第二話 激奏

 アイス・ドラゴンが次から次へと地面に降り続ける。それを見た炎帝の軍勢は武器を構え、殺意満ちている目でじっくりと見ている。

 群龍の頭になるアイス・ドラゴン・キングは翼を急に広げ、その動きによる氷混じりの風が周囲に吹く。猛烈な風は止まる意思がなく、そのまま炎帝の軍勢に襲っていく。よほどダメージはないが、こんなとんでもない挨拶に対して、リザードマン戦士たちは斧などの武器を前方に伸ばし、武器から炎の魔力が広がり、どんどんバリアの形になった。なんとか風を耐えたが、それらのバリアの上には暴風が通り、軍勢の中心にある赤い蓮の絵に描かれた軍旗が暴風に揺れられ、あと一歩で落ちるところだった。

 軍旗はその軍勢の象徴となり、場合によっては戦士の命より大事だから倒れてはいけない。そうでなければ士気が落ちるのは当然のことだ。

 千年の宿敵の前に恥をかいては行かない、テントから出た炎帝のオルコ・ドムは両手で炎を放ち、その炎がまるで巨人の腕のような形に伸びていく。軍勢の中心にある二つの軍旗をしっかりと握った。燃やさない炎属性の素材で作られたはずだが、あまりにも高温すぎて、その腕に握られたせいで、握られたところがどんどん焦げていく。

 王の動作を見たリザードマン戦士たちは踊りながら喝采し、あふれた感情と炎の魔力を混ぜ、数えきれないほどの小さい火の華となり、軍勢の上に飛び交う風景であった。


 風、ようやく止まった。氷帝グラシューとその配下の極氷騎士たちはすでにアイス・ドラゴンから降りた。

 百戦錬磨を経た極氷騎士たちは迅速に攻撃の構えをし、氷帝の後ろに三角形の陣形を組んだ。龍の領域を除いて塵世最強の王者氷帝グラシューの強さを完璧に発揮する魚鱗の陣形で、命令さえあれば、いつでも炎の軍勢に手痛い打撃を与える。


「久しぶりだな、ドム」

 グラシューはゆっくりと方陣の陣形から先方に歩いているドムと目を合った。お互い約300メートル離れているが、強い氷の魔力が満ちている音波はまるで氷のイヤホンのように、氷帝の声をそのまま届けた。

「ポールトル族の小僧、貴様ではなく、先祖のグラスーを呼び出せ」

 ドムは首を振り、話すたびに小さい火の花が噴出していく。その低周波音に近い声があまり減衰せずにグラシューに届けた。

 氷帝の前に無礼なことを言ったとは、ドムの話を聞いたグラシュー周りの極氷騎士たちの殺意はさらに高まったが、逆にグラシューは相変わらず無表情だった。

 彼はゆっくりと右手に握った大剣を両手で持ち上げ、そしたらグラシューの体から淡い白い色の光が発散した。その光はまるで煙のように揺れながら、どんどんグラシューの体から剥がれていく。少しずつ安定する光は縮まっていく、その光の中にだんだん氷の実体ができ、最後に残された光は氷の躯の目になった。

 死んだあと数年経ったが、始祖の氷帝・ノールグラスの魂はいまだに膨大な魔力が残っている。元の躯は壊滅されたが、こうやって魔力で新しい躯を作り、氷に霊を宿ることができる。塵世の中に一度死んでも属性の塊で蘇るものはポールトル族の強者のみ。しかしある意味で不死身ではあるが、極純粋な氷の躯を作るたび残りの魔力が減るため、普段はいつもグラシューの体に宿っている。

「それでは、話をはじめようではないか。我が子グラシューよ、まずは創世帝からの命令を伝えよう」

 口が動いてもいないのに、声はその氷の躯からでたのは間違いない。身長は5メートル近く、一応人の姿ではあるが、人の体みたいなまろやかではなく、

「炎帝・オルカ・ドム、今回我々ポールトル族来た原因がわかっているだろう。光帝のカルロ・ジックが知らせた通りで、創世帝ぺラルド・カルロ・パーリセウスにコルナー族の統治権を渡すのだ。そして十二守護神の前にひざまずけ、そうすればいままで逆世の悪魔を召喚する罪などは今後一切問わない。また、十二守護神の恩典を受け、一族に繁栄をもたらせる。話がわかっているなら直ちに無意味な抵抗をやめろ。話はここまでだが、残念ながら貴様らにはほかの選択肢がない」

 

 氷帝・グラシューの話はゆっくり、そして淡泊に終わったが、全身の魔力は一刻も止まらずに繰り回ししている。

 彼はよく知っている、今みたいにちゃんと人の話を聞いている短気なリザードマンは極めて珍しいものだ。

 だが、今日のドムは今なお冷静に話を聞き、なんの動きもない。氷帝の話が終わった数秒後、ドムも口を開き、ゆっくり話をした。

「コルナー族の信条はたった一つ、破壊だ。この創造の力が満ちている塵世には我々の居場所がない。何が繁栄か、われらには全く興味がない。滅世帝・ソライル・クロル・ソロムネス様はわれらに道を示した、この次元にあるすべての宇宙を破壊し、征服することこそわれら一族が繁栄に至るのだ」

「ほかの宇宙どころが、この塵世でさえ平凡である貴様らでは征服に至らぬ。貴様らまだ生きていることこそが十二守護神の慈悲であることをわかっているにもかかわらず、いまだに滅世帝に忠義を果たすとは、恩知らず獣たちよ」

 ドムの話を聞いたノールグラスもグラシューと同じく魔力を繰り回しはじめた、何せ話が通じてないからだ。残った選択肢は武力で屈服させるしかない。

「そろそろ話を終わろうか、パーリセウスがおまえらに命じるのも対話の目的ではないだろう。戦いなら話が早い、この兵力ならすぐ決着をつける」


 今日こそ千年の悪縁を切るチャンスだが、すぐ終わると惜しい。その前に少し話をしたが、どうやらドムも殺意を我慢する限界に至ったらしい。

「無論、我々も元からそういうつもりだった」

 グラシューの話終わった後、いままでの冷静は我慢に過ぎない、その目から殺意が一気に湧き出した。そして彼はこの戦いで最初の一歩を踏み出した。

「氷蓮・開花」

 グラシューは左手を上げ、同時に大剣を握った右手から周囲の空間を捻じ曲げるほどの魔力を放出した。その魔力がだんだん大地に垂れ、とてつもないスピードで前方に発散していく。あっという間にリザードマンたちの足元までに届いた。そして次の瞬間、大地から一本ずつ氷の棘が刺し出す。鋭い前端はすぐリザードマン戦士たちの肉体を貫通した。赤くて熱い血はあっちこっちに飛び散る、氷の棘と接触するなり凍ってしまった。

 だがドムは冷静さを失っていない。

「ポールトル族の小僧よ。その不思議な氷骨剣さえなければ、お前如きの若いやつはとうに相手にならず」

 

 ドムはゆっくりと背中に負っていた鎚を空にあげ、力を蓄えている。拡散していく氷の棘はあともう一歩でドムまで届くところに、槌を下ろして衝撃波を放出した。この一撃で周囲500メートル以内の氷の棘を飛ばし、灰色の大地に戻った。だが、ドムの攻撃も配下のリザードマン戦士にも及ぼした。そのせいで何十名のリザードマン戦士も死んだのだ。

 さすがに周囲の悲鳴を聞こえたはずだが、ドムは反応がなかった。いま彼の目にあるのはグラシューだけだ。

 いままで人間の形に維持していたグラス―はどんどん翼の形に変身していく、そしてグラシューの背中にくっついている。グラシューはまるで三本の剣で作られた翼を広げ、さっきまで挙げていた左の手を前方に振った。それは突撃の信号だった。いままで待機していた極氷騎士たちはずっとこの一刻を待っていた。


「破・氷浪」(ペネトレート・アイスウェーブ)

 グラシューは手を振った瞬間、大地から大波が立ち、リザードマン戦士の群れに寄せていく。波とはいえ、しっかりと見ると固体状態だ。波の花が空中に咲き、キラキラと美しいものだが、スピードによる衝撃力と波の花の鋭い前端はさっきの氷の棘より致命的な攻撃であることは間違いない。

 同時にグラシューの周りに待機していた極氷騎士たちは波に乗り、リザードマンの陣形に飛び込んだ。極氷騎士の武器は1.8メートルの長さとしてポールトル族には大剣だが、身長平均3メートル以上のリザードマンには短剣にすぎない。そしてなにより、土属性の加護によりまるで金属のように強化された皮膚は簡単には傷つけることができない。この氷の波がなければ、陣形は一時的では破られないだろう。

 

 力は王として最低限に持っている性質、この塵世では真理である。ドムはだんだんグラシューの方向に走り始める、数人の極氷騎士と氷の棘を打ち飛ばしたあと、身の前に近づいてきた氷の波に右手を振り回し

「タイタンの剛腕」

 次の瞬間、ドムの体から一気に魔力を湧き出し、さっき軍旗を直した腕より数倍以上太く、巨人の剛腕ともいい、火の柱ともいえる攻撃が氷の波を貫通した。

 その先は「破・氷浪」(ペネトレート・アイスウェーブ)を詠唱しているグラシューがいる、この一撃で命を失ったリザードマンも極氷騎士もいるが、そいつらにドムには全く興味がないようだ。彼の目の先は詠唱を止め、氷のバリアを維持しているグラシューの姿だけだった。

「また氷蓮の花びら(ザ・アイスペタル)か、同じ技を何度に使うつもりだ?」

 ドムの目から思わずあざけりの感情が流れたが、その表情は凍ったように固くなり、動けなくなった。ドムの目を沿って下に見たら、その傷跡だらけの体の中心に、1メートルに近く大きい穴を開けられた。

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