第十二話: とにかく、味方を増やすのだ

※ちょっと、下の話が主題となっています。嫌な方は、お気をつけください



―――――――――――――――――――――――――




 ──貴族社会というのは、ある意味では非常に窮屈な世界である。




 もちろん、それが悪いかどうかは別として、良い面もしっかりある。



 まず、高度な教育を受けられるという点だ。



 このファンタジー世界において、文字が読めないという子はそれほど珍しくはない。固有名詞程度なら読めるが、少し畏まった書き方になると、途端に読めない者が出てくる。


 そんな中で、貴族に生まれた者はよほどの例外を除き、誰もが文字が書けるし、畏まった文の読み書きも可能である。


 同時に、数学(正確には、半分は算数)を始めとして、歴史や地理なども教えられる。これは何処に生まれたかによって大きく異なるが、その土地にとって重要な部分は全て教えられる。



 そして……一番良い面は、何よりも飢える事がない点だろう。



 よほど領地が困窮しているか、名ばかりの貴族ではない限り、基本的に食うに困る事はない。故に、病にさえ犯されなければ、健康的に育つという最大のメリットがある。




 ……で、だ。




 そんなファンタジー世界に生まれた貴族の男女。


 特に、女の方。貴族の女として生まれた者が、まず義務として課せられるのは……淑女としての所作、振る舞いである。


 つまり、地位と立場に見合うレディに成るための稽古である。


 これは、言うなれば一般家庭の少女が習う家事の手伝いみたいなものだ。向き不向きに関係なく、学ぶのが絶対であり当たり前である。


 衣服の洗い方や干し方、食べ物の種類や調理の仕方、掃除のやり方から間違ったやり方等々。


 おおよそ一般家庭の少女が親より教えられる事と同じく、貴族の少女たちも淑女の勉強をするわけだ。


 この、淑女の勉強というのは、各家や生まれた順番によって大きく異なっているとされている。


 しかし、その中でも……どの順番に生まれようが、どの家に生まれようが、大きく異なっているように見えて、だいたい似たような事を教えられているモノが幾つかある。



 ──代表的なのが、性教育だろう。



 とはいえ、この性教育というのは、ケットの前世にあるような、医学を元にしたモノではない。代々、その家の最年長の女より受け継がれてきた、経験則などを元にした内容となっている。


 故に、この教育の効果に関しては、非常に個人差が大きい……と、どの家の女も思っていた。


 まあ、考えなくとも当たり前だ。


 なにせ、貴族とはいえ人間の少女である事に変わりない。身体つきもそうだが、成長速度はてんでバラバラである。


 体質もそうだし、許容出来る限界もそうだ。


 そりゃあ10代20代の女よりは経験豊富だろう。けれどもソレは、あくまでソレを語る女の生まれ持った身体による経験でしかない。


 なので、それがまるごと通じるなんて事は早々起こる事ではなく、大半の淑女は『聞いていた話と全然違う!?』と憤りを覚えるのがある種の通例みたいになっていた。


 ……そんな時、『魔女』がその手の知恵……女の知恵を授けてくれる……つまりは、勉強会を開いてくれるという通達が王家より成された。


 これに関して、各家の反応は主に二つに分けられた。



 一つは、魔女の言う事など……と、半信半疑だった家。


 もう一つは、またとない機会、是非にと乗り気だった家。



 熱意の違いこそあるが、魔女の教えを受けられる機会なんて金を積んでも得られない。そもそも、魔女に会えること事態が稀なのだ。


 だから、どの家も即日に返事を送り……結果、3日後には、王都に住まう貴族の淑女、計25名が先行する形で王城の敷地内にある屋敷へと参上する事となった。






 ……。


 ……。


 …………さて、当日。



 さすがに25人が入れる部屋は無いが、かといって、貴族の淑女を青空の下で勉強させるわけにはいかず、内容もまた大っぴらには出来ない。


 故に、屋敷の中で一番広い部屋に当たる応接間(とはいえ、応接間として使われた事はない)を臨時的に勉強部屋として使用することで、問題をクリアした。



 もちろん、男子の立ち入り厳禁である。



 出入り口は当然、窓の外にも近衛騎士(女)が見張りをしているので、間違って入るようなことは出来なくされている。


 これは、国王とて同様である。まあ、強権で押し通せば入室も可能だが……まず、しないだろう。


 なにせ、この部屋に入るということは、『俺は女性の秘事に興味津々で、知る為ならば無理やりにでも押し通る!』と暗に示したも同じ事だ。


 これで強引に通れば、それこそ変態も同じ。貴族社会において、もはや取り返しのつかない悪評となってしまう……というわけだ。



 ──で、本当にただの勉強会なので、普段の恰好で出てきた淑女たち。



 王妃も参加している手前、誰しもが緊張している。


 けれども、同時に、彼女たち自身は……家の思惑とは異なり、『魔女』の知恵というものをあまり期待はしていなかった。


 というのも、ひっそりと独りで暮らして魔法の研究に勤しんでいるというイメージなのが、魔法使いであり、魔女だ。


 加えて、今回の講師であり、王妃に雇われている魔女は、主に薬学に精通しており、普段は王妃の治療に当たっているという話だ。



 ……教えられるにしても、魔法や薬草からの知恵だろう。



 そう、彼女たちの誰もが考えていた。


 実際、この勉強会を開き、場所を提供した王妃も、話を王妃より聞いていた王女も、多少なり違いはあっても、おおよそ同様に考えていた。



 ……。


 ……。


 …………だが、しかし。



「──いいか? まず、私がお前たちに教えるのは……男の性欲と、ち○○に関してだ」



 初日なので、最初は当たり障りのない挨拶と、知識の擦り合わせに終始すると……誰もが薄らと考えていたのだが。



「男というのは女が思う程に図太くはない。疲れていたら普通に立たないし、気分がズレていたら立たないし、何なら萎えて立たない事も普通にある」



 まさか、初っ端からフルスロットルな授業が始まるとは……さすがの王妃ですらも、想像すらしていなかった。









 ──さて、話を少し戻して、勉強会が始まる時間……ケットが勉強部屋にやってきた時から始めよう。



 部屋に入っていたケット(魔女)を見た時、貴族の淑女たちは……表にこそ出さなかったが、内心では、まあこんなものかと若干の落胆を覚えた。


 まあ、淑女たちがそう思うのも無理はない。



 何せ、ケットの恰好は何時も通りの……仮面にローブ姿だったからだ。



 加えて、おそらくは薬草の類なのだろう。


 ローブに浸みついているのか、あるいは身体に浸みついているのかは不明だが、何とも表現し難い独特な臭いを放っていた。


 いちおう、悪臭ではない。嗅いだ事のない類のソレだが、悪くは感じない。


 どう言い表せれば良いのか……嗅いでいると、スーッと胸の奥がスッキリしてくるような……そんな感じの臭いだろうか。


 どうにも、気持ちが落ち着いてくる……ような気がする。


 おかげで、我知らず緊張していた淑女たちの誰もが、そっと肩の力を抜いていた。もしかしたら、意図的なモノなのかもしれないと、淑女たちは密かに思った。



 ……で、話を戻すけれども、肝心のその姿には驚いたが、淑女たちにとってはそれだけであった。



 まあ、見た目で知識を図るのは愚者のやる事だが、これに関しては(事情が事情だとしても)ケットの方にも問題がある。


 むしろ、表面上は完璧に生徒として振る舞った淑女たちは、教育が行き届いていると評価しても良い場面であった。



「──私の名はケット。普段は『大森林』に引き籠っている魔女だ……短い間だが、よろしく頼む」



 そうして、ケットが自己紹介をして……この時も、淑女たちは一様に驚いた。


 何故なら、こういう場合、ケットを紹介するのは王妃の役目であるからだ。


 あくまでも王妃が主導になって動いて、ケットは王妃の指示に従っている……という建前を見せなければならない場面である。


 相手が魔女であろうと同じ。王妃が上、ケットが下だ。


 故に、淑女たちの視線が一斉に王妃へと向けられ……苦笑する王妃の姿を見て、彼女たちの誰もが思い思いに察した。


 なので、既にこの時点で……淑女たちの誰もが、この勉強会は、ソレにかこつけた顔合わせなのだろうと判断した。



 ──思い返せば、グエン王子の評判がここ最近よろしくないという話は、どこの家にも大なり小なり届いていた。



 と、なれば、ある種の牽制なのだろう。いや、そうに違いない……と、淑女たちは思った。


 王妃が招いたとはいえ、わざわざ王女まで参加しているのだ。これで理由を作って参加を避けようものなら、それだけで王家から睨まれかねない。


 さすがに、それだけで隅に追いやられる事はないだろうが……それでも、集まった淑女たちは我知らず気合を入れて、勉強会へと臨んだ。



 ……。


 ……。


 …………で、始まったのが冒頭の台詞であった。



 これには……平静を保つ教育を受けている淑女だけでなく、様々な内容を予測していた王妃も、想像すらしていなかった王女も、思わず面食らった。




 ……いや、まあ、そりゃあそうだ。




 だって、このファンタジー世界……性教育と言われても、その内容は貴族であってもそれほど多くはない。



 せいぜいが、月経の苦痛の軽減(効果不明)。


 男をその気にさせる方法(効果不明)。


 子を孕みやすくする方法(効果不明)。


 母乳を出やすくする方法(効果不明)。



 だいたい、主にこの四つだ。他にもあるが、重要視されているのがこの四つである。


 もちろん、この四つは個々人の経験から導き出されたモノしかないので、効果の程度には個人差が……といった感じである。


 そんな中、ケットはそのどれでもない、男の性欲と……に、触れた。これは、この場に集まった誰もが初めて耳にする話であった。



「……その、ケット殿。男の性欲と……ち○○とは、いったいどういうことなのですか?」



 ざわざわ……っと。静かだった勉強部屋に広がる、ざわめき。


 はしたないと誰もが自覚しつつも、互いに動揺を隠しきれず、こそこそと話し合う淑女たち……その中で、代表して質問したのは、王妃であった。



「どういうことも何も、そのままだ」

「そのまま……とは?」



 聞き返せば、ケットは……軽く息を吐いた。



「その反応で薄々察したが、やはり全員が、程度の差こそあっても、かなり思い込んでいる部分があるようだな」

「……と、言いますれば?」

「なぁに、難しい事じゃない。ただ、お前たちが思っているよりもずっと、男のち○○というのは繊細で、そして、性欲があるからといって、必ずしも夜伽をしたいというわけではないのだ」



 ──えっ!? 




 それは……この場に集まった淑女たちにとって、非常に聞き捨てならない言葉であった。


 何故なら、彼女たちがいずれ何処ぞの男と結婚した後で、真っ先に求められるのは……夜伽であり、妊娠と出産だ。


 家の力関係などによって違いは生じるが、まず子供を身ごもって跡取りを生む……淑女にとって最初の大仕事が、それである。


 そんな彼女たちにとって、『男は夜伽を求めているわけではない』というような話をされてしまえば、とてもではないが平静を保てるわけがなかった。



 ……と、いうのも、だ。



 現代では想像し辛いことだが、このファンタジー世界の貴族に生まれた淑女にとって、子供を産むというのは現代以上に重要な役割である。


 故に、年頃になった淑女たちは、事前の心構えを始めとして、事前の準備や妊娠中にしてはならないこと等を学ぶのだが……しかし、これは……。



「あの、それは、私たちに娼婦の真似事をしろと仰るのですか?」

「なんだ、娼婦の真似は嫌か?」

「い、いえ、そういうわけでは……」



 間髪入れずに問い返せば、尋ねた淑女は気まずそうに視線と声を落とした。



「安心しなよ。真似をしろって言われたって、本物の娼婦の技を一ヶ月二ヶ月で習得出来るものじゃない。特に、鈍った貴族の淑女たちがソレをやろうと思ったら、最低でも1年ぐらいは掛かるからな」



 だが、続けられたケットの言葉に、誰しもが……いくらか不快感を露わにして、直後にそれを隠した。


 娼婦の真似をしたいとは思わないが、お前らでは真似出来ないと言われるのは……ある意味、屈辱であった。



「──さて、少しばかり話の筋がズレた」



 そんな彼女たちを他所に、ケットは欠片も気にした様子を見せることなく。



「私が言いたいのは、女体の色気を過信するなという忠告のようなものだ。そして、その過信に胡坐を掻いていると……妾を作られて、そのまま放って置かれる事になるぞという忠告でもある」



 その言葉と共に、ケットはあらかじめ用意されていた椅子にゆっくり腰を下ろす、と。



「では、始めよう。改めて、話を戻すぞ」



 集まっている女たちを順々に見やり……授業を始めた。



「……いいか、男の種というのはな、基本的に連発は出来ない。そして、一発出すと相当に疲労する。連発出来る時もあるが、そんなのは若いうちだけだ……ここまでは、いいね?」



 一様に頷く淑女たち。



「そして、ここからがお前たちの誤解なのだが……ち○○というのは、実のところ当人が意識して制御出来るものではないのだ」

「……そ、そうなのですか?」

「そうだ。何もしていなくとも立つ時があれば、妙齢の女体を見ても立たない時もある。さて、ここで重要なのが……立たなかった時の反応だ」

「反応、ですか?」



 首を傾げる淑女たちに、「これはな、間違っても男連中に尋ねる事じゃないから、気を付けるのだぞ」ケットは続けて忠告した。



「結論から述べよう。男の性欲というのは何も、ち○○が立つ事が全てじゃない。そりゃあ、出すのが一番だが……時に、その前の段階で限界の時がある」

「前の段階……?」

「はっきり言えば、乳や尻や太ももを触られるだけの時だ。行為は始めないぞ、そこから先に進もうとしない夜が、必ずどこかで訪れるのだ」

「……それが、なにか?」



 訝しむ淑女たち(心当たりがあるといった者も……)と、ちょっと顔を赤くしている王女。


 そして、思い当たる節があるのか、王妃は何処となく真剣な眼差しであった。



「抱きたいとは思っていても、どうにも立たない時がソレなのだ。つまり、性欲はあっても、ち○○が立たない状態だ」

「──おおっ!」

「もちろん、例外はあるけれども……そういう触れ合いに終始しようとしている時は、要注意だぞ。ここで対応を誤ると、一気に寝室へ訪れる回数が激減するからな」



 驚く彼女たちを尻目に、ケットは「己に置き換えて、想像してみろ」話を始めた。



 ・・・・・・・・・・



 夫の務めとして、そして、妻を愛する者として、性交渉をしようとは思っている。


 しかし、どうにも疲れている。仕事に関する心配事もあるし、明日の事もある。後継ぎを早めに……そんな考えも脳裏を過る。


 と、同時に、だ。


 性交渉をしたいとは思っているが、ぐっすり休みたい気持ちもある。グラス一杯の酒を飲んで、静かに眠りたい気分でもある。


 そうして、今日はどうするべきか悩んでいると……ふと、妻から夜のお誘いが。


 妻からのお誘いとあっては、行かねばならない。多少の疲れなど物ともせず、寝室へと足を運ぶ。


 ……そこで困った事が一つ。どうも、股間の元気がない。事前に精力剤を飲んでいるが、どうにも効果が薄い。


 しかし、妻はその気になってしまっている。夫として、男として、立たないので今日はもう……そんな事、とてもではないが言えない。


 だから、一生懸命頑張る。妻に口づけを交わし、身体を触り、どうにか元気になるのを祈りながら気分を盛り上げてゆく。


 ……だが、立たない。いや、立ってくれてはいるが、どうにも以前に比べて元気が足りない。


 さあ、困った。これでは、途中で力尽きるかもしれない。


 せっかくのお誘いなのだから、是非ともお互いに満足したいし、させたい。でも、考えれば考える程、元気が無くなってゆくような気が──。



 ・・・・・・・・・・




「そこで、元気のない夫の股間を見て、妻が一言」

「そ、それは、なんと?」

「『今日は駄目なのですね、ごめんなさい、また別の日にしましょう』……これがもう、グサッと胸に突き刺さる。特に、妻を想う夫であればあるほど、傷が深くなるのだ」

「だ、駄目なのですか!?」



 何やら顔を青ざめている一部淑女たちに対して、「むしろ、どうして駄目ではないと思った?」ケットは首を傾げて答えた。



「夫からすれば、精一杯頑張っていたのだ。それなのに、その努力など初めから無駄だったかのような慰め方をされてしまえば、気分も滅入るというものだ」

「……ち、ちなみに、もしそれをやってしまったとしたら?」

「それとなく理由を付けられて、誘いを断る回数が増えるかもしれない。そこの青ざめているお前たちは、最後に枕を共にしたのは何時だったか覚えているか?」



 ……。


 ……。


 …………青ざめている淑女たちが、指折り数えて……その回数が増えるたび、目に見えて肩を落とし始めているのが……あまりに気の毒であった。


 彼女たちに、悪気があったわけではない。ただ、タイミングと言葉のチョイスが悪かっただけである。



「……あ、あのう」

「ん?」

「この場合、どうすれば正解だったのですか?」



 尋ねてきたのは、青ざめていない淑女たちと、王女。あとは、何処となく焦った様子の王妃であった。



「……これといった正解は出せないが、無難に、そこへ至る前に満足してしまったとでも言えばいいと私は思うぞ」

「そ、それだけですか?」

「それだけって、それが重要なのだ。夫からすれば、妻を満足させる事が出来た事実が残るからな……あとは、適当に乳でも押し付けていれば大丈夫さ」

「ち、乳を、ですか?」

「男なんて、特に理由はなくとも乳を押しつけられたら気分が良くなる生き物だ。元気になったら、そのうち夫の方から夜這いでも仕掛けてくるだろうよ」



 そう答えれば淑女たちは、なるほどと互いに顔を見合わせて……何やら、王妃が陰でこっそり安堵しているのが見え……止めよう。



「……す、救いはないのですか?」

「ん?」



 さて、結論を簡潔にまとめたけど、ここからどう話を広げるか……そうケットが考えていると。



「救いは……救いは、ないのですか!?」



 まるで、地の底より噴き出したかのような、そんな悲鳴と共に青ざめていた淑女たちが再起動を果たした。


 真剣な眼差し(ちょっと、涙目)と共に助けを乞う、その姿に……ケットは、元男(前世の事だし、数百年以上前の話だけれども)として、アドバイスを送る事にした。



「とりあえず、身体を磨け。綺麗にするのもそうだが……そうだな、尻を鍛えて形を良くしろ。大きさに好みのこだわりがあっても、形の好みはほぼ同じだと思うぞ」

「お、お尻ですか?」



 予想外の言葉だったのだろう。


 困惑した様子で互いに顔を見合わせる淑女たちに、ケットは一つため息を零すと……椅子から立ち上がり、背を向け……ぺろん、とローブごとスカートを捲った。



 ──途端、露わになったのは……もはや、説明する必要はないだろう。



 ローブを下ろせば、見惚れていた女たち(王妃たちも)がハッと我に返る。直後、彼女たちは互いに今しがたの光景を信じられず、囁き合っていた。



(……念のため、鎮静作用の成分を強めに出しといて良かった)



 一部の淑女の反応が、嫌な予感を覚えるアレだったことに少しばかり警戒しつつ……ケットは、はっきりと断言した。



「いいか、胸は生まれ持った才能だが、顔は技術で補える。そして、尻は努力だ。私の域に達することは難しくとも、近づくことは出来る」

「は、はい!」

「男性用の精力剤も用意しておく。何をするにしても、最初の一歩を踏み出すのが肝心だ……やれるね?」



 ──力強く。それはもう、力強く頷く淑女たちをの姿を見て。




(よし、貴族の女が私の味方に付けば、ますます、ぐぬぬ王子は私に近付くことが難しくなるぞ)



 ケットは……ひとまず、これで安心できると、内心にて安堵のため息を零すのであった。




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