第二十六話 摩羅
【氷の領域、ノール星】には古代の絵文字が書かれており、ダイヤモンドのように輝く宮殿の中で氷蓮の執行官・アクファは第六階層への階段を登った。
第六階層は四角形の回廊の形で築かれている。四つの方向から入れる部屋は異なり、部屋までの通路も迷宮のように曲折している。部屋の扉の上には氷族の文字があり、それぞれ部屋の役割を表す。
アクファは階段を登った後、扉の前で止まった。扉の左右には二人の氷族の兵士がおり、アクファの姿を見た後に跪いた。
アクファはその二人の兵士に微笑みながらうなずいた。人間味を感じさせない表情を持つ帝王と違い、誰にでも優しく優雅な態度を持つアクファは理想的な上官であり、兵士たちのお礼も本心からのものだった。氷帝と同格な礼儀を尽くしたのも、アクファが氷帝に次ぐ帝国の魔術師であり、氷帝がお出かけの時は【氷蓮の執行官】として同格だからだ。
部屋に入る合図をもらった兵士は背中にある槍を引き抜き、扉の真ん中にある大きな氷の結晶を指差した。
すると扉がゆっくりと開き、アクファが入った。その同時に侵入者が入ると起動する罠と迷宮のように曲折する通路は変化し、正方形の形をした部屋となった。
部屋の中には無数の棚が綺麗に置かれている。まるで光の領域の人間たちが作った図書館のようだ。アクファは周りを見回しながら歩いて、ついに奥の棚の前で立ち止まった。彼は手を伸ばして、その棚にきちんと配置されたひし形の角氷を右手で取り、左手の指でひし形の角氷に軽く触れた。
するとその角氷の円形の隙間から光が放たれ、角氷も非常に平らな氷に変化した。アクファは全身の魔力、その流れを制御して氷に注入した。魔力を注入すると、氷床は次々と亀裂を発生させ、それらの亀裂は徐々につながって氷族の文字を形成した。
アクファはその“氷の本”を興味深く見ている最中、突然図書館の扉が開かれた。だがアクファの目は“氷の本”から逸れることはなく、ドアを開けた人がアクファの近くまで来て地面に跪いた時までだった。
「報告致します、氷蓮の執行官・アルシェ・アクファ様。始祖の氷帝・ノールグラス様がお戻りになった。そしてノールグラス様はアクファ様とお話がしたいようでございます。」
報告を聞いたアクファはやや苦笑いの表情を見せ、再び“氷の本”に触れたらひし形の角氷に戻った。アクファはその角氷を「本の棚」に戻した後来た使者に話しかけた。
「ノールグラス様はお戻りになったのか、報告ご苦労だった…いや、ノールグラス様だけ?氷帝はどこにいらっしゃるのか?」
兵士は頭を下げて言った。
「はい、氷帝の姿を拝見してはいなかったです。そして同行の兵士も僅か数名しかいませんでした。」
アクファは頭を下げ、彼の中性っぽい顔に冷たい風が吹かれ、銀白色の髪が乱れて彼の目を覆った。だがアクファは無反応だった、何かを熟考しているようだった。しばらくするとアクファはその長い眉を顰め、右手で髪を耳にかけてから話した。
「状況は承知した。まずこの状況では、姫をお呼びしないと…臣下は時期に姫とご一緒にノールグラス様にお会いすると伝えよ、以上。もう下がっていいよ。」
話した後、アクファは扉にまっすぐ歩いた。
宮殿の外では、風が冷たく、永遠に続く吹雪がこの大地を襲っている。宮殿の門を守っている二人のアイス・ゴーレムは跪いて嵐の中で徐々に形成される青い魔法陣の形成を待っている。宮殿の外壁と周囲の風景が真っ白に統合された世界の中、アクファの姿が魔法陣から現れた。彼は右手を伸ばした途端、装飾品でいっぱいのアイス・ドラゴンが彗星のように急速に落ちた。氷族ではあまり使わない金色の装飾品は高速移動中に残像を残した。その装飾品で照らした明るい光は彗星の尾に織り込まれている。余裕な表情を失ったアクファは急いで氷ドラゴンの背に飛び乗った。アイス・ドラゴンは咆哮し、向きを変えてに向かって飛んだ…
【闇の領域、封印深淵】黒い破壊の霧を噴き出す重装甲の中、ザンカフロスは黒い水晶を取り出した。その水晶からは極めて純度の高い破壊の力を感じることができる魔力の結晶が現れた。彼の緑色の目には奇妙な光が輝いていて、紫色の炎で燃えている胸当てを見て、円形の穴に黒い水晶を挿入した。すると彼の鎧が再び紫色の炎が燃え盛った。光神・サイドハックは眉をひそめ、手に持った黄金色の弓を握り締めた。
一方、炎神・アルボルシューは心を失った邪神・オーズマを冷静に見つめ、手に戟を振り、決意が顔に溢れ出した。
「まさかこんなことになってしまったとは、我が兄弟よ…だが、速戦即決で終わらせてもらうぞ!」
アルボルシューは戟を空に上げた。そうすると星の空が突然回転し始めた。周囲の空気は赤い炎の嵐に変わり、竜巻のようにアルボルシューの右手に集まっている。激しい魔力の渦の中、アルボルシューが着ている鎧は燃えているような赤いローブに取り替えられ、彼の細長い体を包んだ。
その同時に、アルボルシューの動きを見た邪神・オーズマも腰の周りにかけている細身の二本の刀を抜いて空に投げ込み、オーズマの体から星の空まで広がる紫黒の光が炎を抑制しつつ一部を蚕食している。邪神・オーズマが空から落ちてくる二本の刀を捕まえ、その二本の刀にすでに紫色の炎をつけた。しかし、それはザンカフロスよりもさらに強い魔力だった。オーズマは自分の武器にさらなる魔力を注入し続けている。刀身に突然浮き上がったのは不思議な彫刻で、まるでひびの入った地面のようだ。星がこの両者の魔力の激震により崩壊し始め、オーズマが握った刀の刃のちらつきの光は次第に粉々になった空と大地を同じ彫刻の模様のバリアで浮かび上がらせ、星全体が邪神・オーズマによって築かれた巨大な障壁に囲まれた。
バリア内から悪魔の攻撃か、ソロムネスが残した破壊の力を混ぜて大量の魔力が周囲に向かって乱れ、無数の暗黒の力が漏斗の形でオーズマの体に吸い込まれた。邪神・オーズマも炎神・アルボルシューと同様に自分の姿を変え、彼の顔には破壊の力によって作られた仮面に覆われている。覗き見えるのは紫の炎が燃えている両目だけ。オーズマ全身に纏うのは一見ボロボロの黒いローブだが、実は黒い霧が漂っている効果だからだ。
邪神・オーズマは炎神・アルボルシューをじっと見つめ、先に動き出した。
「摩羅の影…」
オーズマの低い声と同時に星の空気が一瞬で凍ったようになり、オーズマがアルボルシューに向かって「走る」過程で無数の同一像が影のように通り過ぎた。
しかし、オーズマが近づいた後、アルボルシューは全く動かず、ただ少し悲しい表情をもってそのままオーズマを見ている。オーズマは、周りすべての“影”と共に同時にアルボルシューを取り囲むように、二本の刀を手に持ってアルボルシューを斬り続ける。数百、数千回の斬撃はどれも一撃で星を切り裂けるほどの威力を持つ。オーズマは両手の刀で交差し斬撃をした後、すべての“影”からさらに“影”が増え、またアルボルシューに数え切れないほど斬撃をした。時間がまるで止まったように、どれほど時間が経っただろう。最後にすべての“影”が黒い霧に化して、本体のオーズマが握る二本の刀の刃に凝縮し、その途中に“影”から悪霊のように怒って叫び、アルボルシューの体を引き寄せた。するとオーズマは渾身の魔力を刃に纏い、左から右へと巨大な十字斬撃を着実にアルボルシューにかけた。時間は通常の状態に戻り、瞬きができた前に、巨大な黒い十字架のような斬撃はアルボルシューを光速で空の遠くまで切り飛ばした。
「摩羅邪神状態の、摩羅閃影…」
光神・サイドハックは手にある光の矢を握りしめ、瞳の中に恐怖がはっきりと見える。それぞれ戦い中の者も同時に止まった。邪神・オーズマは万夫不当の構えで空中に浮揚し、空中に漂う魔力はこの場にいるすべての人を遥かに超え、この一連の斬撃はセミトスを含むすべての神と悪魔に衝撃を与えた。
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