第二十九話 戦争狂想曲
オーズマは二本の刀を振り回し、黒い刀身に波模様の紋章が刻印され、奇抜なオーラを放っていて人の命と魂を吸い取る魔力が込められている。刃の先は空間を切り裂くほど鋭い。
先ほどアルボルシューの攻撃を受けたオーズマは半分砕けたが、体を迅速に修復した。そして魔力も全く衰えず、さらに破壊の力に纏われて真の邪悪の神となってしまった。
彼の兄弟である他の六人の神々とドラゴンの両翼は鶴翼の陣を組み、ゆっくりと前進する。先頭のアルボルシューはしっかりと戟を握り、警戒しながら前方を見守っている。
セミトスの攻撃命令を待つ他の悪魔はそのまま構えているが、突然、オーズマは刀を振り、それによって引き起こした紫色の魔力の波は数百本の炎の矢に変化して射出された。
その炎の矢に迎撃するボエトル、パルーニ、アルサイドは、それぞれ魔法か武器で氷の刃、水の爆弾、巨大な棘を矢の数倍に増やして射た。しかし、これらの魔法は、炎の矢に近づくと燃え始め、徐々に動きも停止した。炎の矢に当たった後は完全に燃え尽きた。
アルボルシューは炎の魔力を解き放ち、迎撃するために炎の魔法を使おうとする時に、オーズマの隣にいるマルフォンが左腕を激しく振った。すると炎の矢は一瞬で爆発し、引き起こされた巨大な衝撃波が飛来する小惑星も粉砕した。
虹の神々と龍の両翼を囲む強い光のシールドは、このような激しい爆発に耐えて壊れてはいないが、前方のほうにやや割れてしまっている。恐らく同程度の攻撃を二度も受けられないだろうが、割れた黄金色の水晶玉のように破片が輝いて美しい。
オーズマとマルフォンの攻撃により光のシールドにひび割れができたのを見て、ドムは不思議な叫び声を上げた。彼の全身に黒い炎を巻かれていて姿がはっきりと見えないが、その炎の形が変化し、彼の顔には非常に邪悪な笑顔が表れている。ドムの横には全身の魔力を凝縮しているケーズが全く持って無表情で操られる人形のようだ。
ケーズとドムは巨剣と斧を振り回し、二人の動きは、死をイメージするデュエットのようだ。両者の武器から溢れた魔力の軌跡は破壊の力で汚された炎に変わり、絶えずぶつかり合い、収束し、強まる。まるで黒いバラのように咲き誇る。
全く手を組んだことのない二人は、ドムの絶技である「タイタンの剛腕」とケーズの絶技「冥炎・九竜怒鳴」の二つの魔力を一つにして、星さえも砕ける黒い炎の柱に纏った。
光のシールドからチェルヴァンが飛び出し、シールドの破片は黄金色の光を輝かせながらチェルヴァンと共に飛んでいく。鋭い光の破片がチェルヴァンの体に接触した途端、チェルヴァンの体に溶け込み、非常に奇妙な光景だ。
チェルヴァンは翼を広げながら、彼の前にある黒炎の柱に向かって直進し、残りわずか数百歩の距離まで来ると、「幻滅破!」と叫んだが、風神・ボエトルに与えられた空気のバリアは他人に声が届くほどの範囲を持っていないため、彼自身にしか聞こえない。そして彼の全身から広がる灰色の魔力の波はまるでアルボルシューの「炎爆」のように爆発した。その勢いと幻属性の力で経過した空間内のすべての物を破壊した。
炎の柱がその幻属性の波にぶつかると、二つに分かれて遠くまで飛んだ。その後、チェルヴァンの両手が「幻滅破」を操って同時に呪文を唄っている。すると拡散した球体となった「幻滅破」が突然灰色の盾に集まり、真っすぐと炎の柱に衝突した。
実に激しい魔力の衝突だが、何も音を立ててはいない。炎の柱は幻属性で構成された盾に当たって飛び散った。また、飛び散った炎も「幻滅破」によって放出されたわずかな幻の波紋によって消し去られた。
チェルヴァンは刃で構成された翼を広げ、同時に叫んだ。すると「幻滅破」によって形成された盾は、彼の右手が指す方向に体から離れ、圧倒的な力で炎の柱を抑制し続けた。だが、そうはさせないとマルフォンは再び左手を振って炎の柱を爆発させた。四人の魔力で引き起こした衝撃波は壊滅的な勢いで周囲に拡散する。光のシールドはこの一撃に耐えられず崩壊し、その破片は幻や炎に焼き尽くされた。
アルボルシューは手を上げて猛烈な赤い炎で衝撃力を相殺し、周囲の人々を守った。
スーズリオは眉を顰めた。
「この距離での爆発は彼ら自身にも被害を及ぼすだろう。これは何だ?自殺式の攻撃か?」
パールニは頭を振って水の力で爆発から戻ってきたチェルヴァンを治療している。その同時に遠くでは、衝撃波の強力な力に打ち砕かれ、そして全身の魔力を使い切ったドムとケーズは、すでに意識を失って宇宙の中で浮かんでいる。セミトスはパールニのようにドムとケーズの破損した身体と魔力を共に修復している。
その状況を見たアルサイドも眉を顰めた。
「まずい、セミトスも魔力を使ってドムとケーズを癒していて、魔力まで回復することもできる。そしてセミトスの魔力源はブラックホールのようなものであり、破壊するものが多ければ多いほど彼の魔力に還元するだろう、このままじゃ無尽蔵だ。」
「その通り、ただ短時間でセミトスを殺すことは不可能だ。彼の力はアルボルシューの力にも匹敵する。現状では彼の行動を抑え、その隙間に他の悪魔を殺し、最後に一緒にセミトスを倒すのが最善だろう。」
話した後、ボエトルはアルボルシューを見て彼の意見を尋ねようとした。
隣のチェルヴァンは敬意を表してボエトルに言った。
「それは良い方法です。まずその羽翼を切ってから決戦をさせるのはご賢明な判断です、さすが帝国随一の知恵です。」
アルボルシューはうなずいた。
「セミトスを殺すために私は力を残さないといけない、オーズマの実力は私の下だけだ。サイドハックとスーズリオ、セミトスの相手にできると思う?」
スーズリオは黙っているがサイドハックはしばらく考えてから答えた。
「少しの間なら彼の動きを止めるのはもちろんだが、できるだけ早く増援してほしい。彼は破壊の力によってさらに強化されているので、いつまで応えられるかはわからない。」
ボエトルもうなずいた。
「では決まりだ、アルボルシューは先にオーズマと対決する。サイドハックとスーズリオはセミトスと戦って時間を稼いでもらう。そして私はザンカフロスを倒す、ドムを殺すためにパールニの力が必要だ、不死身のクロルをアルサイドが封印させる。マルフォンの能力は厄介なものだ、アルペルト、君に任せた。それと、チェルヴァン、君はケーズを倒して。自分の敵を倒した後すぐにサイドハックを支援せよ。」
アルボルシューは先方にいる悪魔たちに振り返った。「これらの汚物を焼き払おうぞ!」
【雷の領域、メイン・スター・】雷帝・モールソ・ノギは落ち着いたふりをして、壊れた雷帝の宮殿中に巨大な姿を現したソライル・クロル・ソロムネスを見ている。創世帝・パーリセウスに任命されたばかりで、実力は領域内では認められてはいるが、王の器があるかどうかと疑われている小娘がいきなり王となったものだから、この場面でも彼女の人生では初だ。黄色のロングヘアは風に吹かれて全く王の余裕を示しておらず、その細い眉毛も彼女の緊張や不安を隠せない。
玉座の下で護衛となるサンダー・タイガーたちは強敵を恐れず、軽蔑な顔で宮殿の周りを環視しているソロムネスに咆哮した。そしてその虎たちの後ろにいるのはもっと大きな虎、サンダー・タイガーの王であるタイガーキング・ドゥードイだ。彼はすぐにでもソロムネスを切り裂けるほど強い眼差しでソロムネスを怒りのまなざしで睨んでいる。それはたとえソロムネスの腕ぐらいにしか大きくない彼でも構わない。ソロムネスは全く周りの宮殿騎士とサンダー・タイガーの攻撃の構えを気にせずに言った。
「お前が新しい雷帝か?」
ノギは少し頭を上げて誇りを持とうと答えた。
「き、貴様こそは誰ですか、炎帝によって召喚された悪魔ですか?」
ソロムネスは雷帝である少女の緊張を見抜いてどっと笑った。周りが困惑している際にソロムネスは手を出した。それはあまりにも瞬殺のことだった。
雷帝のモールソ・ノギとサンダー・タイガーキングのドゥードイを除くホールのすべての騎士とタイガーは一瞬にして生霊から灰に変えた。
この一瞬でできた出来事に驚く時間もないノギは、先代雷帝から伝わった記憶が蘇って何かを思い出したようにその主の正体に気づいた。
この笑い声に伴って引き起こされた魔法の嵐に呆然とし、震える声で叫んだ。
「あなたは!…」
彼女の話が途中になったこの瞬間、巨大な六芒星の魔法陣が突然空に現れて広がり、巨大な金色の光が雷帝の宮殿内に一掃した。
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