第二十五話 戦火の記憶

 転移魔法陣の中から、ノールグラスの水晶のような体が徐々に現れ、その後ろに氷の領域の戦士たちも次から次へと出てくる。肉体が消え、疲れを感じられないはずだが、ノールグラスのぼんやりとした瞳孔は遠くを見ていて、その瞳孔に微かに光っている青い光で魔力の衰弱が明確だ。

 ノールグラスは翼を大きく羽ばたき、遠くの方向に飛んでいく。彼の後ろの兵士たちは彼を追いかける。大戦から逃げた兵士たちの鎧はすでにボロボロだ。飛んでいるうちに数個の破片が落ちてしまったが、この都市の建物に落ちる前に静かに消えた。まるで幻の力が建物に無色のシールドを張っているようだ。

 地上の大人エルフたちは、空に浮かぶ白い“流星群“を冷たく一瞥した後、また歩き続ける。まるで日常茶飯事のようだ。だが、子供エルフはその流星群を見て目を閉じて何か考えている子供がいるほか、追いかける子もいる。

 ここは風の領域のメイン・スター、ミヤ星。銀色尽くめの王城はエルフ達が自慢している王城で、【宝石が嵌る銀色の王冠】だ。だが、いまの風帝となる鋼の竜・ヴェルトラスが大きすぎるため城に入れないため、ただの象徴となっている。

 果てしなく続く森の中にある広大な広場で、風帝の巨大な銀色の体は横になって休んでいる。


 突然、風帝の正面の頭がゆっくりと目を開け、その目に深刻な感情があった。頑丈な長い首をゆっくりと上げる途中に石が砕けられたような音が出た。

 風帝は遠く青い光の方向を見ていて、しばらくすると背後の赤い川に振り返った。だが、川と呼ばれるのも不正解かもしれない。川から飛び跳ねたのは水ではなく、火花のような魔力の結晶。その中から感じたのは同時に龍、炎、水の元素の力だ。赤い急流は人間の動脈の血のように、魔法の力とうねる勢いをしみ出させた。

 この時、風帝の他の頭も目覚め、右端の頭が首を動かし、風帝の下にある黒い鉄のブロックに真剣な表情で話しかけた。

「グレイム、氷族の人々が戻ってきた。創世帝様の待機の命令を受けた後に来たということは、戦を失敗しただろう。」

 巨大な黒い鉄の塊が、まるで楕円形の鉄の塊でできた生体のように、だんだんと変形し始めた。それぞれの楕円形の鉄のブロックには、ビリビリと電気の音が出てそれらの鉄のブロックを磁気で繋げている。剣の刃によるキズか、やや欠けている鉄のブロックが一番上まで移動し、頭として機能しているようだ。二つの小さくて燃えている鉄のブロックが目の機能をするようだ。そして頭となる鉄ブロックは先端横に開け、虫のような口から言葉をゆっくりと吐き出された。

「風帝、この流れによるとソロムネスは封印深淵から脱出したに違いない。待機の命令を受けたがこの危機に、風帝が命令を出す限り、我々「自然の軍団」(ネイチャー・ナイツ)軍団の全員は直ちに現地に向かう。」

 風帝の後ろの頭は首を横に振って話した。

「グレイム、前回の大戦で悪魔の大軍を撃破した貴様の勇気は謳われるべきだが。風の領域だけでソロムネスを倒せるとは思わないでくれ。風の領域の歴史を記録した石版に描かれている戦闘を忘れてしまうべきではない。あれは正しく地獄だ…」

 風帝の右側の頭が話した。

「前世代の風帝、戦争の神とも呼ばれるゾロス様、自由自在に制御された幻と風の嵐はすべてを一掃し、すべての魔法を撲滅することができる。前代の創世帝トリー・ルシウスにも一目置かれたお方、史上最強の風帝と謳われたが、ソロムネスによって放出された破壊の霧に感染し、心を失い、自ら自身の喉と魔脈をバラバラに引き裂き、最終的に狂気に至って死んだ。そして石板に描かれたソロムネスの恐ろしい笑顔は、それを見ただけで永遠に呪われるようだ…」


 突風が霜の結晶を混ざって木々の葉を吹き飛ばし、ノールグラスは残りの兵士たちが空から降りて風帝・鋼の竜・ヴェルトラスの前で止まった。

 風帝の僕となるドルイドと薬剤師たちはパッと見てわかった。氷族の兵士たちの白い顔は疲れと恐怖に満ちている。前線はいまどうなっているのか?傷者はこれだけ?それとも、生き残ったのはこれだけ?疑問や心配をしているドルイドと薬剤師は前に出て治療をするついでに状況を聞きたいが、氷族のプライドを踏む恐れと氷帝と風帝の会話を割り込まないよう考慮してそのまま立っている。

 グレイムは両腕を広げ、ノールグラスに簡単な敬礼した後で数メートル後退し、風帝・ヴェルトラスの右足の隣に立った。

 ノールグラスはグレイムに少し頷いた後、彼は頭を上げて風帝・ヴェルトラスに話しかけた。

「風帝、状況は非常に緊急です。【龍の両翼】は抵抗するために闇の領域に駆けつけましたが、逆世の悪魔と苦戦しています。すぐに支援するよう軍隊を送ってください!」

 だが、ノールグラスが話した後、風帝は応答しなかった。この状況を見て、ノールグラスは翼を広げて空に飛んだ。そして風帝の前の頭に向かって大声で話しかけた。

「直ちに応援を!」

 風帝の正面の頭は無関心な目でノールグラスを見ながら話した。

「左様か、氷帝・ノールグラス。」

 この塵世の危機によくもこんなに落ち着いているとノールグラスは心の中で驚いたが、それよりも怒りの感情が湧いて思わずに叫んだ。

「それなら、なぜあなたはまだ躊躇していますか、軍隊を迅速に派遣したらまだ希望があるかもしれない!」

 風帝の正面の頭は頭を少し右に振り、そうすると右端の頭はノールグラスに向かって話した。

「待機、これは創世帝様の命令だ。塵世のどの領域もこれ以上軍隊を送ることは許されていない。なぜならそれは兵士が無駄の死となる一方、相手の軍勢をさらに増やすだけだ。確かに氷族の者も前回の大戦に参加してはいたが、でも主な戦場はこの風の領域だった。我々はよく創世帝の命令を理解している。力が及ばない以上、如何に被害を減らせて勝機を見つけることは、まさに創世帝・パーリセウス様に教わった。それに、貴様が報告したことは、創世帝様はすでに知っている。対策はきっとあるはずだ。命令をもらうまでは軍隊を送らない、兵士の命を勝手に手放さない!」


 まるで自分たちの防衛が無駄だったような言い方だが、創世帝の命令を聞いてノールグラスも一瞬躊躇した。だが、彼自身も知らないのは、実はさっきの戦いであまりにも長い間に破壊の霧と接触していたせいで、彼もますます自分の精神をコントロールできなくなってしまった。そもそも精神しか生きてないノールグラスは不安定のまま再び叫んだ。

「今回は我ら一族だけではなく、全員の予期にも超える事態となっている。前回の大戦の話はもういい、明らかにそれよりも強い悪魔が召喚されている。それが本来ならあり得ないこと、貴様もわかっているだろ!」

 突然、磁気の嵐が起こり、グレイムは空に飛んで風帝の前の頭の隣で浮かんでいて、ノールグラスに質問をした。

「話を割り込んで申し訳ないですが、氷帝・ポールトル・ノール・グラシューの姿が見えないですね、一体何かありましたか。」

 その質問を聞き、ノールグラスの水晶のような瞳孔は一瞬で薄暗くなった。ノールグラスの反応を見て風帝も大体予想がついた。

 前回の大戦も同じく、悪魔の大軍が逆世から多く侵略してきたが、それよりも守護神を裏切った創世帝・トリー・ルシウスは塵世多くの精鋭軍を滅世帝・ソロムネスに渡し、闇に落ちらせたせいで領域の中では見るのに堪えられない惨状だった。そして、闇に落ちたものが元の様子に戻れる者はいままで一人もいなかった。例え創世帝・パーリセウスの仲間でも…

「すまないが、氷帝・ノールグラス。今の状況は我々がどうにかなるものではない。貴様も落ち着いたほうがいい。ソロムネスはパーリセウス様が自ら封印し、一度倒した相手だ。それに破壊の瞳も持たない悪魔は虹の神に勝てるわけがない。だから今我々は創世帝の命令に従うしかない。」

 だが、話を聞いたノールグラスはますます精神状態が不安定となり、地面に降りて転移魔法陣を準備した。そして発動する前に最後風帝に話を投げかけた。

「いいだろう、塵世で最も冷たい精霊よ。自分の安全を大事にするのが良いが、我ら氷の領域は最後まで戦う!」

 転移魔法陣の青い光が徐々に消えるのを見て、風帝・鋼の竜・ヴェルトラスは少しノールグラスの異変に気付いたが、彼は何も話さなかった。ただ背後の赤い川、【龍炎海】を静かに見ているだけだ。

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