第十四話 遅れた曙光
亀裂の中に紫色の炎がますます激しく燃え、土地が炎に触れると高温で揮発するほどの熱さだ。その炎は封印深淵につながるまで拡大し続けた。グラシューはドラゴンの背中から飛び降り、寒気がバリアのように彼の体を守りながら炎の中を平然と歩いた。突然、何本もの黒い鎖が紫色の炎を貫通し、グラシューに向かってまっすぐに飛んできた。炎に纏われたセミトスは無傷のままで空に飛び上がった。
グラシューはまだ無関心な表情を保ちながら、破壊の力によって構成された黒い鎖が彼の近くに飛んでくると、突然目を広げた。すると寒気の範囲内に入った鎖も炎もまるで静止しているかのように固まり、さらに寒気はグラシューの魔力増幅によって徐々に周囲に広がっていった。グラシューは氷骨剣を逆手持ちしてすべての鎖を上の方向に押し上げた。しばらくして、グラシューが遠くに歩くと寒気の範囲から離れた鎖は押し上げられた方向にまっすぐと飛んでいった。
グラシューはゆっくりとセミトスの下まで歩いて、セミトスを冷たく見つめた。殺意に満ちた寒気は万物を氷漬けにするようだ。これが塵世氷属性において最強の王者である。氷骨剣の中に光る氷蓮の符号はどんどん明るくなり、彼が氷骨剣を握り締めるだけで周囲はすぐに強い吹雪が吹き荒れた。その風の勢いを乗せて、グラシューは翼を広げてセミトスに向かった。セミトスはにんまりと笑いながら話した。
「愚かな。例えお前が二倍の強さになっても俺に勝てるわけがない。この魔力を吸収する躯の前ではお前らの得意技はごく普通の物理攻撃に等しい。お前の最強の斬撃ですら俺にかすり傷ぐらいしか付けられない。無意味だ。お前らの攻撃は…」
セミトスは話しながら体の周りに纏う黒い霧を凝縮し、巨大な黒い炎となって内炎が赤く光った。
「俺に魔力を増やすだけだ。食らえ、逆世の審判を!」
黒い炎がグラシューに向かって飛んできたが、黒い炎はグラシューの周囲にある寒気の範囲に入ると突然止まった。今度はグラシューは抵抗せずに飛ぶ方向を変えて炎を避けるだけであり、そのままセミトスに急いで向かった。しばらく寒気の範囲から出た黒い炎は急に地面に衝突して爆発し、破壊の黒い霧が地面の上に氾濫した。
セミトスは嘲笑した。
「おもしろい。お前の周りの寒気で凍らせたか?空間を制御するほどの氷の魔法か。なら、これも耐えられるか?」
セミトスは右手を頭の上に上げた。すると、一つ、二つとますます早く増えて数千に至る小さな黒いエネルギーボールが空に現れ、ゆっくりと黒い矢に変わった。セミトスが手を振ると、密な矢がグラシューに向かって発射された。いずれの矢も破壊の力を秘めていた。雨のように降る矢を見て、グラシューは素早く呪文を唄って氷骨剣を頭の隣に構えた。
「氷撃・千骨突破!」
地面と平行する氷骨剣は突然輝いた。グラシューの背中にも速やかに青い魔法の輪が増え、その数は空の黒い矢よりも多い。それらの魔法の輪は無数の氷骨剣に変わり、それぞれの氷骨剣はグラシューの手に持つ氷骨剣とほぼ同じ魔法の力を蓄えている。グラシューが剣を振り、セミトスに打った氷柱と同時に無数の氷骨剣も発射され、黒い矢と衝突した。その一瞬、天地は白と黒の光で閃き、周りは激しい吹雪によって更に絶え間ない乱気流が巻き起こった。この光景を見て、セミトスは冷笑した。
「変身した後、ここまで強くなっているのは意外だが、そろそろ終わりにしよう。邪神黒月斬。」
セミトスの周囲のすべての黒い霧が凝縮し、徐々に剣の形になった。正しく「破壊の剣」だ。セミトスは片手で巨剣を握り、わずかな斬撃で黒き巨剣のエネルギーが三日月の形となってグラシューに向かって飛んでいった。
この破壊の力の根源である破壊の剣の前では、空間を短時間で制御する寒気も取るに足らないものになり、止まる時間もなく瞬く間にグラシューは散らばり、ほこりのように燃え尽きた。
その時、嵐のどこかで氷と雪が収束し、氷骨剣を握るグラシューに変身してセミトスに向かって突進した。セミトスはなんの動きもせず、その真っ黒な顔にうんざりした表情が見えた。
「またそれか。同じ技で二度と役に立てると思うな。」
しかし次の瞬間、嵐の中に別のグラシューが現れ、さらに同時にその反対側にグラシューが現れ、嵐の範囲は目で追えない速さで拡大していった。そして、グラシューの数も増加していく。しかも、魔力の感知をすると、すべてのグラシューの魔力が同様に豊富で強力だった。
セミトスは瞳孔をわずかに広げ、その目に貪欲な殺意が満ちているのが見えた。「クックック」とセミトスは嘲弄の意味を含めながら、次に左手を上げて拳を握りしめ、更なる恐ろしい笑い声を上げた。
「興が乗った、塵世の雑種!受け取れ、無影崩斬!」
狂気をはらんだ表情をするセミトス。この場の最強な悪魔は破壊の剣を片手で頭の上まで持ち上げた。まだ戦っているマルフォン、ケーズ、ノールグラスと兵士たちは同時にこの膨大な魔力を感知し、その力に震えている。そして瞬時に、絶え間なく破壊の力が星の大地から昇っている。
大地は一瞬で崩壊し、逃げられなかった連合軍の兵士は一瞬で全滅した。これは逆世では最も強力な魔力であり、触れた生き物を瞬時に死霊に化す絶対なるパワーだ。
氷蓮が破壊の力に吞み込まれて消滅し、グラシューの「氷嵐・浮影」と同時に吹く雪の嵐も止んだ。下にはもう魔力の反応がない。セミトスは嘲笑し、いつものすべてを見下す表情に戻った。そして彼は「破壊の剣」を背中に負って二本の黒い鎖でクロスして剣を固定した。空中にいるケーズとノールグラスは幸運にも打撃を逃れることができたが、下の海のように転がる破壊の霧を凝視し、顔にもう抵抗する意思がなくなったようだ。
さっきまで激しく戦っていた戦場は今、静寂なる暗闇になっている。上空にはドム、マルフォン、ザンカフロス、クロルが残りのケーズとノールグラスを見ている。彼らは戦意を失い、精神もずたぼろになっていることが明らかだ。
ドムは残酷な悪意に充ち満ちた歓びを感じずにはいられず、「ガハハハ」と狂気を感じる大声で笑っている。褐色っぽい体は破壊の力の影響を受けて黒くなり、炎の翼も黒い炎に変わってリザードンというよりも正真正銘の悪魔と化したドムは隣の悪魔たちに話す。
「さあ、もう我らの前に阻害がない。封印を破って滅世帝・ソロムネス様を救おう。」
話し終えた後、彼は右手を伸ばして指で線を引き、炎の塊が空中で発火した。彼が手を伸ばして炎から取り出したのは黒い本だった。その本にいくつかの干した血痕があり、あまり年月を経っていないようだ。ドムは黒い符号がいっぱい書かれているページまでめくり、そして右手を使って黒い炎が燃えている2本の指で叩き、本の真ん中に魔法の円を描いた。すると魔法の円が浮いてゆっくりと回転し始め、回転しながらゆっくりと下にある、先ほどセミトスの攻撃に耐えた六芒星の魔法陣の上に覆って侵食し始めた。しかし、その六芒星の魔法陣から感じられる魔力は全く減らない。
ドムはセミトスの隣まで飛び、話しかけた。
「ソロムネス様に教わった魔法でもこの封印を完全に破壊することができないようだ。恐らく破壊されながら再生している創造の力のせいだろう。だが、ならば破壊の剣を借りてその力を押圧する一方、強力な攻撃魔法で一気に壊すしかない。」
セミトスは頷き、破壊の剣を取り下に投げ捨てた。破壊の剣はその六芒星の魔法陣に刺さったが、どこからかわからない光の魔法陣が必死にその剣を貫通させるのをブロックした。次の瞬間、ケーズとノールグラスを含め、全員は空を見上げた。
空の半分は輝きにあふれ、光帝カルロ・ジックよりも強い光の力を絶えず放出し、その色鮮やかな光の中に、すべてを誇らしげに見下ろしている人型のような姿があった。空の残りの半分では、幻元素の魔力が振動し、その場の時空を揺さぶっている。ぼやけた乱流の魔力の中で、他の剣背龍よりも10倍大きな巨大なドラゴンが隣の人型のような者と同じようにすべてを見下ろしていた。
ケーズとノールグラスは上空の二者を見て突然喜びの輝きが咲き、彼らが近づいた後、ケーズとノールグラスはまず敬意を表した。
「龍の両翼、幻光翼・アルペルト、刀剣翼・チェルヴァン様。氷の領域ポールトル族の初代氷帝・ノールグラス。闇の領域魔族・ケーズ・ロミール拝謁致します。よくいらっしゃいました。」
光が輝く人型のような幻光翼・アルペルトは翼を広げてノールグラス達に返事した。
「大帝からの命令を受けて直ちに来たがもうこの惨状か。この後虹の神も参戦しに来るから、君たちはもう隣で待機して構わない。」
ケーズは二者の態度に意外と思わなかった。高いプライドを持つドラゴン族は極めて傲慢な一族であり、これは塵世の常識であってケーズ本人の偏見ではない。彼は少し不満な感情をもって「はい」と返事をし、二者から離れて魔力を蓄え、封印や自分の領域を守るために戦いの準備をしていった。
一方、ポールトル族も塵世において傲慢な種族として思われているが、宿敵のコルナー族とよく似ている点は、強き者への服従は絶対だということだ。だからノールグラスは不満なく、悪魔たちの技や能力を龍の両翼に説明していた。
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