュームを『下等生物』扱いしている。一人称は「わらわ」。現在の態度は尊大で、偉そうな口調で話す。


・シルヴィ

年齢不詳 シルヴェスター・アール・シェフィールド

アルフォード大聖堂の奥で世界を見つめているこの世界唯一の『賢者セージ』。この世界では考えられない青銀の髪・金春色ターコイズブルーの瞳を持ち、その姿は『天空神テリー』の肖像画に似ていると言われている。

この世界を守るために時空の狭間に消えた『天空の聖女セインテス』シナノを探している。

一人称は公の場では「」、プライベートは「俺」

配下のユーリアからシェリルの報告を受けても、探し人とは認めることができず様子を見ている。

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