第十三話 困獣猶闘

 ゴースト・ドラゴン・キングは頭をケーズの方に振り向け、彼がもう死ぬ覚悟ができていることを目つきで主人に示した。ケーズは竜の首を撫でながら苦笑いした。

「まだ全身に魔力が残っているけれど、ドムの数回の打撃によって付けられた破壊の霧は多かれ少なかれ私に影響を与えた。もう魔力を簡単に使えなくなった。これは我ら一族の呪いか。最強の悪魔が登場した今、もはや創世帝の援軍に頼るしかできない…」

 ノールグラスは隣のグラシューとケーズに向かって叫んだ。

「グラシュー、ケーズ、例えこれが困獣猶闘でも、我らの絶技を見せようぞ!」


 最初に体を動かしたのはグラシューだった。アイス・ドラゴン・キングに乗ってセミトスの周囲を飛び回っている。飛行中、彼は全身の魔力を集中し、全身から発せられる冷たい空気は、氷の嵐のように封印深淵を一掃した。そして素早く十二玉の氷蓮の花びらが凝結され、グラシューはセミトスに挑む準備ができたようだ。

 しかし、セミトスはただグラシューを冷たく見つめ、右手に破壊の霧を凝縮して漆黒な炎を作った。その中心に赤い光が輝いて内炎のようだ。形ができた途端、セミトスは剣を持ち、自分に襲いかかってきたグラシューにその炎を投げた。

 するとその漆黒な炎は十二玉の氷蓮の花びらを直接通過した。グラシューはまさか自分の氷蓮の花びらを通過されることを思いもよらず、避ける時間がなかった。漆黒な炎がグラシューの体に当たった瞬間、鎧や肉体が朽ち、腐る過程もなく、グラシューは生き物から魂に昇華したようだ!

「これぞ我が逆世の審判だ。」

 セミトスは自分のこの一撃に満足しているようで、自分と同じく領域の王者がこうやって簡単に殺されると体が震えているケーズを見つめ、次のターゲットを選んだようだ。


 しかし、ノールグラスは無表情で止まらない氷の嵐に徐々に姿が消えた。するとセミトスの後ろから離れている場所に突然グラシューが現れた。セミトスは少し驚いた表情で再び破壊の霧を纏めてグラシューに投げた。黒き炎に触れた後、グラシューは再び昇華したが、セミトスの左方向からまたグラシューが現れた。セミトスは何回も何回も現れるグラシューに黒き逆世の審判を投げて殺し、最後にセミトスの前に現れたグラシューが、ノールグラスの力を集めて二人の氷の力を完全に解放する水平の斬撃でセミトスを斬った。一瞬、天地に奇妙な光が輝き、氷の嵐はやんだ。

 上空にエネルギー放射によって放出された光線の下で、姿を戻したノールグラスとケーズは心の中でグラシューのこの斬撃に称賛した。その後、ノールグラスはケーズにうなずき、追撃を求める合図をした。


 そうするとケーズは頭を下げ、右手は胸にアメジストで作られたクロスペンダントを握りしめ、ゆっくりと目を閉じて呪文を歌い始めた。呪文の最初の数文を聞いた後、ゴースト・ドラゴン・キングは翼を広げ、まだ輝いている空中にある奇妙な光の周りに飛んで弧を描いた。

 同時に、ノールグラスは全身を動かして強力な魔力を集め、腕を振った。すると氷の結晶が彼の足元に魔法陣を形成した。始祖の氷帝であるノールグラスの行動を見て、空中にいるポールトル族の兵士たちはすぐに水の要素の呪文を詠唱して、ノールグラスを協力しようとしていた。

 斬撃の後、グラシューはアイス・ドラゴン・キングの頭の上に座り、魔力や体力の消耗が激しくて疲れている様子。セミトスを斬撃した一瞬にセミトスが左手で反撃されたせいで粉々になった上半身の鎧、それにセミトス周囲の破壊の霧によって浸食された氷蓮の花びらは大半破損している。グラシューは弱い声で呪文を唱えてその鎧や氷のバリアを修復している。しかし彼の氷骨剣の破損はもっと酷いようだ、元々白い雪の結晶のような純粋で半透明の氷骨剣は、セミトスの体を斬った際、その体に蓄えられている破壊の力のせいで侵食された。刃の一部が黒くなり、そしてその黒い部分はゆっくりと広がり、氷骨剣が砕け散るのも時間の問題であろう。氷帝は頭を上げて、ノールグラスとテレパシーを始めた。

 

 グラシューはため息をついた。

「まさか余の「氷嵐・浮影」がどれも一撃で粉々に吹き飛ばされるとは思っていなかった。もっと時間を稼いでくれるとここまで魔力の消耗も激しくなかった。それに破壊の力による侵食は私らポールトル族の神剣までも…」

 彼の声は怒りを明らかにしているが、結局無力に話を途中までにした。ノーグラスはできる限り落ち着いた感情で話した。

「セミトスの攻撃魔法を見て私の推定では、氷の領域の最上位である防御魔法、「十二の氷蓮の花びら」は役に立たない。この危機的な状況では、防御を捨てて剣心を使うしかない!そうすれば、グラシュー、まだ少し時間を稼げるかもしれない。」

 空にある奇妙な光は消え、セミトスは無傷の姿で衆人に現れた。そしてセミトスはグラシューに嘲笑った。

「今の斬撃はドムが取って代わったら殺されるかもしれないが。でもよく見ろ、もうほとんど魔力を残していないその狼狽な姿よ。領域の王者だと謳われる者もこの程度でしかない。次は必ずお前らの命を取って見せる。」


 この時、ケーズは突然目を大きく見開いてノールグラスに叫んだ。

「ノールグラス!始めよう!」

 ケーズの準備を待っていたノールグラスは合図をもらった後、氷の兵士たちが放出した滝のような水を高速に凍らせて巨大な氷蓮を作り出した。この蓮の花は本物の花のように風と共に動き、蓮の花びらから発せられる寒気は、すべてを一瞬で凍らせるのに十分な力を蓄えていた。

 グラシューが竜の背中から飛び降りて氷蓮の花びらに着地し、ゆっくりとその蓮の中心に向かって歩いていった。グラシューが花の子房を開けて入った後、しばらくすると、花の花托から花全体に通る白い光が輝き、柱頭よりビームが飛び出し、蓮の周りの冷たい空気に含まれる魔力の総量はなんと先ほどグラシューの斬撃よりも上回った。


 しかしセミトスを含めて空に浮かぶ四人の悪魔はまったく気にしていないようだ。セミトスは腕を組み、この三人が差し迫った攻撃を待つつもりだ。

 ノールグラスはケーズに頭を振り向けて叫んだ。

「ケーズ!あなたも剣心を使おう!」

 ケーズはドラゴンの背骨にしゃがみ込み、「いや!役に立たない!奴が背負う武器は私の武器よりも強力で効果がないんだ!」と返事した。

 ノールグラスは首を横に振ってセミトスに攻撃魔法を使った。

「氷神の罰、異火!」

 彼の水晶のような体は青い炎に包まれた。奇妙な火は勢いが増すたびに周囲の寒気が強くなっている。そしてノールグラスは次々とセミトスに異火を投げた。飛んでくる青い炎を見て、セミトスはわずかに微笑んだ。彼の口は彼の目と同じ赤い色だった。


 マルフォンは左腕を振ると、最初の異火がすぐに爆発したが、放出された衝撃波は触れたものをすべて凍らせた。セミトスも半身が凍りついてしまい、彼は続いて二番目の異火を消すために手を振って分散させるつもりだったが、彼の腕は異火に包まれ、燃え続けていた。

 セミトスはただ自分の体に急速に広がる異火をじっと見つめている。「カチッ」とセミトスは完全に凍りつき、この際ノールグラスは両手を挙げてその氷にさらに魔力を富んでいる呪文を貼り強化していた。そして彼は隣のケーズに大声で指示した。

「ケーズ、今だ!」

 ケーズも大声で返事した。

「わかっているとも!」

 するとケーズの全身に赤い呪印の文字が現れ、両手で刀を上げて頭の右側に構え、ケーズは全身の力で叫んだ。

「ゆけ!冥炎・九竜怒鳴!」

 ケーズは剣を激しく振った。幽霊竜の目も赤い光を放ち、ケーズの技を強化した。ケーズは紫色の魔力を九本発した。その魔力の形は竜のような細長い炎であり、セミトスを大地に衝突させ、周囲のものを蹴散らすような勢いだった。


 衝撃が落ち着いた頃、氷蓮から白い光を放つエネルギーのビームは地面を突き抜け、蓮の中から銀色のロングヘアの男が飛び出した。彼が持っている「極氷の骨・ノールグラスの懲」からしか自分の身元を知ることができなかった。正しく氷帝・ポールトル・ノール・グラシューである。

 ケーズ、ドム、マルフォンはこの強力な魔法に唖然としましたが、ザンカフロス、クロルはまだ軽蔑的な表情を持って棒立ちのままでした。ケーズはしばらく呆然とし、グラシューに向かって叫びました。

「この時点に達したというのに、まだ自分の力を隠していたのか?何を考えている?氷帝!」

 グラシューは非常に冷たい表情でケーズを見上げたが、数秒後無言で修復された氷骨剣を手に持ち、アイス・ドラゴン・キングの背中に飛び乗り、ケーズの攻撃によって形成された地面の大きな穴に向かって急いで飛んでいった。


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