第80話 久々の休日と、壊される休日
「『転移スキル』って、本当に便利だな」
今日、2回目のサズナークへの帰還をした私は、独り言を言う。
「帰ってきたの?」
家の中に入ろうとした私に、ユキが話かけてくる。
「そっちは、さっきまで寝てたの?」
「昨夜、ワインを飲み過ぎちゃって」
「家だから酔わないんじゃないの?」
「酔うわよー。ただ、私元々強いからね」
「ふ〜ん」
私はお酒の美味しさが分からないので、もちろん、強い弱いも分からない。
そのため、やや素っ気ない返事をしてしまう。
「開けてくれないの?」
いつものようにオートロックしてくれないユキに言う。
「だって、後」
「後?」
私はユキに言われるがまま後ろを振り返ると、そこには幸せオーラ全開の二人がいた。
「マリー様」
「ま、マリー、誰と話していたんだ?だ、大丈夫か??」
ユキを知っているミランダさんとは対照的に、困惑した表情でリチャードが聞いてくる。
「だ、大丈夫だよ」
「そ、そうか。ならば良いが•••」
「そうだミランダさん。青龍の売却費用が近々ラミリアの冒険者ギルドからサズナーク王国に登録されるそうです」
「マリー様。本当に何とお礼を言って•••」
「もうお礼は言ってもらったからそれ以上、言っちゃダメ!!」
私はミランダさんの口元を人差し指で抑える。
「きゅ、きゅ、キュンです!!」
ミランダさんが顔を赤くし、指でハートを作りながら言ってきた。
「う、うん。キュンだね」
大分前に流行ったから忘れちゃったけど、キュンです、って言われたら何て返すんだったけ?
「それと、スウィール王国も魔物被害で大変なんでしょ?もしあれだったら、ミランダさんから少し寄付してあげて」
「はい。リチャードが私を大切にしてくれた分だけ、マリー様の慈悲を分けたいと思いますわ」
ミランダさんはリチャードと腕を組む。
顔を赤くしたリチャードだが、直ぐに真面目な顔で私に言ってきた。
「マリー、本当にありがとう」
「いいよー、別にー」
「それとマリー。親書の件を王宮室まで確認したんだが•••」
私がここサズナークに来る前、スウィール王国から親書を貰っていた。その件をリチャードに確認してもらっていたのだ。
「要件はなんだったの?」
「それがな、先ほども話に出ていたスウィール王国周辺の魔物の件、突如、魔物がいなくなったらしいんだ」
「へー、よかったじゃん」
「それでマリー、スウィール王国周辺の魔物を討伐した記憶はないか?」
「えっ?ないよ。スウィールなんて行ったことないし」
「言い方を変えよう。スウィール周辺の森、我らはトロールの森と呼んでいるが、そこで魔物を討伐しなかったか?」
「ん?トロールの森?」
私は記憶を遡る。
マザーに会いに行った日、マザーが大量に発生した魔物に怯えたから退治したような。
そう言えば、あの森はラミリア王国とアントワネット王国、そしてスウィール王国と隣接した場所にあった。
「なんか、倒したかも。1,000体位」
「やはりそうか。俄には信じられなかったが、魔物がいなくなった原因を調査していた所、周辺の村から聖女の羽衣を着た女の子の情報があってな」
「ま、マリー様、1,000体も討伐されたのですか?」
「う、うん。でも魔物討伐したんだから、迷惑をかけた訳じゃないよね?」
自然の魔物体制を壊したとか?
過剰魔物討伐罪、なんてないよね?
「迷惑だなんて、スウィールとしては感謝している。それで、マリーに王直々にお礼を言いたいそうだ」
「えーーー」
「マリーは嫌なのか?」
嫌です
目立つのは好きだけど、正直、面倒臭い••
けど、そんなことは言えないので、14歳なりの大人の嘘をつく
「ほら、最近色々あったし、少し疲れちゃってて」
「た、確かにな。青龍やゲイリーからミランダを救ってくれたこと、レーリック王国の立て直し。疲れて当然だ」
そこまで言うと、リチャードはハッと何か気付いたように私に顔を向ける。
「一人で家に話しかけてしまうほど、マリーが心身共に疲れている事に気づかないとは•••」
リチャードは本気で悔しそうな顔をする。
「分かったマリー。父上には私から話をしておく。だから、今はゆっくり休むんだ」
「う、うん。あ、ありがとう」
ミランダさんは笑いを堪えるのに必死な顔をしている。
ともあれ、スウィール王国に行かなくてもよくなったのは嬉しい。
私だって、ダラダラしたいのだ。
「お言葉に甘えて、ガーネットの街に帰ってゆっくりしたいと思います」
「そうするといい」
「マリー様と一時のお分かれなのですね•••」
ミランダさんは潤んだ瞳で私を見てくる。
「ミランダさんも、彼氏、じゃなくて、旦那さんとゆっくりして下さい。新婚なんだし」
「あ、い、いいえ、まだ式の前ですし、男女がそんな•••」
ミランダさんとリチャードは、二人仲良く下を向く。
「何かあったら連絡して下さい」
「はい。マリー様も、いつでも遊びに来て下さいね」
「うん」
私は親指を立てる。
それからミランダさんのリクエストで最後にみんなで温泉に浸かり(リチャード以外)、私達は家ごとガーネットの街に帰還した。
ガーネットに戻ったその日は、ミアに会いに行ったり、お店に顔を出したり、ビールタンクの補充や缶ビールを作ったりして過ごした。
ビールタンクと缶ビールは、ストックがないからしょうがなくだけど。
そして翌日、この日は自分のためだけに過ごすと決めていた。
私は『地球物品創生スキル』で大好きな異世界転移ものの漫画を出し、ポテトチップスを作り、自室に籠った。
ポテトチップスはラーラ達やサクラにも渡したし、缶ビールはユキに託してきた(アリサはマリーラ•シュークリームに出勤)。
邪魔するものは何もない。
ぐふふふふ
私はポテチを口に運ぶ。市販のやつと同じ味だ。じゃがいもを揚げただけだから当たり前なのだけど、それでもやっぱり美味しい。
コーラ飲みたいなー、今度作れないかな?
そんなことをぼんやり考えながら、漫画を開いた。
「マリーー様ーー!!」
んっ?
「マリーー様ーー!!」
空耳、うん、空耳だ
「マリー。誰か玄関で叫んでるぞ」
ユキの声が私の部屋に響く。
私は大人気なく、少しイラッとしてしまう。
14歳だけど。
寝室のある3階から1階に降りると、私よりイラついてるラーラ、ナーラ、サーラ、ユキの姿があった。
4人共、缶ビールを開けたばかりらしい。
「ピー、ピー」
唯一普段と変わらないのはサクラだけだ。
私はサクラの頭を撫でると、家の扉の前に来る。
「どちら様ですか?」
「私、冒険者ギルドのラピと申します。突然の訪問、申し訳ありません」
ドアスコープを覗くと、確かに冒険者ギルドの制服を着た若い女性が見えた。
私が家の扉を開けると、女性は泣き出してしまう。
「マリー様ーーー」
「ど、どうしたんですか?」
「冒険者ギルドが、ギルドが大変なことに•••」
「えっ!?」
「ギルドマスターも不在で、私どうしたらいいか分からなくて、マリー様の所へ•••」
泣きながら話すラピを宥めつつ、とりあえず、私とラーラ、ナーラ、サーラと一緒に冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドの前に来ると、中から叫び声が聞こえてくる。
「ラピさん、何があったんですか?」
「それが、スウィール王国を主戦場とするBランクパーティのメンバーが揉め出して、止めに入ったガーネットの冒険者が怪我をしてしまい•••」
ラピさんはそこまで話すと再び泣き出す。
私は溜息を吐いて冒険者ギルドの中に入る。
そこには3人の見慣れない顔の男女が立っていて、傍に女性が1人とラドさんが倒れていた。
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