第2話 わが友たち
うらぶれたグラウンドから進んでいくとアスファルトで舗装された道に出る。ここは山の麓にある病院なんだ、だから一年を通してホトトギスが鳴いている。
そのきれいな声にありがたがって手を合わせるものなど誰もいない、この界隈じゃただの鳥という認識なんだ。
再び小さい空き地のような場所に今度は少しばかり手入れの行き届いたベンチが狭隘に並び、人が個々に離散して鎮座している。先ほどより人間の匂いが少しばかり強く漂う。
おれはそのような人の匂いを嗅ぐと不安と不快さを感じると共に、安堵もする。人嫌いでも一人では生きていけないのが人間の厄介さと卑怯さなんだと思う。
視界には三人の姿が映る。良くも悪くも、顔なじみだ。
一人目はかなり大柄な男で身長は185cm程度、体重95kgの文字通り巨漢ではあるが病院の食事が良くないので肥満体型ではない。年齢は35歳程度だと聞いているがはっきりとは知らない。
では肝心のこの男の有する行動様式はどうか?
病院の渡り廊下のへりから出発して、おれが先ほどまでいたグラウンドまで年がら年中あるものを運搬しているのだ。
ロープで結わえられた巨大なトレーラー用のタイヤを引きずって歩いているのだ、一日中ずっと往復して。。。
本人はそれに得心して没頭して毎日やる抜いているのだ。喋らないから何を考えてやっているのかすら理解が及ぶべくもない。毎日毎日、真夏でも汗を滝のように流して彼はやり抜いている。
その男の名は「タイト」
そう呼ばれているだけで漢字はわからない。
何回か喋りかけたことは「ある」
だが返事が返ってきたことはない。それが我らが世界。
もう一人男がいる、この男はずっとベンチで佇んでいるだけだ。ただ独語がひどい。独語とは独り言のことだ。
笑いながら、
「夢、夢、夢」と笑いながらずっと放言しているのだ。身長体重は中肉中背で年齢は20ぐらいと若い。幼少の頃からここにいるらしい。この男とはたわいのない話をしたことがある。一応のセンテンスはある、脈絡がないこともない、ただ普通の会話を続けるのは困難だ。
印象的な笑顔をよく覚えている、まさに純粋無垢と言った感じだった。ただ不安感が強いらしく状態が悪い時がよくある。何かを叫びたそうにして暴れてしまう。そしてどこかに、いやもったぶった言い方はよそう、独居にしばらく幽閉されることになる。
その男の名は「ユウ」
そう呼ばれているだけで漢字はわからない。
あとひとつ影がある。ユラユラ、ユラユラ、まるでこのあたりの風になびいているようだ。
はかなくその生を無意味にすり減らしながらなんとか生きている感じが強くする。。。
この病院には女性患者も当然いる。男女混合病棟なんだ。
最初に言っておくが、ものすごい「美人」だ。
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