2.見知らぬ世界……夢

 夢を見ていた。

 見た事もない場所、感じたことのない感覚に囚われ、彼女は耳に飛び込んでくる轟音と怒号に緊張を高めていく。



……

………………

…………………………

……………………………………



「敵艦隊捕捉! 針路二―九―〇、高低差一二〇〇〇。速度五九〇!」

「駆逐隊! 迎撃に迎え!」

<了解。捕捉殲滅します>

「レーダーに反応! 針路一―九―六、高低差一〇五〇〇。速度六〇〇! 数四! 急速接近中!」


ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ



「ECM作動! 対抗手段準備!」


ピ――――――――――――!


「レーダー・ロック! ロック・オンされた!」

「敵、ミサイル発射!」

「チャフ!」

「チャフ、散布します!」


「敵二番艦、射程圏内に突入してきました。続いて、四番艦!」

「くそう! 囲まれたっ!」


ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ!


「天底に下げて逃げるのよっ! 駆逐隊はっ!?」

「敵駆逐艦八隻と交戦中! 援護できません!」

「くそっ、もう少しだって言うのによっ!」

「この宙域で、なんとか撃破するのよ。それしか手はないわっ!」

「どうやって……それに『コラプス』……あんな化け物相手にどうすれば……?」

「あの小惑星帯に入り込んで! 照準を固定し、主砲を斉射するわ! アプムス隊に援護させて!」

「了解」


ピ――――――――――――!


「ミサイル群接近!」

「進路〇―四―七! どうあっても小惑星帯に近づかせない気ね!」

「敵駆逐艦、割り込んできます!なおもミサイル発射を確認!」

「フレアー射出! 囮に食いつかせてっ! 全速前進!」

「フレアー射出! ミサイル離れていきます!」

「天頂方向に敵艦! 照合! クラハーン級巡航艦! 数2!」

「アスタバーン装填! 照準、ポイント・アルファ〇―九―〇。ベータ二―三―一。撃てーっ!」


「命中! 『コラプス』が針路を変更しました!」

「急速回頭! 艦首、軸線に乗せてっ!」

「方位 X〇二七、Y〇二二、Z〇四六、宜候ようそろう!」

「第二射、準備!」


「大変です! 『アルスキール』が『コラプス』と接触! 爆発します!!」

「緊急防壁展開!」

「防御間に合いません!」

「破片群、急速接近っ!」

「総員! 何かに掴まってっ!!」


ガガガガガッ! ドンッ!!


「第一エンジン損傷!」

「出力低下 火災発生!」

「自動消火装置作動させますっ!」

「第一エンジンカット! 動力パイプ閉鎖っ! 残るエンジン出力最大! 第三惑星大気圏限界点で迎撃するわっ!」

「そんな無茶な!」

「でないと破滅よっ! ここでやられる訳にはいかないの! 何としても『アルスキール』を完全粉砕するのよ!」

「りょ、了解……」

「出力そのまま。なおも増速中! 速度一二・一三・一四・一五……」

「フィールドの展開を急いでっ! 重力に押しつぶされる前にっ!」


ピー!ピー!ピー!ピー!

<警告します。第二エンジンに異常発生。内圧上昇中。出力を下げてください>

<警告します。速度安全領域超過。速度を落としてください>


「うるさいなっ! そんな事言っている場合かっ!」

「無駄口を叩く暇はないわ! 全エンジン出力そのまま! 突っ込むわよっ!」

ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、

「Z軸高度一〇〇〇〇 九五〇〇 九〇〇〇 八五〇〇! 『アルスキール』を捕捉! アスタバーンの射程圏内に入ります!」

「頑張って! 干渉を受けないように操舵桿スティックを引き起こすのよっ!」

「はいっ!」


<警告。警告。重力圏に進入しています。進路を変更ください>


「くそっ! 重いっ!」

「Z軸高度六五〇〇 六〇〇〇 五五〇〇 五〇〇〇!」

ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ!

「突入するわよっ! フィールド展開っ! 総員、衝撃に耐えてっ!」

「アスタバーン、照準良し!」

「斉射……」

「『コラプス』、『アルスキール』上に確認! 崩壊中……って、発射光確認!!」

「防壁を艦首に展開っ!」

「間に合いま……」



ビ――――――――――!!




……………………………………

…………………………

………………

……




 それはまるでボイスレコーダーのやりとりのように緊迫したものであり、飛び込んでくる音声もまた激しいものだった。


 そしてそれは、彼女の目の前にありありと繰り広げられ、ついには床下からも激しい振動と熱風が彼女に襲いかかってきた。

 外で何が起こったのか、はっきりとしたことは判らない。

 しかし、操縦席に飛び込んできた激しい火花が、激しい光の瞬きを繰り広げ、目の前には眩いばかりに輝く物体がどんどん大きくなっていく。

 それでも彼女は、光と熱そして重力に抗いながら、渾身の力を振り絞って操作レバーを引き起こす。


 何度も……何度も……


 それこそが彼女にできる最後の手段だった。迫り来る敵から、守り通さねばならない。それが彼女に与えられた任務ミッションなのだから。

 ここで滅びる訳にはいかない。

そのために自分は、彼らの命と引き替えに多くの同胞達から未来を託されたのだ。

 だからこそ彼女は願った。彼女は耐えた。未来のために……

 そして叫んだ。



『マケラレナイ!! マケルモノカァッ!!』



――――――――――――


「…………っ!?…………」


 息苦しさに耐えかねて、ベッドから飛び起きた。

 髪の毛を振り乱し、シェリル・ユーリアラスは半身を起して、肩で大きく息を吸って呼吸を整えた。


 熱に浮かされたかのように流れ出る汗を拭い、辺りを見回してみると、そこには静かな夜の闇が広がっていた。

 窓から差し込む、月明かりが妙に明るく感じられ、寝汗の気化と共に、急激に体が冷えていく。

 その感覚が、さっきまで味わっていたことが夢の中だということを自覚させてくれる。


「またこの夢……」


 大きく息を吐いてベッドから半身を起こした。

 この夢を見るのはもうこれで何度目なのだろう。

 精神を集中する作業などで、非常に疲れた日や妙に体が火照った日の夜は、たいていこの夢を見てしまう。


――いったい何故こんな夢を見てしまうの?


 何度もその答えを探ってみたが、明確な答えを見つけ出すことはできない。

 判らないまま時が流れ、同時に夢も見なくなっていて、もう忘れようと思った矢先に再び見たこの夢は、何時にも増して真実味を帯びていた。


 衝撃が全身を駆け抜ける……そんな感覚は今まで感じたことはない。

 この夢で味わう前までは……

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