第三章……流離う狩人は二人と出逢う
第15話 新しい拠点となる町、マルリダ
クリーラの領地を出てから正反対の位置、ラスプから少し離れたところにある小さな町――マルリダ。商人や旅人が一休みする中間地点としているからなのか、人の出入りが多い。そのおかげか市場の品揃えも良く常に人が絶えない町だ。
マルリダの町にも冒険者ギルドは存在する。場所によって彼らの特徴が変わるのだが、此処は荒れていないので落ち着いていた。
ひと際、目立つレンガ造りの頑丈そうな建物が冒険者ギルドだ。中に入れば、真っ先に受付があってその奥には依頼の掲示板とテーブルが設置されている。飲食ができるようになっており、酒場よりは室内が明るいこともあってか酔っぱらった人間は見かけない。
「はい、登録完了しました。こちらが冒険者ギルド認定プレートになります」
茶色の髪を結った受付嬢はそう言ってブリュンヒルトに手渡す。銅でできた小さなプレートには冒険者ギルドの支店名と冒険者の名が刻まれていた。
「ブリュンヒルトさんはDランクとなります。依頼の内容次第では一人で受けることはできないので気をつけてください」
「わ、分かりました!」
ブリュンヒルトはプレートを受け取って一礼した。
ギルド認定の証であるためこれだけで身分証明に使うことができる。無くさないようにしないとと、ブリュンヒルトは思いながら掲示板のほうへと向かう。
クラウスはいくつかの依頼に目を通していた。駆け寄ってくるブリュンヒルトに気づいてかその手を止める。
「貰ってきました!」
「そうか」
ブリュンヒルトはプレートを見せるように手を上げた。しっかりと刻印されているそれにクラウスはふむと考えるような顔をしてから腰にかけたホルダーを漁る。
するりと細い鎖のようなものを取り出した。ネックレスのようなそれをブリュンヒルトへと差し出す。
「これを使ってプレートを首から下げるといい。無くさなくてすむだろう」
「あ、ありがとうございます!」
ブリュンヒルトは鎖を受け取ってプレートをネックレスようにして首から下げた。
「どうですか!」と問う彼女にクラウスは「いいんじゃないか」と答えた。
「クラウスさんも首から下げているんですよね?」
「あぁ。プレートに関しては鎧に付けたり、バッチにしたりと人それぞれだな。俺は見せるのが楽だからという理由だが。ブレスレットのようにしてもいいが、短刀を振る時に邪魔になったらと考えて止めた」
首から下げていれば、身分を証明する時に取り出すのは簡単だ。バッチも考えたが紐を通すだけでいいこっちのほうが楽だと考えた結果だった。「その鎖も俺が使った残りだ」とクラウスは言う。
ブリュンヒルトは「そうなんですか!」と首にかけたプレートを握った。
「お下がりですまないが……」
「いえ! 全然! むしろ、おそろいみたいで嬉しいです!」
えへへと照れ笑うブリュンヒルトにクラウスは首を傾げる。彼女の反応がいまいち理解できていないようだった。
そんなブリュンヒルトからクラウスは掲示板に目を移して一枚の依頼書を取った。
「それを受けるんですか?」
「そうだ。Dランクがいても問題なく、俺がお前をサポートできる範囲で受けることができる高収入なものだ」
これからこのマルリダの町を拠点に冒険者として活動していくことになる。ただ、住処となる家があるわけではないので、宿代や食費などを稼がなくてはならない。
今はクラウスがある程度稼いだ資金があるので問題はないが、依頼をこなしてお金を稼いでおかねば底を尽きたときに困ることになる。
クラウスの説明にブリュンヒルトは申し訳なさげに呟く。
「わ、私が着いてきてしまってますもんね……」
クラウスだけならもっと他の依頼もできるだろうし、一人のほうが負担も少なくてすむのだ。ブリュンヒルトの様子にクラウスは「気にするな」と彼女の綺麗な白い髪を撫でた。
「別にお前が悪いわけではない」
「クラウスさん……」
「ただ、ランクは上げてもらう」
クラウスの「いつまでもDランクでは困るのでな」という言葉にブリュンヒルトはふげぇと声を零した。「依頼を数こなせばCには上がれるだろう」と言われてさらに呻いた。
「魔物を倒せば上がるんですか?」
「そうというわけではない。ただ、力が目に見て分かりやすいだろうな」
納品依頼をコツコツと受けて信頼を築き、腕を磨いてランクを上げる者もいれば、魔物を倒して力を示す者もいる。必ずしも強い魔物を倒せばいいというわけでもない。
強敵を倒したとしても無茶をやらかしたり、被害を増やしたりなどしては力を認められない。しっかりと判断できることも重要だ。
「ただ、DからCはちゃんと依頼をこなすことができればすんなりと上がることができる」
「依頼をちゃんとこなすことも大事ですもんね」
そういうことだとクラウスは依頼の内容をブリュンヒルトに見せる。それはコリアナの花とボアーの牙の納品依頼だった。
コリアナの花は町から少し離れた森に群生している。そこにボアーも生息しているので二つを採取するのは問題ない。
ボアーだけならばクラウスは狩り慣れているので一人でもできる。ブリュンヒルトは「コリアナの花って解毒剤の材料ですよね?」と問う。
「知っていたか」
「薬草関連のは書物を読んでいたので少し知ってます」
「どんなものかも分かるか?」
「コリアナの花なら分かります」
クラウスは「なら、花の採取を頼もう」と言って依頼書を受付へ持っていった。
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