第一話 氷と炎のメロディー

【龍の領域、創造の神殿第十二層】金色で神々しい神殿、両側の壁に楕円形の窓があり、一面六つでつり合いになっている。

 それらの窓には樹海や少し灰色調の湖などの絵が装飾され、聖なる力を感じる。吊り下げ式のクリスタルランプの下にはワイン色の絨毯が階段から銀色の玉座までの道となり、その絨毯の両サイドに様々な色の宝石が並んで編まれている。ここは塵世の中に大勢の人が信仰する十二守護神を祀る教会であり、守護神たちが宿る守護結界に至る唯一の道。


 目の前に氷で作られた魔法陣はどんどん消えていく。金色の鎧を着ている若い男性は玉座から立ち上がり、左腰に掛けられている三本の剣のぶつかりによる音や魔力の激震が大殿に満ちている。男性の顔は少年のあどけなさが消え、その眼付からは顔と全く違うような成熟さを感じる。まるで何千年も生きていたようだ。左目は黒色の髪に若干隠されているが、両目は真っ赤な瞳の中に金色の六等星魔法陣が輝き、その瞳に見られた場所の時空が歪む。

 この神殿に居るのはたった一人、塵世最強の王者:ぺラルド・カルロ・パーリセウス以外他ならない。

 パーリセウスはゆっくりと玉座の後ろに回り、十二つの段階を登る。階段の上には四角形の台座があり、その台座の上には黄金に彫刻された少女の姿がある。少女の頭は少し上を向いており、その瞳にはパーリセウスと同じ形の六等星魔法陣がある。かたい黄金で彫刻されたとはいえ、完璧に少女が着ているロングスカートのテクスチャを再現した。パーリセウスはその彫像の前に止まり、跪いた。


「我の身に痛みや汚濁を乗り越え、偉大なる守護神達に謳えよ。」と詠唱したあと少し止まって続ける。

「申し上げます、逆世の悪魔に穢れたこの塵世を再び統一し、修復するまではあと一歩だけです。この塵世の中は長年の戦争で満ちており、守護神たちもすでに疲れていることでしょう。パーリセウスは守護神たちの前に誓います、必ずこの世界に平和をもたらし、守護神に平静を差し上げます。」


 以上の内容を伝えたあと、パーリセウスは顎をあげて少女の彫像に向かい、最後の祝辞を述べる。「褒めたたえよ、わが守護神。」

 その彫像から光を放ち、パーリセウスは緩やかに目を閉じ、光に包まれて、その一部となる。

 

 前代の【創世帝】トリー・ルシウスと【滅世帝】ソライル・クロル・ソロムネスと戦った結果、元【光の領域】の【光帝】ぺラルド・カルロ・パーリセウスは望む通りに【創世帝】になった。すでに十二守護神の護衛となり、世間に創世帝と呼ばれているが、いまだにまだパーリセウスと対峙している【炎の領域】以外、塵世にある五大領域、【光の領域】、【氷の領域】、【風の領域】、【闇の領域】、【雷の領域】と通常の手段で入られない異空間にある【龍の領域】はすべてパーリセウスの配下になった。よって、塵世の完全なる支配を求めるパーリセウスは、【炎の領域】と太古以来争っている【氷の領域】の【氷帝】ポールトル・ノール・グラシューが自ら【炎帝】オルカ・ドムと対話し、できなければ全面戦争で長きの争いに決着をつけようと命じた。二つの種族はお互いの領域の近くにある星で対話すると約束をした。


【ノール星】果てし無き雪原。ここは、【氷の領域】と呼ばれる銀河群のメイン・スター、ノール星だ。ノール星は、【氷の領域】のすべてを統括する王、【氷帝】グラシューの宮殿にある星である。宮殿とはいえ、巨大な氷山で彫刻されており、きわめて素朴だ。全部で七階層があり、一つの階層は約20メートルがある。氷の領域の人たちは10メートル以上の巨人ではないが、これは宮殿の護衛、高さ16メートルのゴーレムがあるためだ。全身は極めてかたく、決して溶けない氷で作られ、両手で攻撃するときに攻撃範囲を伸ばすための黒い鎖が肩から手首まで曲げられている。本来はもっと大きいサイズで作られるが、アイス・ゴーレムたちが自由に行動するためでありながら、帝王の威厳と規格を示すため。第七階層は【氷帝】グラシューの玉座にある階層で、【氷帝】以外にも実力上氷帝続いて二番目の【氷蓮の執行官】アルシェ・アクファと百官がいる。また、それらの護衛となる【極氷騎士団】の騎士たちが見張りに立ち、それと上位魔法師総数数百名も玉座の間に巡回している。


 玉座の上に座ったのはまさに氷帝のグラシューだ。真っ白な鎧の上に淡い青色の光が輝いている。銀色のロングヘアが顔の半分を遮って神秘感が溢れる。氷の領域の種族【ポールトル族】は【光の領域】にいる人類の亜人種であり、見た目は人類とさほど変わらないが、実はすでに200年以上生きている。毅然としている様子で、氷帝グラシューは剣をついている両手に少し力を入れた。二つの蓮の花のような氷で作られた剣は柄から青い魔力が端まで垂れてきて、輝いている。

「アクファ、会話の場所となる13号の惑星にいくアイス・ドラゴンたちの準備はできたか?」

「はい、もちろんです、氷帝様。時間と空間の守護神の加護をいただいたアイス・ドラゴンは体内環境の時間経過速度を数億倍に加速し、さらにワープ現象を加え、200万光年でも離れているがすぐ到着できると思います」

「良かろう、今回の目的は表では会話だが、創世帝今回余に任せたということは決着するわけだ。この前あいつらは【光帝】からの会話の誘いを断れたのに、数千年以上の恨みがある我々ポールトル族からの誘いに即座に同意した、これはあいつらも同じことを考えている証拠だ」

 氷帝は玉座から立ち、階段を下り扉に向いて歩く。アクファはそのまま玉座の下に立ち、氷帝の方向に深く一礼した。銀色のロープの上にある白色のシルクと紫色のクリスタルで編まれたショールが(チリーン)と鳴き、アクファの周身を魔力の波紋がただよい始めた。銀色のショットヘアに目立つほどの綺麗な顔付き、細長い目がゆっくりと閉じた。

「では、氷帝様、ご武運を」

 

 宮殿の後ろにすでに数千匹のアイス・ドラゴンが待機している。真ん中にいる巨大なアイス・ドラゴン・キングがまさに氷帝の専用の乗り物だ。その足の下に立てば目に収まらないほどの大きさ。その他のアイス・ドラゴンは全く同じサイズで30メートル。これらはすべてポールトル族の宇宙騎兵用に作られたのだ。無色のクリスタルで作られた体の真ん中に、胸の8割を占めている大きなシトリンが魔法の鎖で縛られている。解除されたシトリンには最大70人まで搭乗できる。

【氷の領域】の兵士総勢3000億は塵世の中では少ない方であるが、その代わり塵世の中では戦闘力が【龍の領域】に次ぐ二番目である。今回は会話のため、兵士の数は【氷の領域】は5万まで、【炎の領域】は7万までだとお互いの合意で規定された。

 アイス・ドラゴン・キングの胸にある鎖がパッと開き、シトリンが輝きを満ち始めた。グラシューはどんどん周りの景色と違い、温かそうな光の一部になり、姿が消えていく。周りの兵士たちも次から次へとアイス・ドラゴンの中に入り、出発の準備を始めた。それと同時にドラゴンたちの体に呪印が浮き出し、聖なるパワーが周期的に全身から放たれるたびに、周囲の空間が少し屈折し始めた。すべての兵士がアイス・ドラゴンの中に入った途端、グラシューを載せている巨大なアイス・ドラゴン・キングが出発の信号となる咆哮をあげ、聖なる時空のパワーによりドラゴンたちの体は急に2倍ほどに伸びた。さらに、上空に直径約100メートルの異空間が扉のように開かれ、先頭になるのは王を載せているアイス・ドラゴンで、異空間より大きいためその翼が収めてから突入した。その後ろに数千匹のドラゴンも空中で翼を収め、3匹一行の行列で異空間の扉に吸い込まれる。すべてのドラゴンが異空間に入ったあと、扉がすぐ閉じられた。


 どこからの風も無いのに、雪を混ぜ込んで吹雪となり、いつものように果てしなき雪原にもどった。


【惑星第十三号】ここはもともと炎の領域の種族、コルナー族の領地であったが、現在では中立地域となっている。膨大な宇宙でどこでも見つけられる淡い灰色の光が満ちている岩石惑星だ。


 炎帝・オルカ・ドムとその配下のリザードマン戦士たちはすでにこの惑星に来て、待っている。土色皮膚とお腹の小麦色は灰色の大地の上では少し目立つ。七万の軍勢の中に数千匹のリザードマン・ドルイド以外全員が身長と同じ大きさの3~5メートルの斧を持つ。下腹部に巻かれているベルトにまた2メートルの鎚が掛けられている。息を吸うたび、小さな火花が飛び散る。


 その野蛮な猛獣たちに囲まれた真ん中に、大地とほぼ同じ色の大きいテントが立っている。その素材はほとんど編まれた痕跡のない獣の革である。真ん中には扉があり、その下に獣の骨で綺麗に作られた階段がある。骨だけで作られただけではなく、一つ一つ綺麗に隙間にぴったりと挟まれている。体重数トン以上あるリザードマンでさえ、穏やかに登り降りができる。

 テントの中に数十名のリザードマンの「ファイア・ドルイド」が獣の骨で作られた玉座の左右に立ち、呪文を囁いている。


 炎帝・オルカ・ドム、コルナー族のリザードマンではあるが、頭の上に二つの角が付き、上に突き上げている。大きな体に数えられないほどの傷跡が、その体の主の善戦を謳える勲章のようだ。ドムはいま滑らかな革で包まれた黒い本を読んでいる。その本の内容によると。

「コルナー歴3287年、我等偉大なる炎帝・オルカ・ドムはついに三度目の戦いで氷帝・ポールトル・ノール・グラカノールを倒し、氷の領域の軍団を一度撃退した。しかし、光帝・ぺラルド・カルロ・パーリセウスの援護により初代氷帝の魂と力を継承した新氷帝・ポールトル・ノール・グラシューに敗退し、約三個の星系の領土が失ってしまった。」

「屈辱だ!」

 ドムは立ち上がり、その7メートル近い体から同じく炎属性のリザードマン・ファイア・ドルイドでも近づけないほどの熱い魔力が激震している。

「滅世帝様から力を授けられたあと、すぐに復讐するつもりだったが、まさか闇の領域に封印されていたとは。戦わず降伏した雷の領域はもう言うまでもないが、闇の領域でさえあの光帝パーリセウスに負けた。どいつも臆病者で使えない奴らだ。今度こそ氷の領域を始末してやる、この滅びの炎でな」

 ドムの手元に黒色の炎がパッと燃え上がり、その中から絶望のオーラが溢れてくる。外はいきなり大騒ぎになり、それに気づいたドムは玉座の後ろに置かれていた巨大な斧を取りテントの扉に向けて歩く。その斧の厚くて重い刃に細長いマグマの模様が交わしている、今でも噴火しそうな火山のように。


 空に異空間の扉が開かれ、アイス・ドラゴン・キングが扉を出たあとすぐに翼を広げ、全身の時空の力を止め穏やかに大地に降りた。その足と灰色の大地が接触したあとに、大地が白に染められ、そのまま周囲に広げていく。

 氷帝が降臨した。

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