第127話 奇襲
豚の角煮を食べ損ねた翌日、私は異様な気配を察知して目を覚ました。
ほぼ同時にユーティフル様とシンが私の寝室に勢いよく入ってきた。
激しく扉が開かれたことで、ラーラ、ナーラ、サーラも目を覚ます。
私の寝室ではあるが、毎日誰かしら部屋を訪れるため、家を買ってから一人で寝たことは殆どない。
「マリー、気付いたか?」
「うん。何なのこれは?」
「私達にも分からないわ。分かっているのは、約五万人の人々がガーネットに近づいているということだけね」
「それと•••」
私達の話を聞いても、ラーラ達は首を傾げている。
気配に敏感なドラゴンが気付けていないのは、決して寝惚けているからではない、まだ距離が離れているからだ。
ガーネットにたどり着くのは、きっと数日後だろう。
私とユーティフル様、シンがなぜ気付いたか。
それは神であることもあるが、それ以外に大きな理由がひとつあった。
「それと•••、明確な敵意」
「そうじゃな」
「五万人のうち、半数はこちらに敵意を抱いているわね」
「正確には、私に、かな」
私の言葉に、ユーティフル様もシンも無言で頷く。
そこまで話すと、私は手早くセーラー服に着替えて1階に降りた。
まだ日が昇ったばかりで早い時間だったが、アイリスさんはリビングでコーヒーを飲んでいた。
「マリーちゃん、おはよう。早いわね」
「はい、ちょっと話があって」
「あら愛の告白かしら?コーヒー飲む?」
「いただきます」
「私達にもいただけるかしら」
「分かりました」
私のすぐ後に降りてきたシンがコーヒーをお願いする。
エルネニー名産のコーヒーは、ラーラ、ナーラ、サーラ以外のメンバーには大人気になったのだ。
「それで、話と言うのは?」
コーヒーをダイニングテーブルに置きながらアイリスさんが聞いてきた。
私は先程5万人の気配を感じたこと、敵意を持ってガーネットに向かっていることを説明した。
「もしかして•••、気配を感じたのは向こうの方角かしら?」
アイリスさんは北東を指差しながら聞いてくる。
「そうです」
「なら、シントプリースト共和国で間違いなさそうね」
「あの私と結婚しないと災いが〜、の?」
「ええ」
「結婚できないからと癇癪を起こしたのかのー?」
ユーティフル様はコーヒーを啜りながら言った。
「しょうがない国ね〜」
「まったく」
シンの言葉に、私も同意し、2人同時にコーヒーを啜る。
「それにしても、流石は神様3人ね。全然恐怖を感じてないんだもの」
そういったアイリスさんも、普段と変わらない落ち着いた物言いでコーヒーを啜った。
「相手が分かればどうとでもなるからのー」
「ええ、私達の敵ではないわ。けど、やり方が気に入らないわね」
シンが珍しく苛立ちを示したので、私はチョコレートを差し出した。
「こんなものでね•••、相変わらず美味しいんだから」
「んじゃ、乗り込むとするかのー。ガーネットには毎日大勢の観光客が来とるし、ここに来るのを待ってる必要ないからのー」
シンが落ち着いたところで、ユーティフル様が提案してきた。
「賛成ー」
シンが右手を上げる。
「ユーティフル様もシンも来てくれるんですか?」
「当然じゃ」
「神の冒涜は許せないもの」
「決まりじゃ、早速行くかのー」
「朝ご飯食べてからにしましょう」
「それもそうじゃな」
ユーティフル様とシンは貴婦人のように、おほほほ、と態とらしく笑うと、私に朝ご飯を催促するのであった。
《シントプリースト共和国》
イオセシルは豪奢な馬車の室内にて、マリー•アントワネットを手に入れた後のことを想像し、笑み浮かべていた。
空になったグラスに手酌でワインを注ぐと一気に飲み干す。
普段なら聖女候補を連れて身の回りの世話をさせるのだが、今回の3人は日中も夜も献身性が足らず、既に飽きていた。
馬車の前後を歩く5万人の半数は女だ。
道中、女が欲しくなればいくらでもいる。
それに、今は奇襲を受けたマリー•アントワネットの恐怖に引き攣った顔を想像しながら1人で酒を飲んでいるのが何よりの時間だ。
やつは土下座をして懇願するだろうな
ガーネットの領主も自身の判断力の愚かさに泣いて詫びてくるだろう。
確か、ガーネットの領主は未亡人であったな。
顔が良ければ遊んでやるか。
くっ、くくく
はーっはっはっは!!
気分良くワインを飲もうとグラスを口元に運んだ時、馬車が急停車し、ワインが上等な神官服にかかった。
白と青であしらわれた神官服は、ワインによって赤く染められた。
染みを見て先程までの機嫌の良さは消し飛び、怒りが一気に沸点に達した。
「貴様、僕ちんの服を!!馬車ひとつまともに扱えんのか!!」
怒りのまま馬車の扉を開け、御者に罵声を浴びせる。
だが、御者は上を見たまま固まっていた。
「おい貴様!!聞いてるのか!!」
御者は未だに固まったままのため、イオセシルは御者と同じように上空を見上げた。
「な、なんだあれは•••」
★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★
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これぞ異世界作品という内容になっていますので、楽しみにしていて下さい。
【作品名】
2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者
〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は契約書を交わしたから問題ないけど、異世界には大きな問題が発生していた〜
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