見られている……?
それは、木漏れ日を気持ちいいと感じることができる、暖かい春のある日のこと。
多くの人々から“魔物”と呼ばれる真っ黒で闇のような、夜を体現したかのような身体の色で、ニンゲンにとって危険なため、討伐対象となっている生命体を森で狩り終え、討伐証明や素材を回収し、洞窟に帰ろうとしたした時に、ふと気付いた。
今現在、誰も住んでいないはずの、あの幽閉塔に誰かが、ニンゲンがいることを。
気配で誰がいるのか探ろうと思い、目を閉じる。自身を中心とし、円状に注意を広げる。
目を閉じることで視覚を閉じるようになり、ニンゲンとは比べものにならないくらい良い僕の嗅覚や聴覚が台頭する。
塔の中のニンゲンは誰も気付いていないが、僕は気配で、沢山の男の護衛と塔の1番上にたった1人の少女がいることを感じ取る。
僕の母さんが昔住んでいた塔に、知らない誰かが僕の許しもなく住んでいる。
少女に対する怒りは湧かないが、男どもは別だ。母さんとの思い出が詰まったあの塔に何を仕出かすか分からない。
もしも、あの塔の思い出を壊したのであれば同じように彼らの身体を壊すだけだし、問題はないのだが、心の中を土足で遠慮もなくずかずかと踏み込まれた気分がする。
「後で殺すか」
ニンゲンだろうが魔物だろうが、害虫駆除という面では全く変わらない。何なら魔物の方がまだ可愛げがある。
父さんと母さん、僕の意思の表れである、人間どもが犯した罪とその記憶を忘れさせないようにするための魔物の方がニンゲンよりも何百倍、何千倍も可愛い。
まあ、あの少女が幽閉塔で過ごすことに抗議の心も怒りも何もないし、好きにしてくれたらいい。
あの塔に住んでいた母さんはもう死んだ。あいつらによって、父さんとはまた違う方法で殺された。
僕は復讐を望んではいないし、母さんとの約束もある。だから特定のニンゲン以外は殺しはしないし、優しくする。
兎に角、あの塔に母さんが住んでいたのは、遠い過去の話。今、少女が住もうが、どんなニンゲンが住もうが興味はない。
興味はないはずだった。
僕は塔を見上げて、その場から離れた。
僕がいた場所は塔からは、米粒のようにしか見えないはずだし、たかが、ニンゲン。いくら鍛えようとも僕に敵うはずがない。
それなのに、塔の最上階の窓も閉められているはずなのに、なぜか見られている気がした。
僕は塔を振り返らずに、今回の戦利品を持って、洞窟へと、僕の棲家へと一直線に帰った。
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