第十八話 時空の力

 ケーズの顔にはかすかな悲しみの表情があったが、わずか一瞬でまたすぐに真剣な顔つきに切り替えた。そして同時に自分の勇敢さを示すために大きな声を出しながら、その限界のない破壊の霧に飛び込んだ。

 セミトスの体から発散する破壊の霧ですら物をゆっくりと分解して極悪の匂いがする魔力に変換するが、ソロムネスが起こしたこの破壊の霧は波のように触れたものを一瞬で溶かす。


 だが、ケーズは迷ったこともないまま突っ込んだ。彼の斬撃は第一波の黒い霧を固体のように半分に切断し、さらにその勢いは止まらずに第二波、第三波を突破し、剣の先はソロムネスに向かってまっすぐに刺しにいく。その黒白の巨剣に斬られた破壊の霧は徐々に薄くなって消えていく。ソロムネスを除くすべての悪魔はこの斬撃に驚いた、ドムは口を大きく開けて炎を吐き出した。

「彼は破壊の力を抵抗して霧を晴らした?ありえない!彼如きの魔力の程度は、ソロムネス様の破壊の力に対抗するなんてありえない!」

 しかし、ソロムネスは全く驚かず、むしろ口の角にある邪悪な笑顔はより深まった。

 一方、ケーズの斬撃はまだまだ絶えずに黒い霧を斬っているが、ソロムネスに近づけば近づくほど、黒い霧の濃度は高くなる。破壊の霧の第一波は、領域のエリート戦士の魔法で散逸することができるが、第二波、第三波の破壊の霧はアクファなど領域の王者に次ぐレベルの魔法使いが抵抗することができる。第四波となると霧というよりすでに液体のように濃くなっている破壊の力は王者しか打ち負かせないほどのレベルだ。

 だが、今ケーズの目の前にある第六波の破壊の力は世界で最も硬い魔法の鎧のように、王者の力も超越し神の領域に到達した不滅なる固体の破壊の力にケーズは直面している。

 この一瞬、闇帝として塵世の王者も超越したケーズはもう疲れ果てた、前進の速さも完全に止まってしまった。目の前の破壊の力はなんとか前進の力を抑え込んだが、反発されるのはもはや時間の問題。

 ケーズは目を大きく広げて笑い出した。

「まさか剣心を使ったあと、この渾身の一撃でこれほどの破壊の力を打ち破ることができるとは!こういうわけで、私の人生に甲斐があると見なすことができる!最後まで頑張ってきた私は、この領域の人々をちゃんと守れたかな。」

 話した後、ケーズは振り返ってみた、上空にいる龍の両翼は相変わらず静かに立っている。


 ソロムネスの口角の笑顔はますます恐ろしくなっている、彼の目の前に破壊の霧はケーズの剣の先を避けて広がる、ついにケーズは終わりのない破壊の霧の中に生きたまま飲み込まれた…

 黒い霧は上向きに広がり続け、チェルヴァンとアルペルトは、下に近づいている脅威を全く防衛しないまま、黒い霧に身を任せ、呑み込まれた。

 いくつかの真っ赤な符号がソロムネスの暗い目に迫っている。彼はドムをちらっと見たあと、ドムはすぐに理解し、ソロムネスの命令を待つために側近まで飛んだ。

「蛮炎・オルカ・ドム、今回お前は良くやった、前回の大戦より忠実を保ち続けることができたが、その一方雷の領域の人々は俺を裏切った!ならば最初に罰を与えるのは雷の領域だ。このパーリセウスの封印を解除するためには、お前の貧弱な体に俺がお前に残した力を使い果たしたようだ。この度更なる力を与えてやろう。それと、俺のネックレス、この暗黒十字架を預けてやろう。破壊の力だけじゃなくて闇の力を操るものでさえコントロールできる力を蓄えている、逆世では破壊の剣に次ぐ神器だ。お前の「血の目覚め」により狂気を助けることもできる。」

「我が王よ、感謝致すが我が一族の狂気を助けるとは一体…」

「理性を犠牲にして、体内に潜在する能力や魔脈を刺激するための能力だが、うまく操られないと手抜かりばっかりで愚かな獣にすぎない。お前は理性を完全に失う前に自我を取り戻せるがまだまだ不十分だ。この十字架を持つだけで逆世の魔力を体に注入され、自我の心ではなく闇の意志がお前の心をコントロールする。それに、前回の大戦ではパーリセウスのやつ、配下に闇属性の魔力を操るものがいたはず、その時セミトス、わかっているな?」

 セミトスは無言で目を閉じた。

「雷の領域を片付けたあと再びここで合流しよう、パーリセウスは龍の領域を開くはずだ、その時こそ逆世と塵世の決戦の時となり、俺がかつてお前らに示した真の救いの道だ。」

「簡単そうに言っているが、どうするつもり?」

 セミトスは頭を上げてソロムネスを見下している姿勢で話した。

 ソロムネスは頭を下げて気ちがいのように痙攣的な笑い声を上げた。

「この世界の果てまで俺の破壊の力を拡散して、すべての生き物を俺の爪牙と化す!」

「破壊の力を広げると、そのパーリセウスは絶対に傍観しないだろう。」

 ソロムネスは冷笑して言い返した。

「お前が言うまでもない、口を挟むな。お前の力を見ると無理もない、それはお前ができないことだ、セミトス。しかし俺は…」

 ソロムネスの瞳に赤い逆世の文字が徐々に現れ、奇妙な文字が衝突し続け、魔力の赤い急流が徐々に六芒星に凝縮した。さらにその六芒星の中では、二つの弧が互いに相対的になり、ど真ん中の魔力が振動して円を描いた、まるで終末の満月のように中央にちりばめられている。


「破壊の瞳!」

 ソロムネスの目が突然明るくなった。

「時間の境界・最終速度!」

 光速では表現できない速さで赤い障壁が放射され、障壁の内側の黒い霧が障壁とともに急速に薄くなったが、障壁と同じクレイジーなスピードで、ほんの数秒後、黒い霧が闇の領域全体に広がった。

「空間の境界・空間反復!」

 固体のようだった主星の黒い霧は、拡散後に非常に薄くなっているが、ソロムネスの声とともに、さらに赤い障壁が現れ広がっていく。この障壁が通過した黒い霧は瞬時数倍に濃くなり、闇の領域が真っ黒になってしまった。これは世界で最も強い力、時間と空間を操作する力だ。


 闇の領域の外で金色の光が点滅し、創世帝・ペラルド・カルロ・パーリセウスは狂ったように広がる破壊の黒い霧を見ている。その後ろに付いているのは七人の若い神々だ。さらに彼らの後ろにいるのは光帝・カルロ・ジックだ。カルロ・ジックは彼の前にある光景を震えながら見ている。パーリセウスはため息をつき、赤い神の方に頭を振り返って話した。

「アルボルシュー、こんな短時間で封印を破られたのは案外だが。相変わらずソロムネスは破壊の瞳を開き、時間と空間の呪文を解放して彼の見苦しい汚物を広げた。グラシューが強がってなかったら、この窮地に到達しないだろう。」

 アルボルシューは頭を深く下げて返事した。

「大帝、この重大な問題は、我々臣下として予想すべきだった。今度こそ我々が手を出して徹底的に後患を断つ。」

 パーリセウスはうなずいた。

「今、私は創造の瞳で時空の魔法を使って創造の力で相殺しないと。」

 パーリセウスの真っ黒な瞳の中、黄金の瞳孔が徐々に光り、古き符号が衝突し続け、魔力が黄金の急流のように凝縮して六芒星を構築した。パーリセウスの黒い瞳も真っ赤になった。金色の六芒星の中に、破壊の瞳と同じ二つの弧から周りの時間と空間の力を振動させる力を広げる、真ん中に徐々にできた黄金の円は神が授けた朝日のように中央にちりばめられている。


「創造の瞳!」

 パーリセウスの目が突然明るくなる。

「時間の境界・最終速度!」

 ソロムネスが使った時間の障壁と同じ速度で巨大な黄金の障壁が広がり、最終的に闇の領域全体が包まれた。

「時間の境界・絶対停止!」

 荒れ狂う黒い霧と漆黒な障壁が黄金の障壁に触れると突然止まったが、後ろからやってくる黒い霧が、ますます霧を濃くさせている。

「空間の境界・空間引裂!」

 闇の領域に突然何百個もある宇宙の亀裂が現れ、黒い霧を飲み込んだ。間も無く、黒い霧はどんどん薄くなり、ほとんど消えた。

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