第71話 醜い男と、マリーの威圧
私に触れようとした男の右手はラーラによって切り落とされ、男の首にはナーラの剣が構えられていた。
サーラはゲイリーの真横に一瞬で移動していて、同じように首元に剣を構えている。
「ぐあぁぁぁぁー」
右手を落とされた男の叫び声が響く。
ナーラは構えていた剣を手に戻し、男をゲイリーの所に放り投げる。
50人程いるレーリックの兵士は動けずに固まっていた。
「き、貴様。私を誰だと思っているんだ。こんなことして、ただじゃ済まぬぞ!!」
男は右手を押さえながら啖呵を切る。
サーラもゲイリーに向けていた剣を戻すと、ゲイリーと右手を切られた男の前に立ちはだかった。
ラーラ、ナーラも同様に立ちはだかる。
「わしに剣を向けるとは!!わしは王子じゃぞ!!レーリックの王子じゃぞ!!」
「そんなこと、どうでもいい」
静かにラーラが言うと、3人のドラゴン娘は赤龍のオーラを解放する。
辺りが赤いオーラで覆われ、城全体が揺れ出す。
「な、なんだこれは。お前達、何をしている、やれ、やれ!!」
ゲイリーは1人喚くが、兵士はその圧倒的なオーラの前に皆膝から崩れ落ちている。
「くそ、なんなんだこれは!!」
右手を切られた男は叫ぶ。
「兵士はまともなようだな。バカはお前達2人だけだ」
「な、なんだと!!」
右手を切られた男は左手で剣を抜くと、ラーラに向かって斬りつける。
利き手じゃないためか、元からの実力なのかは分からないが、威力のまったくないその剣はラーラのオーラに触れた瞬間折れた。
ザンッ
ラーラは躊躇うことなく、男の首を切り落とした。
ゲイリーの前に男の首が転がる。
「ひぃぃぃぃ」
ゲイリーは椅子から転げ落ちる。
丸い巨体の所為で、3回転してようやく止まった。
「王族のくせに分からぬお前に教えてやる。我々は赤龍だ」
「せ、赤龍!?」
ゲイリーは既に汗だくだったが、更に汗をかく。
「人族の営みに興味はない。だがな、我らはここにいるマリー様の眷属だ。主人に手を出すようなら国ごと貴様らを滅ぼす」
「ひゃぁぁぁー」
ゲイリーは兵士達の間に這って移動する。
「ミランダーー!!」
兵士に隠れたゲイリーが大声でミランダさんの名を叫ぶ。
ミランダさんはビクッと肩を震わせた。
「この不祥事、どう責任をとるのだ!!わしがいなければ、この国は終わりだぞ!!」
「私が彼女の力になる!!」
震えるミランダさんの前にリチャードが立ちはだかる。
「き、貴様はスウィールの王子か!?貴様の国も魔物被害でそれどころではないだろうが」
ゲイリーは汗を飛ばしながら笑う。
リチャードは悔しそうに拳を握る。
「どういうことなんですか?」
私はミランダさんとリチャードの横に行くと事情を聞いた。
ミランダさんとリチャードは下を向いたまま話そうとしない。
「ハハハッ、この国、サズナークは病気と青龍の所為で金がないんだよ。スウィールも大量発生した魔物に被害を受けて他国を援助するなんて無理なのさ!!」
ゲイリーは高らかに笑う。
兵士に身を隠しながら本当にカッコ悪い。
「ミランダ、今なら許してやる。俺のものになれ。お前次第で、国民が助かるんだぞ」
ミランダさんはグッと目を瞑り、黙ってゲイリーの元に歩こうとする。
「お前の体を好きに弄んでやる」
ゲイリーは舌舐めずりをする。
「キモッ」
私の言葉にみんなの視線が集まる。
「き、きも?」
「本当にキモい•••」
私はゲイリーを心から蔑んだ目で見る。
「小娘が、よく分からんがバカにしおってー!!お前達、早くあいつをやれ!!」
「話さないでくれる。臭いから」
私はラーラ達の前、兵士とゲイリーに対峙する位置まで静かに歩く。
怒りによって大量の魔力が私の体から放出され、先程より城が揺れ、大地が揺れる。
ラーラ達とすれ違う際、額に汗が浮かび、その場に倒れないよう、私の威圧に耐えているのが分かった。
「分かった、分かった。この小娘には手を出さんから力を弱めてくれ」
この威圧と大地の震えをラーラ達が引き起こしていると勘違いしているゲイリーは、ラーラ達に土下座する。
「臭いから、帰ってくれない」
私は目で蔑み、見下す。
「ぐ、、、」
「お前達、引き上げだ」
ゲイリーの号令により、兵士達は覚束ない足取りで歩き出す。
ゲイリーは腰が抜けているらしく、自分では歩けないらしい。
「おい、早くわしをおぶされ」
足をガクガクさせている兵士4人でゲイリーを持ち上げようとするが、その重みで床に落としてしまう。
「な、何をやってるか、バカ共が!!」
サズナーク側にいる人達から微かに笑いが起こる。
「くそ、覚えておれ」
捨て台詞を吐くと、最後は這うようにして城から出て行った。
ゲイリーが城から出て行くと、ラーラ達は床に手を着いて息を吐き出す。
ミランダさんやリチャード、一緒に来たメンバーはその場にへたり込む。
「ハァハァ、これがマリー様の威圧•••」
「主人、流石です」
「立っているのがやっとでした」
私の威圧?
いや、女子中学生、女子高校生なら、みんな同じ反応すると思う
マジでキモいだもん
私はその場で立てずにいるミランダさんに近寄り、手を差し出す。
「あ、マリー様。ありがとうございます」
ミランダさんは、私の手を取りながらその場に立ち上がる。
「すみません。国と国の問題だったのに」
私は右手と首を落とされた男の亡骸を見ながら言う。
「いいえ。あの者はマリー様に手を出そうとしましたし、ラーラ様には剣を振るいました。当然だと思っています」
「そう言ってもらえると•••。だけど、あんなキモいやつにミランダさんは渡せません」
ミランダさんは驚きと、喜び、そして最後は困惑した表情をする。
「ありがとうございます。マリー様にそうおっしゃって頂けただけで幸せ者です」
ミランダさんは王女の目で私を見つめる。
「しかし、私には民と国を守る義務があるのです」
「お金ですか?」
「•••はい。ゲイリーが話していたのは本当のことです。もう民と国を守るだけの国力がありません」
「ミランダさんに聞きたいことがあるので、私の家でゆっくり話しませんか?」
「そうですね。少し落ち着いてきましたし」
私達は家ユキまで移動することにした。
一方、城を追い出されたゲイリーは•••
「くそ、くそ、くそ!!」
ゲイリーは自分を抱えている兵士を殴る。
「何なんだ、あいつらは!!何で赤龍がいるんだ!!」
「ゲイリー王子、あまり興奮されますとお身体に•••」
「うるさい、この腰抜けが!!赤龍如きに腰を抜かしおって!!」
「•••」
兵士は怒りをグッと堪える。
「くそ、赤龍さえ•••」
その時、ゲイリーの目線にミランダやマリー、ラーラ達の姿が目に入る。
「あいつらめ。んっ!?」
「小娘がミランダを家に招き入れてるぞ。あのでかい家は小娘のか?どこかの貴族か?そうか。だから赤龍を飼い慣らしているのだな」
ゲイリーは醜い顔で笑みを浮かべる。
「そうだ。あの小娘さえこちらのものにすれば赤龍もわしのものだ。小娘もなかなかの美形だったからな、弄ぶにはちょうど良い」
ゲイリーは舌舐めずりをする。
兵士は皆、不安に駆られる。
「おい。あの小娘を攫うぞ」
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