第二十八話 悪魔の名

【氷の領域】アクファのショックを受けた表情は恐怖と混ざり合った。彼はノールグラスの言葉を信じられなかった。

 まさか、氷帝・グラシューと共に戦っていた【極氷騎士団】の主力部隊である約三万人の極氷騎士は数百人の残党しか残っていないとのことだった。氷帝の近衛である騎士たちは石で潰され、爆発に巻き込まれ、生きたまま霊体にされたことなどを聞いて、アクファの手は本能的に震え、自分の理性を取り戻すのに時間をかけていた。

 アクファはゆっくりと頭をつかみ、今落ち着くために一生懸命努力した。宮殿の外に吹く風はさらに強くなり、白い大地は果てのないように遠く、遠くまで伸びている。外からの風か、吹くと氷の結晶でできたノールグラスの“長い髪”がちらちらと鳴り響き、元々はさわやかで心地よい鈴のような音が悲しい曲を奏でた。

 久しぶりに、アクファは落ち着いて頭を上げた。

「ノールグラス様、謙虚な僕の無礼と臆病をお許してください。なぜ氷帝・ポールトル・ノール・グラシューがあなた様とご一緒に戻ってこなかったのでしょうか。戦況を創世帝様に報告していらっしゃいましたか?」

 アクファの銀白色のローブが風になびき、彼の薄い体を明らかにした。ノールグラスはアクファが落ち着くまで遠くにある城を見ていた。城の方では外の強い吹雪の中で依然として明るく、ノールグラスはそっと口から冷気を吐き出した。

「彼はソロムネスの破壊の力で闇に落ちてしまい、完全に堕落した…」

その言葉を聞いて、アクファの目の先が真っ白になった。せっかく落ち着いた心は虚無に落ち、長い間、一言も言わずにそのまま跪いた。


 ノールグラスは遠くの城を眺めながら話す。

「氷の領域は今最も危険な時期に陥った。短期的には悪魔に反撃する見込みはない。後に炎の領域や逆世の大軍が侵攻するだろう。しかし現在最も重要なのは後継者のことだ。幸いなことに、ポールトル王室はまだ血筋が続いている。アクファ、始祖の氷帝の名においてここで命令を下す!アルシェ・アクファの摂政を許可し、同時に氷蓮の執行官をガルマ・ロックに命ずる。アクファ、もう迷う時間がない、すぐにでも氷帝の相続人、グラシューの娘であるポールトル・ノール・グリネートの即位式を準備せよ。」

 アクファは無表情のまま、ノールグラスの命令に従い、ゆっくり立ち上がった。

 宮殿の外、永遠に止まらない吹雪の中で、ほかに建物がなく、高く聳え立つ氷の宮殿はこの真っ白な世界では少し寂しい風景だと感じる。


【闇の領域】虹の神そのうちの六人、アルボルシュー、光神・サイドハック、地神・スーズリオ、木神・アルサイド、風神・ボエトル、水神・パールニ達は宇宙に浮かんで、目の前崩壊しているケール星を眺める。アルボルシューの【炎爆】で崩壊した星の残骸が燃え尽きることなく、少しずつ灰となり、ゆっくり周囲に漂う、まるで数千万の流れ星のようだ。

 光神・サイドハックは前方を見ながら警戒しながらゆっくりと両手を上げて金色のシールドを広げた。ドラゴンの両翼である刀剣翼・チェルヴァンと幻光翼・アルペルトは、虹の神の右方から飛び、神々に敬意を表した。その後、アルペルトも両手を上げて金色のシールドを広げた。二つのシールドは重なり合い、融合する。保護力は数倍に強化され、星の残骸から衝撃されても破壊の力でも壊せないほど頑丈だ。

「アルボルシュー、我々は別の惑星に退却して防御するか、それともこのまま攻撃するか。」

 光神・サイドハックは炎神・アルボルシューに問いかけたが返事がなかった。その代わり風神・ボエトルが手で額を軽く触れてサイドハックの質問に答えた。

「攻撃が、現在の状況では最大の防御だろう。」

 彼らの後ろにいる水神・パールニは眉をひそめ、隣の木神・アルサイドに振り向いた。アルサイドはパールニの視線に気づいて、そしてパールニの言いたい事をすぐ理解した。彼は頷いて風神・ボエトルに異論を述べた。

「それはどうかと思う。まず地盤を固めて彼らを一体ずつ撃破するのが上策ではないか。悪魔は強い、我々でも一気に撃破できない。」

 地神・スーズリオは、非常に低い声で発言した。

「我々に時間がないのだ。ソロムネスもすでに脱獄した。創世帝の【創造の瞳】による【瞳の守護】はもう機能しなくなっただろう。祭壇や儀式など何も用意しなくても、ゲートさえ開ければ逆世の悪魔は簡単に侵入してくる。」

 アルボルシューは、地神・スーズリオにうなずき、少し命令の口調で言った。

「共に攻撃だ!」

 だが、彼らが前に急いでいる間、水神・パールニは突然言い出した。

「待って! あれは何だ?」

 巨大な黒い球が突然、元のケール星の位置に現れた。その大きさはすべてのケール星が分裂した残骸と塵をむさぼり食い、まるで真っ黒い太陽のように成長した。そして次の瞬間、巨大な黒い球は非常に速い速度で縮小し分散した。邪悪な魔力は霧のように纏い、吸収された。その中から悪魔の奇妙な体と王者の姿が現れた。

「ケール星の残骸を魔力に変えた悪魔は、おそらく全身漆黒で瞳だけが真っ赤の怪物だろう。彼は同時に他の悪魔に力を与えることができる。」と、チェルヴァンは言った。


 風神・ボエトルは周りを見回してから周囲の者に向かって話した。

「強い光のシールドが展開されたので、例え悪魔が攻撃を仕掛けてもそれをしばらく保持することができる。今こそ敵の情報を共有するのに最適な時期だろう。我々はすべての悪魔と一度やりあった。今から私がすべての悪魔の能力について説明するよ。悪魔の称号は私の好みでいいね、アルボルシュー?」

「できるだけ簡潔に。」

 アルボルシューは前を向きながら答えた。

「光の連合軍の情報によると、今回最強の悪魔は毀滅者・セミトス、即ち滅世帝二世だと公言している。」

 アルボルシューは冷静に前方にある一番大きい黒い球を見て戟で指差した。

「あれがアルペルトと戦っていた悪魔だろう。」

 アルペルトは黄金の剣を握り締め、うなずいた。

「不死者・クロルはアルサイドが対処していた悪魔だ。今わかるのはほぼ狂気のスピードで自分の体を修復することができるが、攻撃能力は弱い。」

 防御が専門の木神・アルサイドの手に持つ木製の盾が震え、その上に敵の魔力を吸い取る毒が付く棘がたくさんある。

「邪御者・ザンカフロス、攻撃手段は彼の鎧だ。」

 アルボルシューはサイドハックの方に振り返った。サイドハックはすぐに彼の言いたいことがわかったようでうなずいた。

「爆破者・マルフォンは、能力は氷、炎、岩、破壊の力を爆発させる。光や水などを爆発させることができないことが知られている。そこから推測すれば、形状があるものか点火できるものを爆発させると思う。」

「風神・ボエトル様が言ったこれらの四体の悪魔は、ドムが逆世から召喚した悪魔たちで、これまで渡り合ったことはない。」

 チェルヴァンが突然追加の説明をした。

「チェルヴァンによって封印された黒氷の騎士ポールトル・ノール・グラシューは、もともと氷帝だったが、ソロムネスの影響を受けて闇に落ちたのだ。 戦闘力は現時点では不明だが、爆発がどこに向かっているのかはわからない。」

 チェルヴァンは軽蔑的な表情で笑った。

「今回は彼の攻撃の不備によって引き起こされた一連の災害だ。」

「滅亡の炎・オルカ・ドム、前回の大戦から炎帝としてソロムネスに忠誠をつくした。ソロムネスを封印深淵から釈放した後、ソロムネスからさらなる破壊の力を与えられた。」

「それでももろいものだ、セミトスに体を修復してもらえなかったら取るに足らない。」

 パールニは軽んじている、その隣にいるスーズリオの口の角がわずかにそびえ上がった。

「闇帝・ケーズ・ロミールは悪魔ではなく、氷帝と同じ闇に落ちた…」アルサイドはボエトルの話に割り込んだ。「闇の領域にいる魔族は、古代に逆世の侵略によって残されたダークエルフと交配した種族であり、即ち悪魔だ。」

 アルボルシューは振り返らないで言った。

「彼の話を最後まで聞いて、アルサイド。」

 ボエトルはうなずいて話を続けた。

「最後の一人…我々の兄弟だ。邪神・オーズマ。」

「物事がこのように発展するとは思ってもみなかった…」

 スーズリオの低い声は、沈黙しているこの場にさらに雰囲気を重くさせた。

「帝国の神聖と栄光のために、我々は彼を殺さなければならない…」

 アルボルシューは皆に向き直った。

「いや、アルボルシュー。彼を浄化するのに他に方法があるだろう。」

 サイドハックは眉をひそめ、少し震えた。

「間もなく創世帝・パーリセウス様はソロムネスともう一度決闘をするだろう。サイドハック、あなたもわかっているはずだ、彼のような者を浄化する代償はどれほどか、龍吟の剣を今借りるのはいくらでも無理がある。」

「なら守護神の力であれば…」

「守護神の領域は不可侵で、純粋で汚染をしてはならない。あなたの気持ちはわかっている、だが理想郷の平和を妨げてはいけない、太古から平和を守るのが我々の責任だ。」

「オーズマは私たちの兄弟だ!そして、彼なしでは虹の神に変身することはできない。あなたは宇宙全体を守る重荷をたった一人に背負わせたいか?」

「もういい!サイドハック!言うまでもない、他に選択肢はないんだ。ソロムネス以外の悪魔は我々がここで片付ける。」

 アルボルシューは話を切り上げて前に振り向いた。誰も見えなかったが、彼の目に何かが少し輝いているようだった。

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