5 平穏は戻った

 姉は国法で裁かれはしたが、家族間であること、爵位持ちの家であること、そしてその行動に病気を疑われたため、予想通りの自宅預かりとなった。

 父は宣言した様に、昔私が療養していたいた別荘に姉を閉じ込め、衣食住は一応困らない様にさせるが、メイドも交代制で一人ずつ、週に一回という頻度送りこむ程度になった。


「どんどん汚くなって行くぶんですが」


 メイドの一人がそう父に訴えた。


「そのうち、一度大がかりな掃除をするさ」

「了解致しました」


 執事とそういう会話をしていた気もするが、その意味を考えるのはやめることにした。



 さて私はと言えば。

 義兄が弁償してくれたことで、再び店を再開した。

 ショウウインドウも以前より美しくなった。

 壊されたらベルが鳴る様に最新の装置も付けてもらった。

 あの時外側に広がったガラス、はなかなか被害者としての宣伝効果があった。

 再開した時はそれまで待っていたとばかりに女性のお客がどっとつめかけた。


「新しいリボンが欲しくて待っていたの」

「今度お姉様のブーケを作る材料が」

「ドレスに似合う髪飾りが」


 それこそ下働きの娘から商家、貴族に至るまで小さな店が溢れそうだった。

 社交界にもその噂は広がった。

 ただそれが誰のせいか、とまではぼんやりとしか伝わっていない――もしくはあえて口にされない様になっていた。

 友人の一人に新作のリボンを持って訪ねた時に聞いてみると。


「そりゃ、下手な噂で貴女の店が無くなってしまうのが皆怖いのよ」

「そうかしら?」

「そうよ。自信持って」



 また一方で、時々例のセラヴィト捜査官からお茶に誘われることが多くなった。


「お暇なのですね」


とつい言ってしまったのだが。


「仕事に勤しむ女性と友達になりたかったのです」


とのこと。

 どうやら結婚はしていないらしい。

 する気もないらしい。


「色んな事情が、人それぞれありますから」


 彼は彼で、小さな頃に化粧臭い女達に酷い目に遭わされた、ということで女性が苦手なのだという。

 現在の職務も、そうそう女性と関わることが無いかららしい。

 そういう彼からすると、しっかりある程度の距離を取ってくれる「女友達」が居るだけでもありがたいらしい。


「親の心配もそれなりに判りますので」

「とてもよく理解できますわ」


 話し相手としては非常に楽しい。

 知識もある。

 こっちはこっちで知っている知識での話もできる。

 向こうも本当にそのくらいの相手が欲しかったらしい。

 

 家に戻ると、姪が「おばちゃまお帰りなさい」と飛びついてくれる。

 そう言えばこの子は、母親が居なくなってもまるで悲しむ様子も無い。

「だってお母様が一緒に遊んでくれたこともないし。私おばちゃまの方が好き」

 どうしてこんな可愛いものを放っておけたんだろう。

 姉はどうしてああなってしまったのだろう。

 だがそこは私自身や周囲のためにも、あまり考えない方が良いのだろう。

 私はゆっくり考えに蓋を閉め、小さな子の手を引きながら家に戻っていった。

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昔酷いことをした姉はやっぱり今も酷かった。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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