第二十三話 氷の葬礼

 【シャドウフラッシュ】を使ったチェルヴァンは間もなくグラシューの前に現れた。そして彼は両手の豪華な宝石の刃を1つに融合させて【氷蓮の花びら】に突き刺した。6枚目、7枚目の氷のシールドを粉砕し続けている。

 ほぼ全身の破壊の力によって強化された周囲の寒気はやっとチェルヴァンの動きを少し鈍らせたようだ。【氷蓮の花びら】の数は数秒後には二枚まで減っているが、グラシューは慌てることはなかった。

 グラシューの右手は氷骨剣を構えながら、左手でチェルヴァンの穿刺によって粉々になった五枚の【氷蓮の花びら】の破片がさらにチェルヴァンを凍結しようとし、その動きを鈍らせている。

 だがやはり元素に対して絶対なる耐性を得ているためか、黒き氷の結晶はチェルヴァンの全身に付着しているが、チェルヴァンの前進は止まらなかった。

 ここまでくるとグラシューは左手で氷の盾を作って構えた。彼にはもう他に防御となる魔法がない。

 凝結された剣背龍の血こそが塵世において最も硬い金属という噂がある。その金属を自由自在に操るチェルヴァンはまさに攻撃力も防御力も極めた塵世随一の戦士だろう。

 破壊の力で強化された氷のシールドもやがて全て破壊され、盾は言うまでもなく、グラシューごとに貫通した。

 重傷を負ったグラシューは一口の血を吐き出した。それは血と魔法のエッセンスが混ざっていて黒く青い血だった。


 確かにここまで来たチェルヴァンはグラシューを窮地に追い込んだが、この距離なら自分の切り札となる斬撃も間違いなく命中できるだろう。グラシューは歯を食いしばって全身の力を使って氷骨剣を持ち上げた。凝縮されていた【氷蓮の花びら】の魔力は、体内の残存の破壊の力と同時に氷骨剣の刃に作用し、蛇のような魔力は氷骨剣を包み込み、非常に強い力を与えた。この魔力はセミトスを斬った時よりも勝る。

 グラシューの口から垂れる血と魔法のエッセンスは空中で凍りついた。彼は低い声でいくつかの複雑な呪文を唱え、氷骨剣を振ってチェルヴァンの宝石の刃の先端を切った。そして刃の断面に蹴って反力の助けを借りて距離を取った。そして翼を広げて後方に飛んだ。途中にグラシューは低い口調で言った。

「剣心・永遠の氷蓮!」

 すでに彼はもともと雪の中のろうそくのようで、ほとんど消散した魔力は完全に回復し、以前よりも数倍に増加し、体の傷も治癒した。剣を使う守護神の恩典によって授かったこの戦況を逆転する力は生命力や魔脈への大きなダメージであり、後期の回復には長い時間が必要だが、この危機に切り札を残す必要はない。だが、チェルヴァンから見ると、守護神から下された力をもらっているにもかかわらず悪魔の支配下でその力を使うとこれ以上無礼なことはない。チェルヴァンは直ちにこの茶番のような戦に終止符を打つつもりだ。

 剣心状態になったグラシューは呪文を歌い続けながらチェルヴァンから逃げている。


 その一方、チェルヴァンは首を横に振って盾を捨て、両腕の宝石の刃を切り離して復元し、以前の鋭さに戻した。その後、チェルヴァンは急いでグラシューの方に駆け寄った。

 グラシューは最後の呪文を唱え終えた後、ゆっくりと自分の切り札の技を詠唱した。

「傲霜・凌雪斬!」(アイス・プライム・オーバースラッシュ)

 彼は突然跳ね上がり、氷と雪の嵐が彼の氷の翼から飛び出し、暗い灰色の光で輝いた氷骨剣を持ち上げて対面のチェルヴァンに向かう。

 嵐の中、灰色の光と黒い光が衝突し、その時に剣がぶつかり合う時の音が立てる。

 嵐はまるで終わりのないように笛のような音がする。強力な魔力の激震によって起こされた魔力の波紋が空間を振動させ、時間も歪めた。ほんの少しの間だが、寒気のせいか長く感じる。濃い灰色の光が水平の弧を描き、二人は嵐から飛び出した。

 嵐は次第に消え、氷の結晶だけが風の余勢に沿ってたゆまず羽ばたいた。

 グラシューはまだ氷骨剣を持っているが、渾身に攻撃したせいでもうほとんど使い果たされた。だが、チェルヴァンの体は無傷で微笑んでいる。

「確かに、剣心・永遠の氷蓮は非常に強力だ。その魔力の核心と氷骨剣を破壊するのは容易いが、ノールグラスはここにいない。それでは何の意味もない。倒して復活したあと魔力も傷もすべて癒す力、まさに神の恩典といえるだろう。私があなたに殺されなくても、ここで無駄な時間を費やしてしまう。しかし、倒さずにあなたの魔力が枯渇した状態に陥らせる、氷元素を完全に打ち負かす封印術を使えばそれで終わりだ。さて、封印術・幻殺境界!」

 チェルヴァンの胸から発せられたかすかな灰色の光はグラシューの体を照射し、彼の意識を完全に吞み込んだ。

 魔力が全盛のグラシューは抵抗できるが、いまの彼は灰黒色の瞳孔も同じく灰色の光を発した。体内残りの氷元素の魔力も氷骨剣の魔力も幻元素の牢獄に入った。意識を失ったグラシューは地面にひどく倒れた。空気中には数枚の不純な雪片がゆっくりと散っている。チェルヴァンはそっと鼻を鳴らし、向きを変えてアルペルトに向かって飛んだ。

 

 刀剣翼・チェルヴァンとグラシューが本格的に戦っている間、虹の神に封印や魔力を解放するために時間を稼ぐため、幻光翼・アルペルトはセミトスの攻撃を精一杯防いで息を切らしていた。あの真っ黒い悪魔は全く魔力の使い方が乱暴で、何度も何度も【邪神黒月斬】を使ってアルペルトを攻撃している。

 アルペルトは左側に凝縮していた魔力を右側に移して光のシールドを固め、そして右側からくる【邪神黒月斬】をブロックした。すでにセミトスの攻撃の頻度をつかんだアルペルトは少し余力ができて攻撃を開始しようとしたとき、いきなり空から強力なフェルエネルギーを感じた。彼は無数の黒い矢が降ってくるのを見た。ここで1秒でも時間を稼げば勝算は増すと信じているアルペルトは周囲の光がより強く輝き、極めて純粋なる光の力によって降る黒い矢の雨は何の音もせず静かに消えて光へと転換される。

 一方、常に受動的な状態のアルペルトより、セミトス側はやや退屈を感じた。いきなり仕掛けた攻撃が見事に防げた後、彼はそのあとの油断する隙間を狙っている。左右の手が前に移動し、セミトス全身の黒いエネルギーはまるで空腹の獣が間もなく餌に手を入れる衝動と興奮のようなものだ。

 その後、巨大な黒い光線がアルペルトを直接攻撃し、アルペルトは不意を突かれ、この打撃の強力な魔力に抵抗できずシールドごと遠くまで飛ばされた。セミトスの左手を挙げた後、右手はすぐに下に押した。アルペルトは次第に火山の噴火のような破壊の力に吹き飛ばされ、それから黒い矢が集まってできた黒い柱に無慈悲に地面に押し込まれた。

「油断したな、傲慢な聖光よ!」

 セミトスの顔は無表情のままだが、残忍な獣の欲望は彼の緋色の目から解放された。

 アルペルトは光の鎖の刃に寄りかかって立ち上がった。鎖の刃の光は突然消えたが、その後、巨大な光の球が高周波で振動し、巨大な熱を放出してすべての濁りを滅ぼした。


 セミトスは目を細め、両手で弧を描いた。弧が急に大きくなり、その間の空間は赤と緑など様々な光で満たされ、不思議な色に未知なる力があふれている。セミトスは手を伸ばして真っ暗な三日月形の刃を取り出し、三日月形の刃の両端を弦となる破壊の力で繋いだ。そしてセミトスは左手で弓となった三日月の刃を持ち、同時に右手が掴む【逆世の審判】は黒い矢の束に変わった。

 下の傷を治療していたアルペルトが見上げると、間もなく来る「死」を見て、目を閉じて体内残りの魔力をほぼ全部使い始める。彼の体を中心として五百メートル以内の空間が粉々に砕ける水晶玉のように輝いている。光の鎖の刃から放たれる光線はセミトスに向かって放たれた。

 その同時に、セミトスは弓を満月のように引いてから「は!」と叫び、それから彼は弦を引っ張って人差し指を送った。矢は真っすぐ遠くからくる光線にぶつかりに向かう。光と闇の力が衝突し、巨大な衝撃波が遠く数千メートル離れた城を完全に平地にし、星全体まで激しい魔法の衝撃を受けた。

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