悲劇の魔女、フィーネ 6
アドラー城跡地へ辿り着いたのは午後1時を回っていた。林の近くに車を停めるとすぐに機材を車から降ろした。
「とりあえず東西南北の方向に定点観測用カメラを取り付けておくか…」
それにしても不気味な場所だ。昨日は始めてこの場所にやってきたことで浮かれていたが、ガイドやホテルマンの態度、そして何より俺にこの情報を持ち込んできたデイブの反応…そして極めつけは先程『メイソン』地区で目撃した不気味な光景が目に焼き付いているせいで、俺の身体には鳥肌が立っていた。
「カメラを仕掛けたら一刻も早くこの場を立ち去ろう…。よし、このあたりでいいかな…」
そしてカメラを覗き込んだ途端…。
「!!」
俺はとんでも無い光景を目にしてしまった。何とカメラの中には無惨にも獣か何かに食い荒らされたかのような恐ろしい遺体が転がっている光景が写り込んでいたのだ。
「うわああああっ!!」
情けないくらい大きな悲鳴をあげて、思わずカメラから目をそらした。
「え…?」
しかし、そこには何も無い…ただ鬱蒼と雑草が生えているただの荒れ地が眼前にあるだけだった。
「な、何なんだ…い、今の光景は…」
しかし、もう一度カメラを覗き込む気にはなれなかった。風が強まって来たのだろうか…木々がザワザワとざわめき、雲行きが怪しくなってくると益々不気味な気配が濃くなっていく。
「…くっ!」
俺は恐怖を押し殺し、残りのカメラを設置すると画像を確認することも無く、逃げるようにその場を後にして、車に乗り込んだ。
「ふ〜…」
シートベルトを閉めてバックミラーを覗いた時…。
「うああああああっ!!」
またしても俺は絶叫してしまった。何故ならバックミラー越しに車の外には両腕がなく、目玉もくり抜かれたり、身体中の肉が剥ぎ取られて内臓がむき出しになっている亡者がこちらに向かって歩いてきている姿が映りだされていたのだ。
「くそっ!」
車のキーを回し、ハンドルを握りしめて思い切りアクセルを踏む込むと車は急発進して走り出した。
一刻も早くこの場を去らなければ…。
恐怖で全身を震わせながら、俺はアドラー城跡地から逃げ出した―。
****
2時間程、車を走らせ続け…ようやく賑やかな町に出てきた。
「良かった…。無事に戻ってこれて…」
安堵のため息をつくと、近くのガソリンスタンドへ向かい、給油を済ませるとレンタカー会社へと向かった。
「またのご利用をお待ちしております」
レンタカー会社へ車を返却した俺は町中を歩きながらデイブに連絡をする事にした。
トゥルルルル…
何コール目かでデイブが電話に出た。
『もしもし?』
「あ、デイブか。俺だ、ユリウスだ」
『ああ…ユリウスか?ところでお前…一体何処にいるんだよ?…部屋で映画でも見ているのか?随分騒がしいじゃないか』
「どこって…今レンタカーを返して、ホテルに向かって歩いているところだ」
『…1人で歩いているのか?』
「何妙な事言ってるんだ?当然だろう?」
『…マジかよ…』
デイブの声には怯えが混じっていた。
「何だ?どうしたんだよ?」
『お、お前…何も聞こえないのかよ…さっきから人のうめき声のようなものが…ずっとお前の電話口から聞こえてくるんだよっ!!』
「な、何だって…?」
その言葉に全身に悪寒が走るのを感じた。
『お前…まさか…アドラー城跡地にまた行ったのかよ…行くなって言っただろうが!も、もう俺に電話してくんなよっ!お、俺まで…巻き込むなよっ!』
それだけ言うと、デイブからの電話が切れてしまった。
「な、何なんだよ…?あいつからアドラー城の話をしてきたくせに…」
だが…俺の電話から人のうめき声だって?まさか…『メイソン』地区やアドラー城跡地で見た亡霊が…?
「…教会に行ってみるか…」
流石に現実主義者の俺でも今回の現象は科学で説明出来ない。本当に怨霊や呪いというものが存在しているのかもしれない…。
そして教会を検索するべく、俺はスマホをタップした―。
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