第三話 氷と炎の二重奏

「小細工だ。祖霊から代々伝承されたこの炎の秘法で、核心がなくなっても…」

 ドムの体の穴に微かな火花が集まり、徐々に穴を修復している。

「貴様らを焼き尽くすぞ」

 自分の「アイス・スピアー」でドムを貫通したのに徐々に回復しているドムを見たグラシューは全く驚いていない。通常だとどの種族でも弱点になっている核心さえ壊せば魔力を二度と使えなくなる一方、死に至るほどのダメージを受けるはずだが。大気の温度が逆にドムの炎で徐々に上がっているのは氷属性の魔法を使うグラシューたちには不利な状況に発展している。

「ドム、貴様はその斧に依存していることを証明するぞ」

 グラシューは目を閉じて徐々に空に飛び、魔力を蓄えている。

 それを見たドムは炎の魔力を槌に注入し、グラシューに向かって全力で投げ出した。

 しかしグラシューは目を閉じたまま「破・氷浪」を止めた。そして周りの風が徐々に強くなり、蛇のようにグラシューの周囲に回っている。

 ドムが投げ出した槌が近づく瞬間、グラシューは目を開け、その目は青い炎が燃えている、炎の中に蓮のようなルーンがきらきらと輝いている。これは、きわめて密度の高い魔力が含まれている血液が空気と摩擦すると燃えているからだ。

 「ドン!」と槌がバリアにぶつかったが、そのバリアに傷がなく、むしろどんどん広がっていく。そしてグラシューの体から次から次へとバリアが剥離されていく、12玉になるまで止まった。玉のようなバリアはそれぞれ少しの隙間がある。これが氷蓮の花びらの最終形態。


 ドムはそのバリアを見て荒い鼻息を吐いた、グラシュー本体以外眼中にないようだ。彼は両手で斧を持ち上げる、その斧がすぐ燃えた、燃焼している斧を持ち斧の舞を踊り始めた。斧の炎は流星のように長く伸びる、魔力が増加していく。わずかな時間で膨大な魔力を体から出力したドムは踊りをやめ、グラシューに向かって高く跳んでバリアを斬る。跳んでいるうちにドムの背中にも徐々に炎が集まり、悪魔の翼のような形になった。

 数秒だけの斬撃で氷のバリアが傷だらけになったが、まだしっかりと形を維持されている。

 ドムの目にも炎が燃え、ただ、色はグラシューとは真逆の血のような赤い炎だ。彼は斧を持ち上げてその傷だらけのバリアに最後の斬撃をした。

 斬撃によって破られた氷のバリアは爆散し、雪のように降り積もった。

「天誅の炎!」(ダムネーション・ファイア)

 ドムの燃えている両目の炎が徐々に伸びる、まるで血管のように全身に付着している。

 「よかろう、貴様はその絶技ですぐ決着をつけたいのであれば、余も付き合おう」

 グラシューは自分の大剣を振り、空気の水分をすぐに凍るほどの氷属性の魔力が薄く青く、その大剣の中心から広がる。

 「この極氷の骨・ノールグラスの懲(ポーラーアイス・パニッシュ・オブ・ノールグラス)で!」(以下、氷骨剣と略称する)


 周りのポールトル族とコルナー族の兵士たちはお互いの首領の激闘により、士気が高まり、氷か炎属性の魔法で支援するか、地上の炎か氷の大波を消しているが、巻き込まれないように先ほどドムの技、タイタンの剛腕によって開いた道から遠く離れる場所で戦っている。


 グラシューは一玉のバリアを体内に収めて、大剣を振りながらドムに向かって真っすぐ飛んでいく。白くて長い飛空の軌跡に伴い雪の結晶が上空から降ってくる。外周のバリアは段々と宝石のようになり、氷骨剣の上に嵌る。ドムも斧を持ち上げてグラシューを迎撃する態勢を整えた。


 衝撃!炎と氷の激奏が最高峰だ。


 上空の音は戦場のすべての者に王者たちの決戦から離れる警鐘を鳴らした。これ以上ここに近づくと死に至るだけだ。


 グラシューとドムはそれぞれ剣技と蛮力で戦っている。バリアが化した宝石の光は戦いの途中に段々と薄くなる。完全に消える前にグラシューはまた一玉のバリアを宝石に転換させ、武器に装着した。

 本来ならドムのような軽率で蛮力しか使わない獣なら、防御を捨てて攻撃に集中するタイプの戦い方を選ぶはずだが。種族の千年の仇敵はこの日に抹殺できるチャンスを得たからか、グラシューは何の打算もせずバリアを消耗するようだ。

 ドムに攻撃するときにもバリアを氷骨剣の魔力増幅用にするほか、ドムからの攻撃を太刀打ちせずバリアの一部だけ具現化して防げる。

 でも確かにこの戦い方は高効率だ。ドムの体に与えたケガの速度は再生速度を超えた。

 「今こそ余の絶技を使うときが来た」とグラシューが思い、渾身の一撃でドムを空から打ち下ろした。青と赤の魔力が混じる霧の中に赤い光が素早く地面に落ちた。

 そして次の瞬間、氷骨剣はまぶしくて白い光を放った。氷骨剣を握るグラシューはドムに止めを刺すために打ち下ろされたドムのいる方向に向かって加速して、ドムにあと一歩の距離で斬るところだった。


 しかしドムは、破壊されたテントの廃墟から立ち上がり、「炎爆!」と叫び、かかってくるグラシューと周囲のすべての者を炎の力で打ち飛ばした。

 赤くてまぶしく、まるで地上で小さな太陽を作ったようだ。

 この一撃によって、地上のすべての破・氷浪がすべて蒸発した。


 遠くまで打ち飛ばされたグラシューは足元にある絨毯のような氷の結晶を見て、いつも冷たい表情をしている氷帝でもこの一撃の威力に驚いたようだ。

 「まさかこの一撃で俺のバリア、三玉も壊したとは。ドムのやつ、あれ以来また数え切れないほどの生霊を生贄にして自分の魔力を増加させただろう、この汚い獣が。」

 グラシューは残り五玉のバリアを収めて、前方に両手を構え再び破・氷浪とアイス・スピアーで攻撃をした。

 無数のコルナー族の兵士たちは刺されて死んだ、あるいは破・氷浪に巻き込まれて粉末になってしまった。


 目視したはずだが、ドムは同胞の惨死に全く気にしていない。いまはもはや言語能力すら失った。

 理性や武技を捨て、その代わりに得た力と魔力の増幅がコルナー族の最大の切り札、狂化だ。


 魔力の増幅によってドムの体に付着している血管のようなものは倍の大きさになった。一部は限界を超えて破ってしまった。そしてその血管からドロドロの液体が垂れて、空気に接触したからか、燃え始めた。あっという間にドムの全身が燃えることに。

 ドムはすでに理性を失ったが、自分の斧を見た後低い声で呪文を唄った。斧の炎の勢いが直ちに暴れ、ドムを中心にして火の竜巻が作られた。

 竜巻中、ドムの声が響く「蛮炎の心・オルカ・ドムの罰(フレイム・オブ・ハート・ペナルティ・オブ・オルカ・ドム)!」(以下、蛮炎斧と略称する)


 破・氷浪とアイス・スピアーはまだドムに近づいている。コルナー族の兵士たちは王のために自ら自殺攻撃でグラシューの攻撃の勢いを阻めている。それぞれの武器に炎と地の魔力を最大限まで入れて破・氷浪を壊した後、力尽きたためそのあとのアイス・スピアーに貫通されて、凍られて、彫像になってしまった。王は自分たちのこと、一度も大切に扱ってもらったことないのに、王に忠義を果たすことこそが命の価値だとコルナー族の兵士たちはそうやって教わったのだ。


 ドムは、炎の竜巻から出てきた。彼は両手で魔力を蓄えて、タイタンの剛腕を二発放った。タイタンの剛腕は先ほどの威力より遥かに上昇したのは見るだけでわかる。破・氷浪だけではなく、アイス・スピアーの発動に必要な水分を含む大地まで破壊して水分を蒸発させた。しかもこのタイタンの剛腕によってポールトル族の兵士たちも約三割が殲滅された。

 残りの部隊は約半数が残っているが、軍隊の半数以上が戦闘不能になると戦闘力を失ったのと同然。これからは王者のみの戦場となる。


 蛮炎斧の周りはドムの大きな拳と同じ大きさの炎が爆発している。赤色の花火のように綺麗だが、地面に落ちた余燼は大地を燃やした。その余燼は接触された岩石も段々と溶けてマグマになるほど熱い。

 これがコルナー族代々伝承された神器、蛮炎斧。

 ドムは武器を構えてグラシューに最強の一撃を準備している。向こうにグラシューもそのつもりだそうだ。

 二人の王者は、この一撃にかける。


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