第6話 愛は最強の魔法なんだよ

 夜も更け始めた山道を、観賀夏未は強い足取りで登っていた。


 片手にはスコップ――穴を掘るにも、人を殴りつけるにも、不慮の事故が起こってしまった時の後始末にも使える万能品だ。


 それを両手で構え、小声である人物の名前を呪詛のように連ねながら……迷いなくある場所へと直進していた。


 「おにーちゃんを攫ったあの女を絶対に許さない許さない許さない……」


 兄妹同然の関係性だと、誠司は疑っていない。

 

 実際、それに関しては夏未も共通の見解であるため異論はない。


 だけど夏未が、家族として以上の熱い思いを抱いていることは知らなかった。


 最初は隠すつもりでいた夏未も、次第に隠せなくなってきており、実際に彼を心配した時は途轍もない早口で捲し立てたり愛を囁いたりしているのだが……肝心の誠司には届いていない。


 彼にとってはまだ、妹が兄離れしていないだけにしか映っていないのだ。


 「やっぱり油断したのがいけなかった、こうなるとわかっていたならもっと素早く動いていたけれど……」


 後悔先に立たず。


 ここからどうリカバリできるかが大切である。


 案外、夏未はプラス思考な考え方なのであった。


 「とりあえず、おにーちゃんを取り返そう!」


 そう言葉にすると、目的地へ到着する。


 巨大な門が、彼女の進行を阻むのだ。


 門の先だってすぐに目的地があるわけではない。


 そこからも通路が続いている。


 それほどに満月一族の敷地は雄大なのだ。


 これがまだ数ある敷地の一つに過ぎないというのだから、夏未にしても驚きだった。


 「よっと」


 先にスコップを投げ込み、自身は少し下がる。


 「今から行くからね」


 助走をつけて二メートルは普通にある門を……飛び越えた!



 夏未は別に運動部に所属しているわけではない。


 極貧生活時代に愛しい兄である誠司と苦楽を乗り越えた経験が、彼女を野生児として強くしたのだ。


 そして、夏未にとって今はその極貧時代の食料探しと同等か、あるいはそれ以上の危機を迎えている。


 「なにがお金持ちだ! お金で買える愛なんてッ……」


 彼女がそう口にすると、警報音が鳴り響く。


 例え誰もが立ち寄らない立地にある屋敷であってもセキュリティーは欠かせない。


 周囲から光が照らされ……それが決められた場所を照らし、侵入者を特定しようとしているのだ。


「愛の力に――技術が勝るなんてないんだよ!」


 警報音に光による捜索……並みの人間ならば萎縮して逃げ出しかねないが、愛を知った夏未は強かった。


 光が自分の前を通る瞬間にローリングし、特定される前に光を抜けていく。


 「おにーちゃんは……」


 こと愛しい誠司に関して言えば、彼女の嗅覚は途轍もない感度を発揮する。


 犬類顔負けの脅威の追尾性能を発揮した彼女の鼻は、正確に兄の居場所を補足する。


 「あっちだね!」


 見つかったのなら小細工は不要!


 スコップを担いだまま、彼女は一直線に捜索網をぬけていった。

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