第三十一話 大戦の始まり

 アルボルシューは戟を挙げて全身の魔力を運用し注入し続けている。

 その一方、セミトスは体にぶち込まれた光の力を破壊の力で相殺させながら、体の創傷を治しているが、グラシューに斬られた時の回復速度と比べて遥かに劣っていることが明確だ。

 アルボルシューが攻撃に力を蓄えていると同時に、サイドハックは自分の体を丸めた。すると彼の身の回りに輝く光はさらに強くなっている。そしてついに光は形を有し、楔に変わってセミトスに刺しに行く。

 すべての元素の中で、光属性の威力に勝る元素はあるものの、速度では決して劣らない光の力はセミトスが反応する前に彼の体にいくつかの光の楔が刺した。

 激痛を感じたセミトスの顔に赤い目と口は真っ黒な面の上に歪んでいる。セミトスの体から破壊の力が触手のように形が変わって光の楔を体内から抜き出そうとしているが、サイドハックも渾身な魔力で楔をコントロールしてより深く、より強く悪魔の体を侵食し、破壊しようとしている。一時的に二者の力はほぼ互角でそのままの姿勢で維持している。


 他の悪魔はこの状況を見て直ちに危機状態に陥ったセミトスを助けようとするが、彼らの相手である虹の神も竜の両翼もどれもただの相手ではない。

 クロルは鎌を持ってセミトスの方向に飛んでいる最中に背中から太い藤蔓が彼の全身を縛った。蔓の上にある無数の棘は麻痺の毒素を注入している。蔓自体も生命力や魔力を吸い取っている。不死身を有しているクロルでもこのような戦い方には不得意で脱出できない。

 その他、風圧に圧制されているザンカフロスは動けない。アルペルトの攻撃を巧妙に周辺に散らばっている星の残片で防いだマルフォンは岩の槍を持ってセミトスの方向に飛んだが、サイドハックの邪魔をさせないよう、隣のスーズリオはマルフォンの岩の槍を数倍増大させ、そして体の半分を覆った。これでマルフォンが爆発を起こしても彼自身を殺すと同然だ。

 能力が完全に食い止められたドムは水神・パールニに負けるのは時間の問題だ。ケーズは優れた剣心の力でなんとかチェルヴァンの攻撃の勢いを防いでいるが、他人を助ける余裕は微塵もない。このままではセミトスはアルボルシューの全力の一撃を受けることに違いない。


 アルボルシューは猛烈な火炎で燃えている戟を振り舞う。炎が経過している周囲の空間は捻じ曲げた。時間が加速されているように、アルボルシューの動きを見破ることができない。そしてついに、アルボルシューは戟をセミトスに投げ出した。

「風刹炎襲!」

 投げ出された戟は通過した空間をすべて燃やさせ、まるで空間自体が可燃物になったようになり、炎は猛烈な勢いで広がっていく。この一撃で含まれた魔力の総量はオーズマと戦って以来アルボルシューが使った魔力よりも上回った。暗化で破壊の力ももらったオーズマはもし自身の理性で戦っていれば本来の強さを発揮したはずだが、それよりも兄弟だから手加減をしたアルボルシューは今度こそ、憎い悪魔を欠片さえ残さず焼き払うつもりだ。

 

 だが、その時。

 セミトスの前に広い転移魔法陣が現れた。何らかの力で加速された魔法陣の作成や構築は僅かの一瞬のことだった。次の瞬間に姿を現したのは他ではなく、逆世で最も強い悪魔のソロムネスだ。

 ソロムネスは両手で背中の大剣、破壊の剣を取り出して剣に含まれる無尽蔵の魔力と共に炎に覆われる戟をぶっ飛ばした。その同時に破壊の力は波のようにアルボルシューの炎を圧倒し、斬撃の弧線そのまま維持しアルボルシューに向かう。

 戟を投げだしたアルボルシューは突然ソロムネスの斬撃に臨んで一瞬躊躇したが、左手を伸ばし防ごうとしていて右手は武器を取り戻そうとしている。

 変化の激しい戦場では一瞬の猶予も致命である。アルボルシューに万が一あればこの戦況は大きく変わると現場のだれもがわかっている。

 そして誰よりも早く体を動かしたのはアルペルトだった。サイドハックとほぼ同格のスピードを出せる彼はアルボルシューの前に移動し、渾身な力で光のバリアを作って斬撃を防ごうとしている。

 ただの破壊の力ならアルペルトのバリアに破ることができないが、逆世の最強な武器、破壊の剣は魔力のバリアはもちろん、如何なる世界の定則も能力もすべて突破し、完全なる破壊と約束された剣だ。

 光のバリアは破壊の力に呑み込まれ、破ってしまった。

 それでも自分の武器を取り出して必死にソロムネスの斬撃を防いでいるアルペルトの姿はいつよりも明るく輝いている。

 やっと、彼の努力によってその斬撃は僅かだが体の半分ぐらいしかない距離が偏って後ろのアルボルシューに被弾されない方向に飛んだ。飛び続ける斬撃は経過した星を真二つにし、通した空間に裂け目を残した。

 だが、アルペルトも右半身を失った。切り口から流れているのは極めて純粋な光の魔力だ。ドラゴン族というより光の精霊に近い彼は本来光の魔法で回復できるが、彼は残りの左半身を見て、その切り口に付着しているのは破壊の力だ。無数の蟻のように、彼の体を食い続ける。ここまでになると、もはや治癒も何もできない状態だ。

 アルボルシューは自分の僅か一瞬の躊躇に後悔をした。自分の炎ならたとえ破壊の剣によって斬られた傷に付着する破壊の力でも浄化できるが、今はそれどころじゃない。

 敵の大将がここにいるが、我々の王はここにいない。時期に転移してここに戻るだろうがそれまでの僅かな時間でもここで引き留めないと。

 アルボルシューは動き出した。その同時にアルボルシューの戟は主人の魔力に導かれ、アルボルシューの手に素早く戻った。貴重な戦力の幻光翼・アルペルトを見捨てることになってしまうが、ここでソロムネスに好き放題させて現状の優勢を逆転されるわけにはいかない。そうやって判断したアルボルシューは戟を振り回ってその動きがするたびに、惑星を丸ごと焼き払うほどの炎の魔力が震える。


 ソロムネスは久しぶりにアルボルシューとの対決を非常に楽しみにしている。間もなくパーリセウスもこの場に来るだろうが、今はこの瞬間を楽しみたい欲は彼を支配した。破壊の剣、その大剣を構ってアルボルシューの攻撃を防ごうとしている。

 先に手を出したのはアルボルシューだ。彼の戟はソロムネスに刺したが、ソロムネスが下から破壊の剣を振って戟を上に挙げて、ソロムネスに打ちそこなった。その同時に惑星を焼き払うほどの魔力を含まれている戟でも破壊の剣はその戟を真二つにした。刀身に溢れる破壊の力は戟の破片を飲み込んだ。アルボルシューの手に残ったのはただの杖だ。ソロムネスは上げた破壊の剣をそのまま下に斬って、今度はアルボルシューを真二つにするつもりだ。

 だが、戟の残りの部分を炎の力で再度戟の形にして、同時に炎爆の魔法を使ってアルボルシューは必死にソロムネスの真っ向切りを防ぐ。

 戟は破壊の剣に触れた瞬間形が崩れてしまったが、まず破壊の剣の勢いを防げた。その後アルボルシューの体から拡散した炎の衝撃波は破壊の剣を打ち飛ばした。その炎の衝撃波はソロムネスの体に霧か炎のような破壊の力を同時に浄化した。真っ黒な鎧の上にソロムネスの頭が一瞬白く見えた。

 だが再び真っ黒に戻ったソロムネスは破壊の剣を持って連続にアルボルシューを斬った。一度斬られた戟は崩壊してしまうが、ソロムネスの斬撃と同時に炎を戟に形を変化させ防ぐアルボルシューは全力で戦っている。

 自分の連続斬りを見事に防いだアルボルシューを見て刀剣での戦を存分に楽しんだソロムネスは破壊の剣をもって先ほどアルペルトを斬った一撃よりも魔力を上回った水平斬りでアルボルシューの腰に斬った。

 戟の再生が間に合わないアルボルシューは炎爆を使うのと同時に炎のバリアを張って後退した。そのおかげで致命的な斬撃の力を炎爆で弱めたあとバリアで防いだ。力の勢いで飛ばされたがなんとか無事だ。

 ソロムネスはさらに追撃しようとするところ、彼の後ろに巨大な転移魔法陣が展開されてそこから金色の光が照らし、周囲の悪魔の力を圧制した。

「随分と逃げ回っているな、ソロムネス。貴様自分の墓場をここにしたいなら叶えてやる。」

 転移魔法陣からパーリセウスが現れて、黄金のような片手剣を二本持っている。その背中に照らした十二色の光は扉を形成し、夢か幻のような景色を映している。

「さて、まず私の剣心境界に来てもらおうか。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る