悲劇の魔女、フィーネ 5
「確か、アドラー城の跡地には集落があったよな…」
車を止めてナビを操作してみた。すると付近に『メイソン』と言う名の集落が表示された。
「車でここから約3分か…すぐに着くな。まずは城の跡地へ行く前に『メイソン』に行ってみるか…」
そしてハンドルを握るとアクセルを踏んだ―。
「何だ…?此処から先は車で進めないのか…?」
確かにナビではこの先に『メイソン』地区が表示されているのに、目の前には鬱蒼とした藪が生い茂り、車で先に進めない。
「本当にここであっているのか?第一こんな藪の先に人が住んでいるとは到底思えないが…?」
疑わしく思い、念の為に自分のスマホでナビアプリを起動してみた。しかし、確かにこの先に『メイソン』地区が表示されている。
「仕方ない…車をここで置いていくか」
貴重品を全てリュックにしまい、車を降りるとリュックを背負ってロックをかけた。
「よし…行ってみるか」
そしてナビを頼りに藪の中をかきわけながら『メイソン』を目指した―。
ガサガサガサッ!
無理やり藪に中をかきわけ、ようやく目の前が開けた。
「ふぅ〜…やっと抜けられた…ん?」
藪の中を抜けると、前方…50m程先だろうか?家々が立ち並んでいるのが見えた。
「やっぱり集落はあったか…良かった…よし、早速聞き込みだ」
そして俺は集落に向かった。
「え…?」
異変に気づいたのは歩き始めてすぐだった。立ち並ぶ家々はどれも窓や玄関が滅茶苦茶に破壊され、あちこちにガラス片が散らばっている。部屋の中に置かれた家具や家電は古びて、既に使い物にならない状態だった。
「な…何なんだ…?一体これは…?」
これは引っ越しをしたとか言う物ではない。ある日、忽然とここに住んでいた住民が姿を消し…何十年も野ざらし状態のまま放置されていたようにしか見えなかった。
「そんな…ここにいた住民たちは…一体皆何処へ行ってしまったんだ…?」
しかもこの集落…酷く空気が淀んでいるように感じるのは気のせいだろうか?おまけに先程から誰かに見られているかのような視線も感じる。
「誰かいるのか?」
背後を振り返って声を掛けるも、答える者はなく、風で鬱蒼と茂った木々がざわめく音だけだった。
「…引き返そう…」
先程から得も言われぬ感覚に襲われている。知らず知らず、鳥肌が立っていた。このままここにいると…色々まずいような気がしてきた。こんな感覚は生まれて始めてだ。
俺は集落に背を向けると、急ぎ足で元来た道を引き返し…藪の中に入る前に何気なく先程の集落を振り返り…背筋が凍りつきそうになった。何とその集落には遠目からではよく見えなかったが10人前後の人々が立って、こちらを向いて立っていたのだ。
「!」
その瞬間、今迄一度も感じたことの無かった激しい恐怖を感じた俺は必死になって藪の中を掻き分けて進んだ。
そしてようやく道路まで出てくることが出来た。
「ふ〜戻ってこれたか…」
安堵のため息をつく。
前方には乗ってきた車もそのままだった。
早く車に乗って一刻も早くここを抜けなければ…!
俺の本能がここは危険だと訴えている。
急いで車に駆け寄るとキーを開けて乗り込み、シートベルトしめると、アクセルを踏んだ。
アドラー城跡地を目指して…。
あんな不気味な光景を目にしたのに…このときの俺はまだ何処か甘く考えていたのだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます