悲劇の魔女、フィーネ 7
気休めにしかならないかもしれないが、一縷の望みを託して俺は教会にやってきた。
町中にある店に挟まれた小さな教会は、屋根の上に十字架が無ければ教会とは気付かずに素通りしてしまうような佇まいだった。
「…あまり期待は出来ないが…気休めにはなるかもしれないからな…」
呟くと、扉を開けて教会の中へと足を踏み入れた―。
「ふ~ん…中は一応教会の様だな…」
建物は外見は狭そうに見えたが、意外と奥行きのある室内だった。入り口から入るとすぐ目の前には礼拝用木製ベンチが通路を挟むように左右前後に並んでいる。一番奥には祭壇に十字架、オルガンもあった。
すると、祭壇の奥にある扉から初老の神父が現れ、俺に近付きながら声を掛けて来た。
「お祈りですかな?」
「ええ。まぁそんなものですが…」
「それは信心深いことですな。神に祈りを捧げるのは素晴らしいことで…」
しかし、次の瞬間神父の顔が青ざめた。
「あ、あなた…一体何者ですかっ?!な、何故教会にそのような汚れをもちこんだのですかっ?!」
神父は俺を指さした。その身体はガタガタと震えている。
「え?やっぱり…俺に何か憑りつかれているのが見えているんですねっ?!」
すると神父は首から下げたロザリオのネックレスを握りしめながら頷く
「と、当然です…と言うか、それ程の悪霊が憑りついていれば神力の無い者でも、勘が鋭ければある程度は分りますよ…」
そして神父は祭壇の方へ向かって歩いて行く。
…一体何をするつもりなのだろう?
訝しんでいると、神父がこちらを振り向いた。右手にはロザリオのネックレスを手にしている。
「と、取りあえず…こちらのネックレスをお渡しいたします」
「ありがとうございます」
ロザリオに手を伸ばした途端…。
ブッ
ゴトン!
小さな音を立ててロザリオを繋げていたチェーンが外れて、ロザリオは床の上に落ちてしまった。
「あ、すみません!」
慌てて拾い上げようと、ロザリオに触れようとした時…。
「熱っ!」
ロザリオがまるで熱を持っているかのように熱く、触れる事が出来なかった。
「な、何でこんなに熱く感じるんだ…?」
俺は自分の右手を見つめて呟いた時、神父が口を開いた。
「い、一体…貴方は何をしたのですか?」
その声は何所か非難めいていた。
「え?何をって…?」
「い、いいですか…?ロザリオが熱くて触れられないと言うのは…もう既に貴方の身体は悪霊に身体を乗っ取られかけているか、既に手遅れと言う事なのですよっ!」
神父は俺を指さしながら言った。
「正直に答えて下さい!ここへ来たのも何か理由があっていらしたのでしょう?一体貴方はどんな罪を犯したのですか!」
今や神父は完全に俺を敵視するかの如く、鋭い視線を俺に向けて来る。
「どんな罪も何も…。強いて言えば、人が消えていた『メイソン』地区とアドラー城跡地に足を踏み入れたくらいですが…」
尤も、その時に血の気が引くような恐ろしい体験をしたことは伏せておいた。
「な、何ですって…。あ、貴方は…よりにもよって、そんな恐ろしい場所へ行ったのですかっ?!何と愚かなっ!」
突如神父は激怒した。
「もう、そうなると私では対応出来かねますっ!冷たい言い方をしていると思われるかも知れませんが…一刻も早くこの教会から出て行って下さい!」
「分りましたよ。出て行けばいいのでしょう?」
流石の物言いに俺もムッときてしまった。
「ええ、早く出て行って下さい」
「チッ」
俺はわざと聞こえよがしに舌打ちをすると、教会を後にし…先程ロザリオに触れた指先を見た。その指先は火傷の為か、小さな水ぶくれが出来ている。
「…マジかよ…」
まさかロザリオに触れただけで、火傷するとは…本当に俺は悪霊に憑りつかれてしまったのだろうか?
「…これからどうしよう…」
途方に暮れていた時―。
「あの…少し宜しいでしょうか…?」
突然背後から女性の声で呼び止められた。
「え?」
振り向いた俺は驚いた。
何故ならそこに昨夜ピアノを弾いていたあの女性が立っていたからだ―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます