第三十五話 疑点
数分前、塵世の神であり、守護神の子とも呼ばれるアルボルシューと弟のサイドハックはセミトスとかなり苦戦していた。遠隔支援をサイドハックに任せてはいるが、塵世一位か二位の光属性による彼の攻撃は今のセミトスの動きを鈍らせる程度しかできない。
ドムがグラシューと戦っていた時の様子と似ているのは、セミトスの全身に血管のような赤い魔力の糸が付着していることだ。元々人型のような身体構造は彼の攻撃と伴い不規則に変化しつつある。そして魔法で戦っているわけではなく、まるで液体のように変わっている体は小惑星ほどの莫大な拳でアルボルシューに打つ。だが本体の大きさは以前とほぼ変わらないままだ。
サイドハックが射った巨大な光の矢はセミトスの腕を貫通し、その大きさの三分の一ほどで威力を弱めるつもりだったが、痛みを知らない逆世の悪魔はここで狂犬に化す。破壊の剣に斬られた時ほど威力は強くないが、ここまで連続攻撃されるとアルボルシューもさすがに耐えられない。だが、アルボルシューも受け身で攻撃を受けているわけではない。攻撃されるたびにアルボルシューの体は炎に変わる。それは威力を弱める効果があるだけでなく、彼でしか作れない最も純粋な炎で悪魔を焼き尽くすためだ。
アルボルシューは、セミトスが周囲の惑星を粉砕して欠片を吸収する前に、それらの欠片を焼き尽くさなければならない。彼らのようなレベルの強者は、星だけでなく、いくつかの惑星やその広い範囲の空間まで破壊することができる。これこそ彼らが本気を出して戦っているだけの実力だ。
セミトスの攻撃は何度もアルボルシューが防いだほか、周囲の空間による侵食の効果も取り除いた。しかし、何度も何度もセミトスはその不規則な腕を振り舞い、その動きによる空間の振動は続いている。
例えアルボルシューとサイドハックも、その攻撃を一度も受けないように避けたり防いだりしなければならない。そうでなければ、守護神から守りの力を頂いている彼ら元素の神でもオーズマのように堕落し、精神がコントロールされることを保証しかねない。最悪の場合、目の前の優勢を一瞬で逆転され、さらに兄弟を失う悲しみの結末になってしまうだろう。
アルボルシューは再び彼の血のような赤い戟を挙げた、この守護神から頂戴した武器もセミトスとの戦い中に徹底的に閉じ込められた力を釈放した、その戟の尖端から発散する熱量は恒星の表面よりも熱く、如何なる金属か岩でも近づけられる前に溶けてしまう。
今までアルボルシューと戦ったすべての悪魔の中で、誰一人としてセミトスに及ぶ者はいなかった。セミトスは間違いなく最強の悪魔だとアルボルシューは信じている。もし彼にも破壊の瞳があるなら、理論上に無限に強くなるセミトスは恐らくソロムネスよりも強いだろうとアルボルシューが推測した。
だが、勝算はある、アルボルシューは確信している。ただ、他の元素の神と合体して虹の神になったら、すべての生霊はその力の前に平伏すとしても、その莫大な力に伴い、推測できないリスクがある。それは、その破壊力が創造の瞳や破壊の瞳に次ぐからだ。
今、前までの敵と自分の弟のオーズマと戦った後、アルボルシューの魔力はますます貧弱になっている。神としての格、実力、どの方面から評価しても完璧に近い神の長男の彼でさえ、アルボルシューはやや力に欠けると感じている。目の前にいるこの悪魔、逆世ならまだしも、ここに来るまで一体どれほどの生霊を屠ったか、一体どれほどの星を塵にして自分の魔力源として転換させ、この日まで貯め込んでいたか。アルボルシューはその残酷な事実に直面している。その裏に想像が付かないが、彼の内心から強い正義感が湧き、必ずこの悪魔を万死にすると決意した。
だが、神である彼も、ほんの少しだけ無力感を感じた。すべての元素の神が合体したあと虹の神になる時、魔力は無限にも再生するが、今はその切り札がなくなり、完全にソロムネスの暗黒十字架に図られている。
なぜ前回の大戦中に彼はその十字架を出さなかったのか、なぜパーリセウス様に囚われてもなおドムは破壊の力を使えるのか、ソロムネスが破壊の力の源ではないなら、このセミトスという悪魔こそ本当に倒さなければならない敵だったのか。いや、今はこれらの問題を考える場合ではない。アルボルシューは満腹の疑問を抱えつつ、戦闘に集中しようとした。
アルボルシューは炎の戟を投げ出した。それはサイドハックが全身で照らした光雲のような光が化した数千本の鎖でセミトスの全身を束縛させたあとの追撃だった。その戟はセミトスの全身にある血管のようなものが全部爆裂して体に赤くて広い傷口のような中心となる部分に真っすぐ飛んでいく。あそこは要害のはず、当てれば勝てるかもしれないと二人の兄弟が推測したからだ。
セミトスの身体は一刻も止まらず、その皮膚内に液体しかないような身体を動かしている。そのあまりにも不安定な躍動感をし、不規則不審な動きをする躯体はいつか炸裂するのではないかと不安な気持ちを感じる。
アルボルシューが投げた炎の戟はセミトスに当たった。すると魔力の衝撃波は周囲に拡散し、目にも届かない距離まで届いた。途中に触れたすべての物に正義の炎を燃やす。彼の兄弟にせよ悪魔にせよ、この攻撃を防げなければならない。これはもうアルボルシューがほぼ全力の攻撃、風刹炎襲である。
だが、煙が消えたあと、セミトスの動きは止まる様子がなかった。アルボルシューとサイドハックは信じられないが、今はそれどころではない。早く次の攻撃に集中するしかない。するとサイドハックが進言した。
「アルボルシューよ、こいつはさっきから自分の身体をこんなに動かしているのはなぜだろう?まるで自分からその不安定な魔力を爆発させようとしているように見える。こうなったら攻撃で動きを止めるよりも、封印術のほうが良いのでは?」
「サイドハック、それは確かにあり得る話だ。ただ、アルサイドやパルーニはまだ苦戦しているようだから、なるべく早く片付けて創世帝様の元に合戦しなければならない。」
サイドハックは眉をひそめた。
「それは確かにそうだが、ややせっかちではないか?いや、待って、今、あなたが戟を当てた先にゲートのようなものを感知したぞ!」
サイドハックの光の鎖に縛られたセミトスの胸元に戟の攻撃による炎が徐々に消え、その周囲の光の鎖はまるで光る触手のようにセミトスの胸元に光を照らし、まるでセンサーのようなものだ。
アルボルシューも眉をひそめた。
「ゲートだと?彼の体にゲートを閉じ込められていたとは。つまりこいつの魔力源は人型のような魔力の結晶となる核心でもなく、精霊のような流動するコアでもなく、ゲートなのか?じゃあ彼が壊したものを魔力に変化させそのゲートに貯蔵しているということか。」
「そのゲートを簡易に壊す結果が予測できない。でも今はゲートの性質を分析するのも時間が足りない。アルボルシュー、どうする?」
「ゲートだけを封印する他に方法はないが、空間を歪めるほどの炎でさえ吸収されているなら、我々は打つ手がない。ならば、身体の他の部分をすべて焼き尽くそう。」
アルボルシューの表情は深刻だった。彼は白い手袋を脱ぎ、炎の両手を現した。そしてその炎は腕から彼の上半身に広がり、やがて全身を包み込んでいった。
「第一の炎、ホリー・ファイアか。アルボルシュー、気を付けて、そのゲートに吸収されないように。」
サイドハックは兄のアルボルシューに進言したが、彼は無言のままセミトスに向かって飛び出していった。まるでセミトスと共倒れするつもりのようだ。アルボルシューの考えを察したサイドハックは弓を構えて、無言でアルボルシューの攻撃がうまく通じるように補佐しようとしている。彼の表情も極めて真剣だ。
だが、この時、セミトスは身体を爆発させ、すべての光の鎖を崩壊させた。赤い液体が漆黒の炎に変わり、まるでセミトスの身体が真っ黒な恒星になっているかのようだった。そしてセミトスは向かって飛んでくるアルボルシューの背後に、弓を構えたサイドハックを見た後、セミトスの口元が歪んで、彼独特の不気味な笑顔を浮かべた。
アルボルシューは全身を燃やし、セミトスに近づいていく。そして彼の背後にサイドハックが発射したいくつかの光の矢も共に飛んでいる。だが、彼がセミトスに触れる前に、セミトスの姿は影のように消えてしまった。
「しまった。」アルボルシューは振り返ると、彼の目に映ったのは、光の結晶がいっぱい飛んでいる中で倒れたサイドハックと、彼の背後に爪を伸ばしたセミトスの姿だった。
キングス・ワールド 昂 あきら @Isyou
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