第2話 メインヒロインじゃなくて幼馴染が先に登場するってどういうことなの?
「おい、いいのか? 待ち合わせ場所とか続々と連絡が来ているけど……」
斎藤が何もせずに普通に帰ろうとしている俺に声をかける。
「そりゃ帰るさ」
律義に待ち合わせ時間とかを指定してきているのは気になるけれど、だからといって正直に現地に向かう奴なんていない。
「なぁ、おい」
「お前なぁ……出会い系と一緒だよ。そう簡単に会えないのが普通なのに、いきなり会おうとしてくるのは詐欺か、あるいは釣りだ」
ネット社会に生きていく中で、こういう警戒心は必要だ。
身の危険はなくとも、心の隙間に入り込まれれば有り金なんて一気にむしりとられる。
「帰るぞ帰るぞ。今日はバイトも休みなんだ」
英気を養っておかないと翌日以降のお金稼ぎに影響が出るからね。
待ち合わせの時間とやらも二十一時とかいう、街を出歩くにしては結構遅めだ。
もし仮に……これが釣りだった場合、睡眠時間が減ってしまう。
ますます場所に向かう理由はないね。
◇
「おにーちゃん、おかえりー。どこ行ってたの? 遅かったよね? ねぇ、ねぇ」
「どこ行っていたっていうけど、クラス違うだけじゃないか」
築五十年を迎えつつある耐震構造も耐火構造もどこ吹く風の木造戸建て……取り繕わずに言えばボロ屋で俺の帰りを待つのは妹――みたいな関係性な幼馴染の
よく焼けた小麦色の肌に、首元でばっさりと切られたボブヘアーで小柄な少女にしか見えないが……同級生である。
既に制服を脱ぎ、着古してヨレヨレなノースリーブシャツに、動きやすさ重視の紺色ショートパンツを履いているわけだが……結構目には毒だ。
なぜなら、夏未の胸にある二つの巨弾にある――節約の為、外行き以外の服は基本成長で着られなくなるまで着回すものだから……胸の膨張につれ、服がのびてしまっているのだ。
だから俺は絶対に視線を彼女の目から外さない。
目を見て話すことが大事なのは間違いないが、少しでも視線を落とせばその、見えてしまうからだ。
妹みたいな相手にそういう劣情を抱くなって?
今まで幼馴染キャラに欲情したことのない人間だけが俺に石を投げなさい。
今話した通り、夏未とは血の繋がりはない。
早くから夏未は父母を事故で亡くし、当時、交流があった俺の父と母が引き取ったのだ。
俺と夏未が五歳の頃である。
そのときから一緒に暮らしているのだ。
「おにーちゃん、今日はアイスが特売日だったよ。冷蔵庫にあるよ」
「わお、嗜好品じゃないか。何か月ぶりだ?」
「一年飛んで三か月ぶりだねぇ!」
「こりゃたまらん」
自分で言うのもなんだが……星見家は年季の入ったボロ家からわかる通り、超が付くほどに貧乏だ。
昔はもう一人の友達を交えて、貧乏三人衆として遊んだものだ。
母さんが病気で亡くなって以降、父さんが男で一つで俺と夏未の面倒を見てくれた。
別にギャンブル狂いでも、無職でもない。
だけど、お金がないのだ。
色々と理由はあるが大きいものの一つとして、父が誰も彼もを信じてお金を貸してしまうのだ。
そのせいで、一時期は本当にお金がなかった。
夏未とおもむろに公園へ繰り出し、採取した雑草を塩コショウで炒めて食べていた時期は今やいい思い出だ。
最近こそは、それも落ち着いたが、そのころの極貧生活が身についたため倹約生活は続いているわけだ。
「やぁ、この夏にはアイスは染みるねぇ」
「ほんと美味しいよね、おにーちゃん。私の分も食べる? 一応間接キスになるけど、おにーちゃんだから関係ないよね。てか食べて、おにーちゃんの味……じゃなくておにーちゃんの食べてるアイスの味、とっても興味あるから……」
外はうだるような暑さ。
元気が売りな夏未にも、最近の留まるところを知らない猛暑は堪えるのだろう。
「今日、お父さん遅くなるんだってー」
「まじか、バーベキュー用の肉と野菜がセールだったんだけどな」
「え、ほんと!?」
今日はバイトの給料日だったから余裕もあった。休みだし、奮発したのだが……。
「お父さんに残しておいてあげよう」
「そりゃいいな」
夏未とは家族同然で、その関係は高校になっても変わることはなかった。
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