第二十一話 刀剣翼・チェルヴァン

 爆発がまだ落ち着いていないときに、マルフォンは突然左腕を振り、残りの闇の魔法を誘爆させ、さらに破壊の霧を噴き出した。

 一方、光神・サイドハックが展開したシールドは間もなく破壊されるときに、チェルヴァンは目を細め、オレンジ色の体に灰色の光が煌めき、両腕は弧を描いて幻属性のシールドを作り出した。すると前方の破壊の霧を完全に遮った。

 そして向こうのセミトスもシールドを作り直して、さらに他の悪魔によって絶えず強化されている。セミトスはわかっている、自分がソロムネスの魔力を吸収してその一部で仕込んだ攻撃がまさか容易くアルボルシューに破られた。もし彼の攻撃がドムかグラシューに当たったら瞬殺するだろう。どうでも良く使い捨ての者たちだが、アルボルシューの前ではできる限り使える碁石を増やしたい。

 このような相手はソロムネス以外では初めてだ。もしかするとこの炎使いが自分よりも…いや、ありえない!

 セミトスが怒りで目じりを釣り上げて口も大きく開け、裂けそうだ。


 上空、虹の神々はこれほど破壊の力によって築かれたシールドを突破するのに一時的にどうしようもない。シールドを突破するほどの攻撃を使うと、星までだけではなく、周辺の星にも影響が及ぶだろう。悪魔ならいっそすべての星を滅ぼしても何も問題を起こさないし、むしろ望むところだが、この守護神の庭を汚すとは、守護神の護衛と誇る虹の神は決して行わない。

 アルペルトは夢にしか出ないような、輝いている美しい翼を広げて飛び降りた。この聖なるドラゴンは再び自分の得意技を使った。

「龍吟・砕玉!」

 無数の金色の竜のような衝撃波が漆黒なシールドに囲んで頭で何度もぶつけた。

 次に手を出す人はアルボルシューかもしれないと、そろそろ先手を打つと決めたセミトスは「崩す!」と叫んだ。

 彼自身を中心に、膨大な闇のエネルギーが周囲を襲った。しかしそのエネルギーはそのまま他の悪魔やドムたちに通し、さらにシールドにも通過した。恐ろしいスピードで周囲のすべてを呑み込み、分解する。

 セミトスに勝てる自信を持っているが、ただ兄弟の邪神・オーズマの理性を取り戻す方法がいま思いつかず、アルボルシューの表情は深刻で、この戦をさっさと終わらせようと決意した。

 アルボルシューは手に持った戟から血のような赤い炎を放ち、散らばって破壊の力を包み込んだ。闇のエネルギーはまるでガソリンが炎に触れたように瞬時に燃え、赤い炎が必死に食い尽くしたようだった。ほんの数秒後、セミトスの魔法が消えた。

 すでに戦いが始まったが、アルボルシューは後方の木神・アルサイドと光神・サイドハックに邪神・オーズマの力を封印させている。彼自身それ以外の神はいま力の解放を準備している。向こうのセミトスも彼らの魔力の増幅を感じ、ソロムネスの力の残りを吸収する一方、破壊の力によって構築された城壁のようなシールドを維持している。これからが虹の神々と本気で戦うため、さすがにセミトスでも油断はできない。ソロムネスまで撃退した人物、合体していなくてもこれほどとは。セミトスの考えを見破ったか、クロルは隣で久しぶりに本気モードになったセミトスを見て、一瞬恐怖の表情が彼の人間とよく似ている顔に現れた。

 また一撃で自分の魔法を消した。セミトスは自分の権威を挑発された風に感じ、憤怒の感情が満ちたセミトスは彼の低い声で叫んだ。

「起こせ!」

 ソロムネスを封印した底なしの甌穴から吹き付けられた破壊の力は、セミトスを丸ごと包み込んだ。アルペルトは目を大きく見開き、チェルヴァンに向かって叫んだ。

「チェルヴァン!やつはソロムネスが残した力を吸収している。この調子だと間もなく恐ろしい状態になってしまう。私と一緒に降りて、それを中断しないと!」

 チェルヴァンは厳粛にうなずき、恐ろしく輝く背中の二本の銀の剣を両手で交差して引き抜き、オレンジ色の翼を広げたまま、アルペルトと共に降りた。


 グラシューは頭を上げ、上空から降りた眩しい光や幻属性の魔力が振動する竜の両翼を見て戦う準備をした。暗化されていないグラシューなら決してドラゴン一族に手を出すはずはないが、いまはもはや知性も理性も失い、ソロムネスの意志によって操られた人形のようだ。

 グラシューは両手で氷骨剣を持ち上げ、光と幻属性の乱流に突破して龍の両翼の前に立った。チェルヴァンは瞼を閉じて開けた次の瞬間、彼の目に灰色の炎が現れた。周囲の幻属性の乱流も荒れ狂っており、グラシューが展開した【氷蓮の花びら】を虫が葉っぱを食べるように侵食している。

「シャドウフラッシュ!」

 チェルヴァンは突然グラシューの背中に現れ、次の瞬間、銀色のドラゴンの血がチェルヴァンの背中からにじみ出て、すぐに全身に広がった。そしてチェルヴァンは両手の剣をグラシューに刺し、その力でグラシューを下方に飛ばした。

 だが、チェルヴァンの攻撃はまだまだ終わっていない。彼は急速に下降する間に、両手の剣はチェルヴァンの目のように灰色の炎で輝く。グラシューは全ての【氷蓮の花びら】の表面に破壊の力を付着させ硬化させたが、チェルヴァンの攻撃はすべての氷蓮の花びらを破り、グラシューの体も貫通した。

 チェルヴァンは翼を大きく広げてゆっくりと空中で止まり、剣で貫通されたままのグラシューは凄まじいスピードで地面に落ちた。その場に破壊の霧が拡散した。

 だが、グラシューが刺されて地面に落ちた間もなく、この場所の天気は吹雪に変わった。氷と雪の嵐の中でグラシューが再び現れた。言うまでもなく、これはグラシューの得意技【氷嵐・浮影】だ。

 チェルヴァンは目を細めて全身の魔力を運用した。

「幻滅破!」

 チェルヴァンの広い背中にある残り十本の剣がすべて溶けて彼の周りに漂う灰色の幻エネルギーが巨大な灰色の球体に融合した。チェルヴァンはその球体を維持しながら吹雪の中心に投げたあと、その灰色の球体が一瞬で静かに爆発した。爆発の中心から広がる灰色の波紋はゆっくりと広がり、触れたすべての雪と氷、風ですら消えてしまい、すべては灰のように散らばった。数秒間その場所に残ったのは真空であり、神除きの生き物は決して生きてはいけないエリアとなった。グラシューの本体は吹雪の中から身を引いて、彼は歯を食いしばった。長くて銀色の髪は光沢を失って黒混じる灰色の髪色となり、風になびいている。


 グラシューはすでに広がるのが止まった【幻滅破】の攻撃範囲から飛び出したあと、彼の顔に邪悪な笑顔を浮かべて言った。

「余が氷帝だった時の記憶は消えておらず、貴様らドラゴン一族は世界のすべての種族を軽蔑している。今日、余はソロムネスの黒氷の騎士に陥った。忠誠を誓う陣営も違う。そうすれば、今日、新しい憎しみと古い憎しみが一緒に根絶するとしよう!」

 チェルヴァンはあざけるような笑顔を見せ、グラシューを見つめた。グラシューの濃い灰色の瞳は、燃えるように突然青い光を輝かせ、その同時にグラシューの体に異様な破壊の力が湧いてきた。破壊の力によって修復された青い光が氷のシールド、【氷蓮の花びら】をどんどん大きくなる。破壊の力によって完全に修復された【氷蓮の花びら】は一撃も受けたことないのに亀裂が中央の最小の氷のシールドから砕かれた。

 だが、それは勘違いだった。近くで見ると一見砕かれたようだが、実際には密なルーンが刻まれている。グラシューは右手で自分に最も近い【氷蓮の花びら】に触れながら軽く詠唱した。

「氷撃・破・千本針!」(アイス・ペネトレート・サウザンドニードル)

 ソロムネスを封印していた深淵と地面に無数の氷のとげが生え、まるで巨大なとげの森を地面に植えたようだった。そして、それらの氷のとげはまだ上向きに成長している。アルボルシューは彼の指をパチンと鳴らした。すると虹の神の下方のとげは火によってきれいに燃やされた。アルペルトは彼の体の周りに纏う光のシールドの魔力を解放し、光の盾によって放出された光線は周囲の氷の棘をすべて粉砕した。だが、チェルヴァンはただ無関心で、その棘に任せて足から全身へと肉を引き裂かれ、銀色のドラゴンの血が棘に流れて凍った。まるで自ら死を受け入れるように見えた。


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