第十話 悪の足音

【闇の領域、ケール星】星のみならず領域全体は黒と紫の魔力が漂っている異世界のようだ。空に向かって傾いている巨大な竜の頭のような崖の上に灰色の城が建てられている。それが闇帝の王城だ。


 空には常にいくつかのエネルギーが固まり、赤い光と化して現れる。ただの光と思えば、それらの赤い光が突然パチッとして地面に落ちる。スライムのように地面にべたついてゆっくりと暗くなる。このエネルギーの根源は星から生み出されたのか、空からなのか、それとも別の何かなのだろうか。


 闇帝のケーズ・ロミールは王位に座り、月夜騎士の報告を聞いている。今回氷と火の戦争の戦況を知り、ケーズは一度倒した相手に負けたグラシューを笑ったが、ドムがソロムネスの力を持っていると聞いたとき、ケーズの顔に残っていた微笑みもゆっくりと消えて愕然とする表情になった。彼は月の騎士に報告を止まれの合図するために手を上げた。玉座から降りるケーズの長い紫色の髪の下に真っ黒な目が閉じる。


 少しの時間を経つと、「それで、結果どうだった?」とケーズは尋ねると、月夜騎士が再び報告し始めた。ケーズは耳を傾け、熟考する様子だった。騎士の報告が終わった後、赤紫の模様のローブを着ているケーズは王位に向かって歩き、騎士たちも闇帝の指示を待つために敬礼する姿勢を保つ。その後、ケーズは指の関節で何回か頭をたたき、騎士に命令を下す。


「龍の領域に誰か、伝令兵を送って、直ちに闇の領域の状況や増援の要請を創世帝・パーリセウスに知らせろ!さらに!連合軍に属するすべての軍団と連絡を取り一刻も早く増援してこい。それに…」

 ケーズが話している最中に、玉座の前に突き刺す氷の棘で転送魔法陣が展開されていた。月夜騎士は氷の棘を気にせず、迅速に素の魔法陣を囲んだ。

 魔法陣から現れたのは氷帝・グラシュー一人だけだった。氷帝は目の前にいる唖然とする月夜騎士たちの表情を見て失笑した。

「これはなんと予想外の歓迎か、闇帝。」

 ケーズは眉をひそめた。

「闇の領域ではいきなり城内に入ると宣戦布告することと同然だ。同盟国の間でも非常に失礼なことだ!でも、今は特別事態だ、よく適切な時に来てくれたな。」

「なら、早速防衛線を強化し始めよう!恐らくドムは悪魔と同時に来るだろう。」

「2つの軍団の力だけでは足りないかもしれない。」

 グラシューは珍しく喜びの表情を見せた。

「風の地域の自然の軍隊もこちらに参戦するようになった!」

 ケーズはこれを聞いた後、腕を組んだ。

「とても宜しい、でも風帝は?」

「風帝は万が一の時に備えてとどまった。」

 ケーズは再び眉をひそめた。

「つまり風の領域で留守するということか。万が一の時?これは絶対に失敗することが許されないはずだ!戦いに出さなかったら、創世帝は指揮を執るだろうか?」

 

 グラシューの目は少しぼんやりしていたが、彼はうなずいた。同時に、ノールグラスの声はグラシューの心に響き渡った。

「グラシュー、これは賢明な決断ではなく、合理的でもない。あなたの心はねじれているように感じる。それはソロムネスの影響を受けているのか?」

 ノールグラスの鮮明な画像が氷帝の心に現れ、同時に氷帝の画像も鮮明に現れた。彼はやや軽蔑的な口調で言った。

「私たちと闇の領域と風の領域の人々が悪魔と蛮炎の軍団に抵抗して成功した場合、もしくは隠光の軍団がドムをうまく止めた場合、そいつらの連中は他の領域まで逃げる可能性がある。その時、風の領域の軍団はそれらの最終的な包囲と抑制を実行することができる。」

 話した後、グラシューの姿が先に消えた。

 グラシューとノールグラスの会話はもちろん、闇帝が聞こえない。闇帝は眉をひそめた。

「奇妙だな…とりあえずドムの実力を考慮し、それらの悪魔と一緒にいても3つの軍団は抵抗できるはずだ。我らは過去の大戦よりも遥かに団結し強くなったから。今目の前の課題は侵攻を防げること、残りは後で議論しよう。衛兵、下がれ!」


【炎の領域】カルロ・ジックはやっと破壊の霧で構成された障壁の最後の層を壊した。すでに祭壇の上下の悪魔と蛮炎の軍団は跡形もなく消えていた。これを見て、カルロ・ジックは慌てた。

「ツク、これはひどい事態だ!急いで闇の領域への魔法陣を準備するために急がなければならない。」

 カルロ・ジックの隣にいる戦士は謙虚な口調で尋ねた。

「光帝、私たちは最初に創世帝に知らせましょうか?創造帝に塵世最強の軍団ドラゴン軍団の救援を求めるべきかと存じます。」

 

 これを聞いた後、カルロ・ジックは考えた。

「まず大軍は深淵に向かわせろ。同時に急いで龍の領域への転移魔法陣も準備しろ。私は創世帝と直接に交渉する!」

【闇の領域、封印深淵】主星の北端には、底なしの巨大な亀裂が見える。亀裂の全方向に堅固な防御線の層があり、鱗が紫色の鎧のようで体は幽霊のようなドラゴンが亀裂の上を飛んでおり、目の中に青い炎が燃える。巨大な翼は闇属性の魔力を拡散している。

 紫色のマスクをかけ、黒い鎧を着ている幽霊竜の騎士は決して怠ることなく警戒している。地上では、絶えず黒いオオカミを乗っている月夜の騎士団が、深い亀裂を巡回している。

 深淵の中層部には深淵と同じサイズの赤い魔法陣が浮いている。上層部では幽霊竜を乗っている幽霊竜騎士団もたくさんいる。洞窟の壁には大きい歯と長い舌を持つ白黒混じりの怪物が覆われている。

 突然、低いラッパの音がすべての兵士の注目を集め、灰色のコートを着ている二人の伝令兵が通りの両側に立って敬意を表して待っている。


 遠くからアイス・ドラゴン・キングが冷たい空気を吐きながら歩いてきた。その息は触れた大地を薄い霜で覆う。

 その隣に共に歩いてきたのは同じ大きさのドラゴン、ゴースト・ドラゴン・キングだ。普通の幽霊竜の目からしか出てこない青い炎だが、ゴースト・ドラゴン・キングは全身を覆い、青い炎が燃えていて時々周囲に飛び回る。この二つの巨大なドラゴンの後ろには、一目では入られないほど大勢の軍隊がある。場所の広さのせいで領域全体の軍隊を出陣させることはできないが、今回召喚されたのはどんな能力を持っている悪魔かはまだ誰も知らないため、時によって大勢の兵士が敗因にもなるかもしれない。この場に呼び出されたのは数千億の軍団の中で最もエリートな戦士たちだ。


 現地ではすでに三つの転移魔法陣が築かれ、それぞれ魔法陣は違う色の光を放ち、点滅している。氷、風、闇三つの領域の軍団の兵士を絶えずに召喚している。すべての兵士の目には、すでに勝利を納めたように、誇りの輝きがある。前回の大戦とは違い、領域同士がただの友好関係、敵対関係ではなく、史上初めて同盟を組んで共に戦うことになった。これらの兵士の中にも過去の大戦で悪魔の軍勢と戦った生存者がいる。確かに滅世帝・ソロムネスの力を見て絶望したこともあるが、今そのソロムネスはこの足元の深淵でしっかりと封印されていて神々も勝る力でなければ心配はご無用。ましてやこれから光、さらに龍の領域の軍団も加勢するかもしれないと聞いたため、なおさら戦意が高まる。それに、これは創世帝と同族の光帝・カルロ・ジックも破壊の力を持っているドムに負けてしまった場合を想定した上での準備だ。

 希望を持つのはとても大切なことだが、希望がある故、絶望を感じることもある。


 不意に、この惑星の半分を襲う炎の嵐が現れ、亀裂の上で蔓延している。炎の嵐の中から呪いのルーンが震えて、破壊の霧を放つ。この場にいるすべての戦士は、上空の炎を見てすぐに戦闘状態に入り、そして破壊の霧を見てもなお恐れずに立ち向かっている。各自上官の指示に従って魔法を使い上空に発射し、さらに上にある転移魔法陣の形成を妨害しようと最も強力な呪文を唱えた。風の領域の戦士たちのおかげで多属性の魔法も加えて、氷、風、闇、水、土、木、無のエネルギーは竜のようになり空に飛び上がる。


 龍が如くエネルギーが炎の嵐に当たったあと、嵐はすべて消されたが、遥かにそのエネルギーを超えた破壊の力には勝てなかった。呪いのルーンは一秒も止まらず黒い霧を出している。その霧は兵士たちの魔法とぶつかり、対抗し、食らい尽くす。致命的な黒い霧は波のようにさらにあふれ出し、まるで今日は終わりの日のようだ。わずか二、三回の衝撃で、兵士たちの呪文は跡形もなく散らばった。


 グラシューとケーズはすぐに気づいた。これはグラシュー、ケーズ、ドム、カルロ・ジックのような領域の王者よりも遥かに上の存在によって放たれた破壊の力だ。彼らの王者たる者の凛々しい顔にも一瞬恐怖が閃いた。


 だが、ここまでくるともう死戦するしかないと悟った。伝令兵に増援を求める命令を下した後、氷帝・ポールトル・ノール・グラシューは、縮んでいた極氷の骨・ノールグラスの懲をかさぶたから引き出し、向かい合った二つの平らな氷の蓮の刃を解放した。


 闇帝・ケーズ・ロミールも右手に白い光が輝く。次第に黒くなる。その光の中に現れたのは巨剣だ。彼はいくつかの呪文を唱え始めると、剣の柄に黒いエネルギーの束がいくつか放出され、ますます大きくなって九つのドラゴンに変化し、剣の先端に絡み合う。最後に、表と裏の刃に九つのドラゴンが絡み合った模様の白黒の巨剣に変わった。これはケーズの武器、黒き王子・魔竜呑噬の剣(ブラックプリンス・マジックデヴァウア・ドラゴンソード)だ。


 二人はそれぞれ黒と白い翼を広げ、空を飛び、呪いのルーンを阻止する。無数の兵士たちも、ドラゴンか自力で飛び、王たちの背後に付き、その氾濫している黒い霧の中で徐々に形成される渦に向かう。

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