4 私に姉がした過去、つながる現在
姉の表情が変わった。
父も義兄もその変化に気付いた。
「お母様、やめて」
さすがにそれはこんなに沢山の男性がいる中で言って欲しくはない。
だが母は止まらなかった。
「いいえこういうところでないとこの娘は自分のしたことがどれだけ酷いのか一生判らないままですわ。ゾーヤが十四の時に森に連れ出して、当時貴女と遊びで付き合っていた男達に!」
「お母様」
私はお母様の背中に抱きついて必死で止めた。
駄目、具体的に言わないで。
「……色々! 見つかった時には、ゾーヤは血まみれで! お医者様に診せたら、お腹の中がずたずたになっていたので手術して、子宮を取り出さなくてはならなかったんですよ!」
嗚呼!
それはお父様やお義兄様の前では言ってほしくなかった。
当時のことがフラッシュバックする。
「そ、それは本当か?」
「本当です。この子が黙っていて、と必死で頼むから貴方にさえ言わなかっただけです。でも駄目です。ソフィヤは元から自分のものと人のものの区別がつかない子でした。だから良い婿を取って子が生まれれば何か変わるかと思ったのですが…… このざまですよ」
「だから! あんた等が! いつもゾーヤのことばかり! この家はあたしが継ぐんじゃない! だからこの家も、ゾーヤのものも、皆全部あたしのもので何が悪いって言うの! ゾーヤの身体がどうだっていうの! 継いだらあたしのものでしょうに!」
ぐい、とその時義兄の手の力が強くなった。
痛たたたたた、と姉の悲鳴が上がる。
「あ、あの…… 指紋の照合ができました」
第二捜査員はようやくこっちの修羅場の合間に声を掛けてきた。
「現場に残っていた入り口や、扉について指紋と一致します」
「こちらからこんなものが」
麺棒がそこにはあった。
「ガラスの粉を検出しました」
「ご家族の問題として処理致しますか? ソーヤ嬢、ご家族の方々」
「いいえ」
真っ先に声を発したのは義兄だった。
「連れていってください。そして国法に照らし合わせて結構です」
「お義兄様、それではそちらの立場が」
「せっかくこの家に迎え入れてもらえたのに、彼女を抑えきれなかった僕にも責任はある。何より、エリシャに悪い影響が出る」
「そうだな、お願いします。そして何かしらの温情がついたとしたら、もう別邸に監禁でも致しましょう」
「ゾーヤ嬢はそれで宜しいのですか?」
「……み、皆様がそれで良いのなら」
私はまだ、昔の記憶に引きずられて、なかなか上手く頭が働かなかった。
セラヴィト捜査官はそんな私を心配げに見る。
「判りました。では」
お姉様は寝間着の格好のまま、捜査官に連れられて行く。
やめろぉぉ! だの酷い声が響き渡るが、私はそれには目と耳を塞いだ。
「……すまなかったな、今まで縁談をあれこれ」
「いいんです。元々私には結婚は向いてませんし。それに、本当に今の仕事が大好きですから……」
「店舗の修理費は私が出させていただきます」
義兄がそう言った。
「カルル! 貴方がこの家を出ていくなんてことはないでしょうね!」
「そうだ。あれより我が家にとって、君の方がよほど家族なんだ。そもそも君は、エリシャの父親だ」
「義父上…… ありがとうございます。今の仕事にやりがいもありますし、娘のことも愛おしいので、このまま居させていただいたら」
私はふう、とため息をついた。
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