第128話 悪神でも大魔王の威圧
「あれがシントプリーストの神官長らしいのー。名はイオセシル」
上空を見上げながら固まっているイオセシルを鑑定し、ユーティフル様は言った。
現在、私の右隣にいるユーティフル様、左隣にいるシン、真ん中にいる私は上空に佇みながら5万人を見下ろしている。
「おい、あれは何だ!?」
イオセシルは近くにいた信者の胸倉を掴みながら言った。
「わ、分かりません。ただ、急に現れて•••」
「な、なんだと!!」
イオセシルは信者の胸倉を掴んだまま地面に信者を叩きつけた。
それを見ていたユーティフル様とシンは、神気を解放した。
眩い光が辺り一面を包み込んだ。
「ぐわ、なんだこの光は!!」
イオセシルと5万人の信者は手で目を覆いながらあまりの眩しさにうめき声を上げる。
「うむ、やはり半数は敵意をもっておるのー」
「そのようですね」
光が落ち着いてくると、イオセシルはこちらを激しく睨みながら信者達に指示を出し始めた。
「神のお告げだーー。あいつらは悪魔だ。矢を放てーーー!!」
イオセシルの言葉に5万人が一斉に矢を放ってくる。
「よくもまあ〜、これだけの矢を用意したもんじゃわい」
そう話すユーティフル様に幾つもの矢が飛んでくるが、全て弾かれて当たることはない。
私とシンも同じように何もせずとも矢が弾かれる。
「な、矢が当たらない!!」
「イオセシル様、どうすれば•••」
「ええぃ、矢の先に火を着けて放てー!!」
だが、結果は変わらない。
「くそ、悪魔め•••。こうなったら•••」
イオセシルは懐からナイフを取り出すと、先程地面に叩きつけた御者の左胸に突き刺した。
御者は悲鳴を上げながらその場に倒れ込んだ。
「新たな神のお告げだーー!!儀式を始めるぞーー!!」
イオセシルがそう告げると、場の空気が凍りつき、刹那、嬉々に満ちた。
「殺れーーー!!」
イオセシルの掛け声と共に、信者半分が懐からナイフを取り出し、近くにいた信者の左胸に突き刺さした。
2.5万人が2.5万人を殺そうとしているその地獄絵図に私もユーティフル様もシンも、言葉を発することができなかった。
「いやーー、や、止めて•••」
「へっへっへ、良い気分だ」
「な、なぜ、こんなことを•••」
「儀式だよ、儀式•••」
「お願い、こんなこと、誰も望んでない」
「罰ゲームだとでも思ってくれよ」
「はーっはっはっ、いいぞー!!僕ちんの言う通りにすればいいんだーー!!」
敵意を持った人が、弱者を責めるその光景を見て、私の中に怒りが込み上げ、同時に前世の記憶が蘇る。
『はい。じゃー、サユリの負けね。敗者は罰ゲームだから』
『えっ??罰ゲーム??』
『そうよ。今からタナカに告白してきなさい』
『な、なんで•••』
『いいから早くしなさいよ。私の言うことが聞けないの?』
小学6年生の時、クラスで目立っていた女子とその取り巻き3人は、サユリちゃんに一方的に、そして、反論を許さない冷たい口調でそう言い放った。
それをクラスの隅で私はたまたま聞いていた。
サユリちゃんは震えながら立ち上がると、タナカ君の席まで言って告白をした。
その瞬間、クラス中が歓声を上げたり、冷やかしを始めた。
タナカ君は告白を受けて、嬉しそうに返事をした。
サユリちゃんの目からは、涙が溢れていた。
サユリちゃんは、それからすぐに転校した•••。
サユリちゃんとは話したことはあったけど、特別仲が良かった訳ではなかった。
けれど、あの時の私は最低だった•••
私が強ければ、サユリちゃんの人生は、レコードは、もしかしたら変わったのかな?
ごめんね•••
ゾワッ
【大魔王の威圧】が発動した。
同時に悪神の力も解放する。
私の体から漆黒に包まれたオーラが溢れ出し、膨大な神力によって空間が歪み、大地が激しく揺れ出した。
悪神になっても、大魔王の威圧、発動するんだね。
けど、このスキルをくれた魔神ラソ•ラキティスの干渉を感じない。
いつもなら干渉してきて、好き勝手やってたのにな。
悪神には干渉できない、ってことなのかな?
意識を現実に戻すと、私の膨大な神力にユーティフル様とシンが両隣で震えていた。
「ま、マリー、わしらはちょっと離れてるからの」
「さ、行きましょうー」
2人はそう言うと、安全な場所まで移動した。
【さて、愚かな人間に罰を与えねばならぬな】
「な、な、な。あ、悪魔だ」
イオセシルはその場に腰を抜かしながら、先程までより小さな声でそう言った。
【悪魔?それはお前のことであろう?】
「き、貴様!!ならば、本当の悪魔を呼んでやる!!おい、タスク、儀式の準備は!?」
「は、はい。3,000人程の命が集まりました」
「ま、それくらいでいいだろう」
イオセシルは醜悪な笑みをこちらに向けると、馬車の中から姿見の半分ほどの鏡を取り出し、四方にお札を貼った。
そして、自分の右手親指をナイフで切り、お札に自らの血を垂らしていく。
「ふはっはっはっ。さぁ、悪魔よ来い!!」
イオセシルがそう言うと、鏡の中からこの世の物ではない、異形の存在が姿を現した。
その異形の存在の体には無数の顔がついていて、黒い靄が纏っている。
「許さない、許さない、許さない」
異形の存在は同じ言葉を繰り返す。
「さあ、悪魔よ、あいつを殺れー!!」
イオセシルがそう言うと、異形の存在は私を悪意のこもった目で睨み、こちらに向かってきた。
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