第十一話 末路

【龍の領域、創造の神殿第十二層】光帝・カルロ・ジックは12階の階段に足を踏み入れ、ひざまずいて「大帝」と言った。通常では創世帝と呼ぶべきだが、パーリセウスはそこまで呼び方に気にする者ではない。親しい臣下であれば大帝で呼んでも構わない。ましてや同族のカルロ・ジックは言うまでもない。


 カルロ・ジックは見上げたが、ホールにはパーリセウスの姿がなかった。自分の感知能力が苦手というのも仕方ないが、カルロ・ジックは少し驚いたがひざまずき続けている。しばらくすると、創造の玉座の後ろにいる少女の純金の神像が輝く光を放ち、宮殿全体にゆっくりと広がっていった。その光と共に穏やかな風がカルロ・ジックの顔に吹き、モーラ花という龍の一族を代表する花の香りが空気に漂う。遠くから鎧が互いに衝突し、どんどん近づいていくサクサクした音が聞こえた。カルロ・ジックは急いで頭を下げ、創世帝の到着を待った。


 パーリセウスは創造の玉座に座りかけ、笑顔で話しかけた。「ジック、戻って来たのはとても早いね。」

 カルロ・ジックはパーリセウスの話を聞いた後、恐ろしい表情を浮かべながら頭を上げた。「いいえ、大帝。恐れ入りますが、私が急いで行ったとき、ドムはすでに世界で悪魔を召喚しました!私は召喚された四人の悪魔の中の一人と戦いましたが、別の悪魔は天地を覆うほどの破壊の霧を出しました。私はその霧を消したとき、すでに彼らに逃げられて転移魔法陣だけ見つけました。大帝、私は…」

 これを聞いた後、パーリセウスの目に一瞬恐怖の光が広がり、玉座から立ち上がり歯を食いしばった。その瞬間宮殿内にパーリセウスの怒りの感情と魔力が満ちた。

「グラシューの役に立たず、一度倒したドムに抵抗できなかったとは。ジック、先にそなたを行かせるべきだったな。けど、現時点でこれを言うのも遅すぎる…衛兵たち!」

 創世帝はいきなり叫んだ。その威厳たる音とともに、両側の六つの窓が開いた。続いて十二頭の剣背龍が膝をついて創世帝の指示を待っていた。


 パーリセウスは大声で命令を下した。

「ドラゴン軍団はもう前回の大戦より半数以上回復しているはずだ!いまだに重傷から完治していない龍帝を除いて、大軍を出動させる。」

剣背龍たちは命令を受けた後、即座に宮殿から飛び、伝令を龍の領域全体に知らせに行った。

 パーリセウスはホール内で歩き回った。

「龍帝・ルドーインはこの剣心境界の中で留守させる。まだ前回の大戦によってできた宇宙の裂け目が完全に修復されていないので、私も出陣しなければ。」


 カルロ・ジックは創世帝まで出陣するとは思わなかったため、少し驚いたが、喜びの表情を浮かべた。

「最悪の場合、ソロムネスが深淵の封印から脱出すると、私は直ちに彼を圧倒する。各領域の王者に伝えよう、迅速に軍団の兵士を送らせて戦に備えるのはいいが、これ以上は無意味な死傷者が増える戦になるぞ。ドラゴン軍団はもしもの時悪魔の大軍と戦う切り札になるため一旦待機で。」


 カルロ・ジックは笑顔でうなずいた。

「闇の領域への転移魔法陣は即刻用意いたします。」


 しかしパーリセウスは手を振って断った。

「私は先に守護結界に入る。」

 パーリセウスのその一言でカルロ・ジックを驚き喜ばせた。

「この些細なことでそこまでは…」

 パーリセウスは腕を組んだ。

「いや違う、私は【龍の両翼】をそなたと同行させるつもりだ。」

 カルロ・ジックはうなずいた。

「さらに…虹の神も出動しますか?」

 パーリセウスは軽く笑った。

「その通り。」


【闇の領域、封印深淵】グラシューは地面に倒れて過呼吸をしている。眉をひそめ、歯を食いしばり、空に飛んでいるドムが恐ろしい笑顔を見つめている。

「こいつの破壊の力、さっきとはまるで別人だ。一体どういうことだ。」

 グラシューにはわからない。ソロムネスが封印されている今、破壊の力の根源は断ち切れたはずで、これ以上力が増加することはないと思っていたようだ。


 ドムのそばにいる四人の悪魔は、良いショーを見ているフリで棒立ちしている。マルフォンは口を大きく開けて数回笑った。

「破壊の力は、この世界と一番強い炎の魔力と混合している。ハハハ、その力は確かに並外れている。だがな、俺は今地上に立っている氷帝というものがとても無能な奴に見えるぞ。」


 闇帝・ケーズ・ロミールは、マルフォンとドムの笑顔を見て非常に不快になり、大剣を上げてドムに駆け寄った。そして絶え間なく斬り続けたが、ドムはなんの動きもせず、ただ斬られるのを耐えているが、破壊の霧は彼の皮膚から浮かべて彼自身の炎と素早く傷を修復している。

 そしてケーズもそのことに気づいて強力な一撃で斬りつけたときに、ドムはすでに黒に染まった斧、蛮炎の心・オルカ・ドムの罰を振り上げて迎撃した。剣と斧がぶつかり、衝撃と同時に巨大な魔力の振動が放たれた。


 闇の領域は元々炎の領域や雷の領域と同じく、前回の大戦でソロムネスの配下に入って塵世のあらゆる星に侵略していたが、パーリセウスや今の盟友となる者たちの善行や決意に感動し、自身一族の生まれながらの罪を償うために、世界を守ろうと最初に転向した。こうして闇帝・ケーズ・ロミールも闇の魔法を使っても決して闇に落ちないと戦い続ける。

 その決心は力となって、ケーズの肉体を強化したか、ドムの破壊の力によって強化された体でも負けず、ゆっくりと武器をもってドムの攻撃を抑えている。しかし、この状況を見たマルフォンは左手を振り、するとドムの周りに纏う邪炎が爆発した。ケーズは至近距離での爆発に抵抗できず、空から落ちたが、相棒のゴースト・ドラゴン・キングがちょうどいいタイミングで彼の下を通り、ケーズを乗らせた。


 ケーズは幽霊竜の背中にゆっくりと腰を下ろした。すると彼は眉をひそめ、胸を手で覆い、血と極めて純度の高い魔力によって凝縮された精髄を口で何回も吐き出した。

「さっきの一撃で、魔力の核心が損傷を受けたか…」

 ケーズは魔力の精髄を見て、そこから薄い黒い霧が浮かんだことに信じられない顔で見つめた。

「やはり、我ら一族は破壊の力に抵抗すると莫大なリスクを伴うのか。」


 ケーズは歯を食いしばって自分を落ち着けさせ、そしてドムと悪魔の方向に大剣を振って、無数の軍団兵が駆けつけた。

 その隙間にケーズは幽霊竜を氷帝の側に追いやった。彼は胸元をしっかりと握りしめ、氷の皇帝に向かって話しかけた。

「どういうことだ、今の爆発はドムの攻撃か?彼の力は先ほどあなたの話と全然違うではないか。見よ、今のところ上空の四人の悪魔は岩っぽい者しか手を出していないのに、わが軍はすでに数千人の死傷者が出ているぞ、いずれも精兵なのに!」

「余もわからぬ、ここまでやって考えられるのは一つだけ、ドムの力はその悪魔たちに渡されたのだ。」

「でもあなたもさっき光帝から送られた使節の報告を聞いたよね、悪魔の魔力に変わりがないと!つまり、誰も破壊の力をドムに渡していないはずだ。」

 ケーズが話した後、彼は怒ってグラシューを見つめる。

 ノールグラスはグラシューの側から現れた。

「私の推測によれば、ドムの破壊の力は、恐らく眼だけが赤い悪魔によって提供された。他の悪魔の魔力は感知した結果、光帝の使節の報告と同じく減少していない。」

 ケーズは眉をひそめた。

「不可能だ!彼の全身に魔力がないように感じる。」

 グラシューも同時に眉をひそめた。

「そうだ、これは極めて異常だ。」

 ノールグラスはうなずいた。

「私も同じように感じる。」

 ノールグラスはケーズの困惑している顔を見て。瞳から放つ青い光は徐々に薄暗くなった。

「だから私は非常に恐ろしい推測があり、そいつの魔力は無限ってこと。」


 それを聞いてケーズはすぐ反論した。

「創世帝のパーリセウスと会ったことがあるか、彼こそ魔力が無限で戦い中に常に魔力に満ちている。如何ほど魔力の消費が恐ろしい魔法であってもそうだ。そもそも魔力が感じられない相手は魔力の貯蓄が無限なはずがない。」


 それに対してノールグラスが一言だけ言って黙った。近くのグラシューが聞いた後、あまりにも低くて聞こえないで何かを言っている。グラシューの表情は次第に鈍くなり、アイス・ドラゴン・キングの背中に倒れ込み、つぶやいた。

「もしそうなら、それは説明できる…もしそうなら…」

 離れているケーズはグラシューの反応を見てノールグラスに問い詰める。

「何を話したか、一体どういう推測だよ!」

 ノールグラスは頭を振り返り、青い水晶の瞳が完全に薄暗くなった。

「ブラックホール…」

 ケーズはその言葉を聞いて真剣な顔になり、しばらく考えた後、何かを察したようで怯えで瞳が揺れている。

「そうだね…それなら確かに説明できるね。ならば彼らをできるだけ時間稼いで、誰かにすぐに創世帝に報告させ、龍の領域から救援を求めよう。」

 ノールグラスとグラシューがうなずいて、三人揃って絶望的な表情で空を見上げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る