第119話 これがサキュバス



「私は魔王国ブレイスワイトの魔王、キャサリンと申します。『大魔王の天罰』を観光させていただき、それ依頼大ファンなんです」




『大魔王の天罰』

以前、私が魔王国ヴィニシウスの象徴である魔門を吹き飛ばし、辺り一体に大穴を開けてしまったのだが、そこが魔族の間で観光名所になっているのだ。




私にとっては恥ずかしい黒歴史•••



「握手して下さい」

「は、はぁ•••」


キャサリンの握手に応じると、先程まで妖艶で近寄り難い美しつさであった顔が少女のようにパァッと明るくなり、とても可愛かった。


フシアナといい、魔王はみんな可愛いのかな?



「それで、私のことを知ってたみたいだけど、フシアナから何か聞いてる?」



人相書まで持っていたのだから、フシアナから何か聞いてるはずだ•••。

もしくは、指名手配??



「はい。フシアナより、サキュバスのドレミ、ファソラ、シドの引き渡しの相談を受けた際に、マリー大魔王様のこと、もてなしの方法を聞きました」



うん

指名手配ではないみたい



「私もフシアナに聞いて来たんだ。ドレミ達を引き取れない理由、これなんだよね?」



私は自分で作った魔族タワーを見ながら言った。



「はい。ご明察の通りです。魔王の私がサキュバスを守る法律を設けておりますので、被害は最小限で済んでいますが、この先、どうなるか分かりませんので•••」

「法律??」



キャサリン曰く、サキュバスの身を守るため、サキュバスに危害を加えた場合は即刻極刑という法律があるらしい。


簡単に言えば、キャサリンが魔族の男達の首を刎ねるのだと言う。


魔族の男達は当然、人間の冒険者よりは強い訳なのだが、キャサリンは魔王というだけあり強いらしい。妖艶で美しつだけではないんだね。



「マリー大魔王様には、同族を助けていただいたというのに、直ぐに引き取れず申し訳ありません」

「それはいいんだけど、男の人はみんなイライラしてるみたいだね?」



私とキャサリンが話している間も、魔族の男達は遠目で私を睨んでいる。

サキュバスは法律で守られてるからターゲットは自ずと私になるんだろうけど•••。



「そうなんです。どうしてそこまでイライラしているのか分からず•••。一応、発散できる、そういったお店も用意してるんですのよ」

「キャサリン様。これ以上のお話は、城に行ってからの方が良いのでは?」


キャサリンの横にいたサキュバスの女性がそう耳打ちした。



にしても、発散できるお店•••

今は悪神といえ、元は女子中学生。

そこまで詳しい知識はないけど、きっと、そういうお店なんだよね?



「マリー大魔王様。立ち話をさせてしまい、申し訳ありませんでした。続きは是非、城の方で•••」

「ううん。多分、ここにいた方が原因が分かると思うから。まぁ、大体分かってるんだけどね」

「まあ、マリー大魔王様は既に理由が分かっておられるんですか?」

「人間も魔族も、男なんて一緒ですから」



私の大人びた台詞に、キャサリンは目をぱちくりさせた。



私はキャサリンと一緒に街の中を歩いて周った。

その結果、予想通り、ご飯屋さん、飲み屋がなく、おまけに冒険者ギルドみたいなものがないから仕事も少ない。


仕事が少ないから、大人向けのお店を作ってもそもそも通えない。



人間の冒険者は喧嘩っ早く、酒好き、女好き。魔族の男達も結局は同じ。




「この街、ご飯食べたり、お酒飲んだりできるお店がないよね?」

「ええ。この魔王国ブレイスワイトは辺鄙な場所にあり、旅人は滅多に来ませんので、そういったお店がないのです」

「お店はさ、旅人のためだけにあるんじゃないんだよ」

「??」



私の言葉にキャサリンは首を傾げる。

まぁ、お店がない場所にしか住んだことがないなら、分からなくて同然だよね。



「ねー、キャサリン。魔族の男は、ランクAの魔物って倒せるの?」

「え??魔物ですか??私より弱いとは言え、ランクAの魔物程度であれば問題ないと思いますが•••」

「それはよかった。それとさ、お願いがあるんだけど」

「はい、マリー大魔王様のお願いとあれば、何なりとお申し付け下さい」



ニヤリと笑った私は、街の中を歩きながら空いている土地、3ヶ所を指差した。


「この土地、頂戴」



買いたいでも借りたいでもなく、頂戴、と言ったのは、この後、莫大な費用がかかるのが分かっているからだ。



「構いませんが、何もない更地ですよ?よろしいんですか?」

「うん。お店を作るにはちょうどいいから」

「お店??」

「そう」



先程から『お店』という言葉にピンっとこないキャサリンに対し、私は『アイテム収納』から新作のプリンを出した。



「あのー、これは?」

「プリンだよ。ひとつ目のお店は、サキュバスのためのスウィーツのお店だから」

「す、スウィーツ?」

「いいから、食べてみて」

「は、はい」



キャサリンはスプーンでプリンを掬うと、少し躊躇いながらも口に運んだ。

プリンを口に入れた瞬間、キャサリンの体がビクッと震え、頬を赤くし、無駄に色っぽく体をくねらせた。



「は、はう。はあ、はあ。な、なんですの、これは」

「きゃ、キャサリン様!?」



取り巻きのサキュバス達が慌てる中、キャサリンはプリンを一気に食べ、お代わりを求めてくる。


「ま、マリー大魔王様。お、お代わりを•••」



私はキャサリンと取り巻きの5人にプリンを手渡す。


すると全員、体をくねらせ、まるで発情しているような色っぽい顔になる。



こ、これがサキュバス•••




お店を出すのを、止めようかな•••





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