第三十二話 剣心境界 

 ソロムネスは自分の後ろにいるパーリセウスを見て何も言わずに素早く大剣を振り、パーリセウスを斬る。霧のような破壊の力が彼の顔に纏っていてはっきりと見えないが、それでも口元の緩みが透けて微かに見える。

 破壊の剣はどんなものも破壊できる、増して滅世帝のソロムネスが両手で振った。

 だが、創世帝のパーリセウスは手が握っている。まるで黄金で作られた片手剣で受け止めた。それは破壊の剣と唯一同格の武器、創造の剣だからだ。

 そしてパーリセウスは左手で創造の剣と同じ模様の剣を持ってソロムネスに刺した。ソロムネスはその一撃を防げようとしたが大剣では間に合わない片手剣の利点のスピードだった。黒い霧と鎧を貫通し確実にソロムネスの右肩に刺した。

 なるほど、左手が持っているのは幻想の剣か。

 ソロムネスは左手で自分の肩に刺した剣を抜こうとしているが、その剣から黄金色の魔力が注入され続けるため、ソロムネスの右半身が麻痺していて言うことを聞かない。

 同時にパーリセウス後ろの扉から光が伸ばし、パーリセウスとソロムネス二人を吞み込んだ。

 金色の光が徐々に消える、この闇の領域の宇宙の中、いきなり静かになった。


 だが、それも僅か一瞬のことだった。セミトスはやっと光の束縛や炎の燃焼から抜け出した。そして体からエネルギーを爆発させ、その衝撃波は周囲に拡散する、威力はアルボルシューの炎爆にも劣らない。

 この魔力の衝撃波はこの場にいる全員に及ぼした。だが、悪魔たちにとっては通常ではない効果をもたらした。彼たちの破壊の力を大量に補充し、さらに身体を強化した。

 そしてこの衝撃はマルフォンの体に固まった岩とクロルに纏わっている毒の茨などをすべて消した。

 逆にこの衝撃波は先ほどソロムネスに斬られて気息奄々のアルペルトにとどめの一撃を下した。破壊の力はアルペルトを丸ごと喰らった。自己犠牲の精神を持つ偉大なるドラゴン族の戦士がここ戦死したのは久々のことだ。だが、彼の死は周囲の人の闘志を著しく高める。

 アルボルシューは炎に化してそのままセミトスに飛んだ。いまのセミトスは恐らく体に閉じ込められたすべての魔力を解放している。風刹炎神になったアルボルシューもその脅威を感知し、この場に戦えるのは自分しかないとわかった。

 アルボルシューの動きを見たほかの虹の神も動き出した。アルサイドは迅速に詠唱をして自分の召喚獣を呼び出そうとしている。

 坎破水神になったパールニは新生したドムを迎撃する準備を整えた。スーズリオは自分の周りにいくつかの小惑星を作ってマルフォンと戦おうとする。彼の能力では岩が自分のコントロールされる限りマルフォンに誘爆されない。サイドハックはセミトスの動きを止めるために自分の魔力を大量に消耗したが、それでも決然とケーズと戦う。弓を持つ彼はケーズの剣心能力に影響されず優勢をもっているからだ。

 ボエトルは凌雲風神の状態になってすでにザンカフロスと戦っている。彼の隣にいるチェルヴァンは手伝おうとしているところ。先ほどソロムネスの居場所に転移魔法陣が築かれて、その中に出たのは体に纏う雷がバチバチとし、破壊の力で作られた真っ黒なボディスーツを着ている雷帝のモールソ・ノギだった。

 彼女の目に感じられるのは生者の輝きが見えず、ソロムネスの魔法により戦闘の傀儡と化された。

 ここで炎神の戦に邪魔させてはならない。心の中で決めたチェルヴァンは急いでノギのいる場所に向かい、空中で彼の両腕が宝石の刃に幻の魔力を注入した。彼は先にその災いを払うつもりだ。


 今、剣心境界内。

 【剣心境界】黄金色の芝生の上に二人の“巨人”がお互い大剣か双剣をもって戦っている。破壊の剣は一刻も止まらず周囲に破壊の力を拡散し芝生と空気を汚している。だが創造の剣が振られるたびにはその汚濁を一掃し、神聖なる気配は破壊の力と相殺し周囲の戦いによる痕跡を瞬時に修復し続けている。

 剣と剣がぶつかり合いの澄んだ音は鈴のようか、時には大地を震わすドラムのような律動が広がる。

 絶対なる力の前ではどんな魔法も無意味である、ソロムネスとパーリセウスの戦いは究極な近接戦と言えるだろう。

 ソロムネスは破壊の剣をパーリセウスの頭に向けて斜めに持ち上げて構えた。左手と右手は交互に握っていて剣の重心を左手にし、右手は剣の角度を調整している。身体を側めて攻守一体の構えをするソロムネス。

 その対面で、パーリセウスは右手の黄金色の剣を持ち上げ、隙間があると下に斬るかソロムネスの斬撃を受け止める構えをし、左手では若干前に出し、ソロムネスに脅威を与える。真正面を向けるパーリセウスは攻める姿勢で臨んでいる。

 先に速度を活かして動き出したパーリセウスは左手が握っている黄金色の剣をソロムネスの腰に刺し、ほぼ同時に右手ではソロムネスの面に刺した。

 ソロムネスは剣の角度を調整し剣の尖端で攻撃を摺り下ろし、そしてすぐに腰を下ろして剣の柄でパーリセウスの上段の攻撃も摺り上げた。パーリセウスの剣先がソロムネスの目の前に通過した瞬間、魔力が空間を捻じ曲げて、剣の先は太陽よりも熱く、破壊の力に加護されていなければ瞬時に蒸発されるだろう。

 だが、この一瞬もソロムネスはわかった。今もパーリセウスは右手が創造の剣を握っていること。すると彼は破壊の剣を振ってパーリセウスの胸に斬る。

 一方、パーリセウスは剣を刺したあとそのまま勢いでソロムネスの左側に進み、同時に左手は摺り下ろされた幻想の剣を盾に変化させた。ソロムネスの斬撃は盾に擦って上空の島を一刀両断した。天空まで届いたが、赤い六芒星の魔法陣に触れた瞬間消えた。

 パーリセウスは一歩進み、ソロムネスの背中に歩く途中に盾を再び創造の剣と同じ外見にさせ、そして迅速にソロムネスの視線の届かない死角で両手の剣を交換した。今は左手が創造の剣を握っている。

 自分の斬撃が当たらなかったため、ソロムネスは急いで前に一歩進んで背中にいるパーリセウスから離れ、そして後ろを向いた。両手は破壊の剣を左右に二度と円を描くように振って先ほどと同じ構えをした。

 武器のぶつかり合いの音に気付いたか、先ほどソロムネスの斬撃で目覚めたのか。いくつかの浮遊島から天を覆うほどのドラゴンがこちらの戦場に駆けつけてきた。

 だが、かような景色にソロムネスは全く慌てていない。彼はもう一度破壊の剣を振り回った。すると剣の先から溢れ出す魔力は彼の体を覆い、さらにその魔力が狂い、噴き出す炎のようなか悪魔の翼の形か、この剣心境界の空気を電離し、大地を震わすほどの力がまだまだ増強する。

 パーリセウスはソロムネスの構えを見て一度双剣をぶつけ、自身からも双剣からもソロムネスと似ているような勢いで魔力を出し、湧き出す泉か天使の翼のようか、神聖なる気配はこの境界内にさらに増していく。

 破壊と創造、この二つの決して相容れない力はこの美しき境界の中で激突し続ける。


 一方、闇の領域内では、セミトスは完全に自分の力を解放した。真っ黒な体だったが、いまは赤い血液のような液体が彼の首、腕、心臓から垂れて、そのまま体に粘着している。まるでマグマのようだ。頭も完全に赤くなり、いまは目も口も位置を判断できないが、時々飛び散る火花のように魔力が体内から迸る。

 彼はまるで間もなく爆発する超新星のようなもので、この状態を見たアルボルシューは対策を練る。

 先、この悪魔は私に手を伸ばしただけで後ろの惑星を三つも粉々にした。攻撃力だけ考えれば私よりも上か。だが、私の炎とサイドハックの光が彼の破壊の力を相殺させた甲斐があって、今は自己回復力を失ったはずだ。本意ではないが、このまま延長戦になりそうだ。まずはこの場所から連れて離れよう。さすれば優勢は我が手に保つ。

 アルボルシューは戟を巨大化させ、セミトスに投げ飛ばした。それに対してセミトスは左手に握っている弓で軽く引っ張っただけで、流れ星のような破壊の力は矢となって戟にぶつかる。

 爆発が起き、黒煙がいと散らばる炎は流星群のように遠くに飛ぶ。突然、その煙の中からアルボルシューは全身に炎を燃やしながらセミトスに近づいた。彼はセミトスの頭と胸に両手で押したまま遠くまで加速していく。


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