幽閉塔の彼女と僕

紅花

僕は知っている


 僕が住む洞窟の近くには大きな塔がある。


 その塔は、黒くてとても高い。


 とても硬い石で出来ているから、削って脱出するための穴を作ることもできない。


 塔の周りには、木が1本も立っていないし、背の高い草も人が隠れられそうな茂みもない。


 塔の出入り口は1つしかなく、塔の上の小さな部屋に窓がぽつんとつけられているだけ。

 塔の上の部屋の窓には鉄格子が嵌められているわけではないけれど、人が身を乗り出すことができない大きさだから、飛び降りて死ぬこともできない。


 あの塔のことをよく知っている人は、『幽閉塔』と呼んでいた。


 僕が、獲物がたくさん取れた時や日用品を買うために行き、王都でもないのに王都のように栄えている近くの街では、『あの塔には“化け物”が住んでいるらしい』という噂があった。


 でも僕は知っている。


 あの塔には、今、誰もいないことを。

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