第十七話 覆没

 ソロムネスは周囲の環境を見回して確認した後、地面に降りてグラシューに向かって歩く。ゆっくりと、荒っぽい足音が立つ。"死"が近づいてくる。グラシューはその足音を聞いて立ち上がろうとしたが、一度死んだ後は生命力も魔力も全快されるが、今のところ魔力も体力もほとんど残っておらず、先ほどソロムネスの攻撃で怪我も完治していないため、剣に寄りかかって立ち上がることしかできない。しかし、その姿勢ですらつい耐えられず、片足を跪いた。

 ソロムネスから見ると、まるで自分に忠誠を誓うようだ。顔が破壊の霧ではっきりと見えないが、それでも口元の位置に大きい弧があると見える。彼は指一本でグラシューの頭を高く上げた。グラシューの目には深い憎しみが満ちているが、少しも死を恐れていないようだ。だが、その不屈なる表情こそソロムネスは堪能していて、たまらない。


 グラシューは元気が失われた弱い声で話した。

「創世帝ですら一度貴様に負けたが、当時の失敗は、力が十分に発揮されていなかっただけ。今では創造の瞳と創造の剣を含む三本の塵世最強の剣を持っている。でも、貴様は大帝が手を出すまでの相手ではない。かつて貴様を打ち負かした虹の神で十分だ。」

 だが、その言葉を聞いた後、ソロムネスはもっと恐ろしい笑顔を見せ、右手でグラシューのあごを掴んだ。グラシューは抵抗していたが、周囲の寒気は破壊の力に呑み込まれている。彼の魔力も至近距離の破壊の力を防ぐのが精一杯であり、限界に近い。むしろひざまずくことですら奇跡かもしれない。

「氷の領域の王子様…お前の傲慢さは変わっていないな、とても良い。最後までパーリセウスに忠誠を果たすのはよくやったものではないか。ただ、お前の知らないことは多すぎる、お前にとって俺の能力は破壊の力ぐらいだろう。俺は逆世で最も強き悪魔の王として、この身の降臨に謹んで待つすべての者に恩賞を与えなければ…では…」


 ソロムネスは相変わらず恐ろしい笑顔を持ち、目を半分閉じた。彼の笑顔と魔力はグラシューの精神と魔力を同時に握りつぶしたようだ。そしてソロムネスから広がる破壊の霧は、ソロムネスの腕に纏めてグラシューの体に絶えずに運ばれた。

 グラシューは耐え難いほどの痛みで痙攣して地面で転がり、最後は耐えられず倒れてしまった。それに応えて、ソロムネスの恐ろしい笑顔は絶え間ない狂気の笑いに変わる。だがその両目は冷酷な目つきで残兵と龍の両翼たちを見ている。

 グラシューの痛みを伴う声はだんだん弱まり、やがて静かに地面で横たわった。元々水晶のような体だったが、黒い破壊の霧がだんだんと体と心を侵食し、体を変形させている。

 しばらくすると、グラシューの体は白から灰色になり、また、灰色から黒に変わった。銀色の鎧も紺色に変わって黒い霧を噴出している。突然、グラシューは目を覚ました、そしてゆっくりと立ち上がった。彼の周りに冷たい風が吹く。その中に黒い霧が混ざる。瞳の青い氷蓮の符号も溶けて真っ黒になった。グラシューの表情は少し鈍くなり、無言でソロムネスの前でひざまずいた。グラシューから感じられる冷たい魔力に加えて、手に負えない残酷さだった…

 氷帝が闇に落ちたのを見て、残りの氷の領域の戦士たちは泣いてため息をついた。戦士たちは武器を片付け、差し迫った破壊を抵抗なしで待つことにしている。一方、ノールグラスはただグラシューを見つめているだけ。その水晶のような瞳孔がちらついている…


 チェルヴァンは首を横に振った。

「アルペルト、ソロムネスは封印から脱出した。私たちにできることは、もはや大帝の到着を待つことだけだ。」

 アルペルトもうなずいてセミトス達を見ている。

「まさか一撃で封印を破るとは。」

 ケーズは龍の両翼の対話を聞いて怒って頭を振り返った。

「独善的なドラゴン一族、このまま見るだけのつもりか!無数の生き物が炭を塗りつけるのを見たいか?そこの悪魔と何の違いがある!」

 チェルヴァンは冷淡な表情で言った。

「独善的?君は何を知っている?というか最初から自分たちで逆らえない相手なら無理やりに戦うじゃないよ。ほら、あそこの氷帝も暗化している。それも君の末路だ。塵世に何事があっても、結局私たちの龍の領域の力を頼ってしまう。今回悪魔が召喚されたのも、君たちの無能だからだ。光、氷、風、闇四つの領域の力を集めても、この有様か。」


 ケーズはチェルヴァンの言葉で激怒して体まで震え、戦いで残した傷は治らず、魔力の結晶が混じる血を吐き出すと同時に、ケーズの暗い体もセミトスのように黒い霧を放ち始めた。

 上空の騒ぎを聞いて、ソロムネスは興味津々で空を見上げた。

「そうだ、ここは闇の領域だ。ここの魔族の祖先は、太古に逆世からやってきた悪魔の子孫だ。血統は世代を経て薄まってしまって強くはないが、破壊の力の影響を受けやすい体質は永遠に変わらないものだな。」

 直後、ソロムネスは数倍の大声で笑った。

「逆世と塵世にいる俺に属する軍隊すべてを集めてこの二つの世界を統合しようぞ!」

 セミトスは頭を下げてソロムネスに冷たく話した。

「この俺がお前を救った。お前の瞳はパーリセウスの瞳に抵抗できるからだ。だが、お前の野心はそれまでだ。今俺こそが滅世帝、この二つの世界を統合するのも俺たった一人だ。」

 ソロムネスはセミトスに嘲笑した。

「お前が?お前が持っている剣ですら、俺の剣だ。お前が持っている破壊の力も俺が与えた。そしてお前が自慢している無限な魔力も、ただ周囲の元素から魔力を抽出して吸収するだけだ。」

 セミトスは破壊の剣を抜いて邪悪な笑顔を見せた。

「そうか、封印から脱出したばかりのお前は俺に勝てると思うか?俺の命令に従うほうがいい。さもなければ…」

「それは俺の剣だ。俺の破壊の瞳がある限り、それは俺のものだ!」

 ソロムネスが腕を伸ばすと、彼の手のひらから突然固体のような高濃度の破壊の黒い霧の鎖をいくつか放出し、セミトスの背中の破壊の剣に向かって素早く伸びた。スピードがあまりにも速すぎて、セミトスが魔法で鎖を壊すさえ間に合わなかった。破壊の剣が鎖に縛られてセミトスの背中から抜かれた。するとソロムネスは鎖を空に振り、鎖の縛りから出た破壊の剣は一瞬にして何百倍も成長し、柱のように直立し、空中に浮かんでいる。

 ソロムネスは彼の右手で破壊の剣の刃を触って、その後すぐに、ソロムネスも破壊の剣と同じサイズに成長した、赤い鎖に包まれた巨大な左腕を伸ばし、彼の手に持っているのは紫色の光が輝いている十字架だった。ソロムネスは十字架をしっかりと握り、低い声で呪文を詠唱する。

「ロゼメルシュラ…滅亡の聖歌はこの世界に響き渡り、十字にはこの世のすべての悪を盛り、使者の術は世界の理を打ち砕く。この身こそ、汝らが迎える光よ!」

 ソロムネスから放つ魔法の衝撃波は星の大地を一掃し、黒い破壊の霧は層々と拡散し、すべてのものを呑み込む勢いだ。


 ソロムネスが詠唱している間、チェルヴァンはその魔力を感じ、首を横に振った。

「悪魔と戦い続ける私とアルペルトを除いて、ほかの全員はすぐに撤退すべきだ!」

 話した後、彼は冷静にソロムネスを見ている。ノールグラスを含む氷の領域の戦士たちは風の領域に行き、ケーズだけが残っている。ケーズはまだ怪我の影響を受けており、今はもはや体を支えられないほどだが、それでも転移魔法陣に入るのを拒否した。ケーズの姿を見て、アルペルトは冷たく言った。

「君も風の領域に撤退して安静すればよい。」

 ケーズは少し息を呑み、笑顔で返した。

「この王の領土を諦め、他人に侵略されるのを見るだけか?笑わせるのをやめろ!」

 チェルヴァンは軽蔑な目つきで、ため息をついた。

「すでに魔力も破壊の力を受けて耐えられない無様な姿で何が王か、愚かな魔族。耐えられる魔力も破壊の力も限度がある、君の限度はそれまでだ。ここにもう君が役に立てる場ではない、さっさと撤退しろ。」

 ケーズはチェルヴァンと同じように軽蔑な目つきで、冷笑して再び首を横に振った。目を閉じて、残っているわずかな魔力に集中している。


 ソロムネスの詠唱が終わり、ケーズと龍の両翼の前に黒い破壊の霧が広がってきた。だが、チェルヴァンもアルペルトも平然とその黒い波を待っているだけ。

 一方、ケーズは剣を抜いて呪文を唱え、破壊の霧が広まる中心、ソロムネスの咆哮に駆けつけた。空中に、彼はゴースト・ドラゴンキングの背中から飛び降りた。彼の体は落下する同時に剣と同時に瞬いた、黒と白の光だった。彼の魔力は信じられない速さで回復し続け、数秒で先ほど全盛のケーズを超えた。この一連の変化はチェルヴァンとアルペルトでさえ少し驚いたが、すぐにいつもの軽蔑的な表情に戻った。

 ケーズは咆哮した。

「剣心・剣罰!」

 ケーズは真向斬りの姿勢を保ったまま滅世帝・ソロムネスが自ら放った破壊の霧に飛び降りた。

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