【シーン9:破顔】②

GM:周囲を取り囲む無数のジャーム。逃走する主犯。負傷する田岡。動揺する対策チーム。力の及ばなさに歯噛みする宵野間。


GM:そして、選択を強要される美堺。


GM:困窮する状況で、出された結論やいかに。





美堺 菜麻:「…………アノ、こっち来て」

 覚悟を決めた顔で宵野間を自分の下へと呼び寄せる。



宵野間 灯:「はい……」

 疲れた顔を隠しながら近付く。


美堺 菜麻:「今から私一人でブロークンスマイルを追います」



美堺 菜麻:「アナタはここに残って田岡ちゃんを、みんなを守って下さい」

 今までちゃんと見れなかった顔をしっかりと見て、苦笑いみたいな顔で指示を出す。


宵野間 灯:「わかり、ました……」

 自分がもっと上手くやれていればこんなことにはなっていなかったかもしれない。そんな思いを抱えながら、血を流す田岡を見た。


宵野間 灯:今まで自分が落っことしてきたもの、手を伸ばさなかったものを取り戻さないと。


 だからちゃんとやらなきゃ。


宵野間 灯:ただ相変わらずオーナーの目は見れなかった。



美堺 菜麻:「アナタのせいじゃないです」


美堺 菜麻:「アナタはよくやれています」



美堺 菜麻:「アナタはグレーゾーンとして、UGNの一員として」


美堺 菜麻:「ちゃんとしています」


美堺 菜麻:「これは期待でも評価でも無く」


美堺 菜麻:「私の感想です」



美堺 菜麻:逸らされたままの視線へそう言葉を投げかけ、田岡の体をなるべく宵野間に寄せる。


 彼女の攻撃範囲を考えるとここが一番安全だと認識した。


美堺 菜麻:「次のアノの攻撃で一気に走り抜けます」


美堺 菜麻:宵野間にだけ聞こえる声でタイミングを伝え。



美堺 菜麻:「ブロークンスマイルは私だけで追いますっ!」

 全員に呼びかける。



印南 標:「…!!」


対魔忍:「それは……っ(危険では?という言葉を飲みこむ)」


美堺 菜麻:「私の安否を気にするのなら雑魚を片付けて加勢に来てくださいっ!!」


美堺 菜麻:「死んでしまうかも知れないのっ」

 体勢を整える。


 いつでも走り出せる準備をして。


「でっ!!」


 宵野間に合図を送った。



宵野間 灯:「ッ!」



宵野間 灯:一瞬向けられる視線。



宵野間 灯:それをあえて見返した(・・・・)。



宵野間 灯:身体が強張る。

 視界が真っ赤になって、息が荒くなって、レネゲイドの操作がおぼつかなくなって──、


宵野間 灯:そしてリミッターが外れるのを感じた。



宵野間 灯:「邪魔を、するなッ!!」

 影を振動させて音を放つ。その音で前に立つクリーピング・ラット達を蹴散らした。



宵野間 灯:「印南さん……もし、私が止まらなかったら、殺してくださいっ……!」


印南 標:「……っ、分かったよ…!好きなだけ暴れろ!」


印南 標:「行ってくださいリーダー!ここは任せて!アイズイズノイズも!田岡も!僕が責任もって面倒見ますから!」



印南 標:「大丈夫!僕、強いので!」


二郷 友典:「ああ!あのブロークンスマイルのクソ忌々しい笑顔をぶっ潰してやれや!」





田岡 夕比:「……あ”ーーー」


田岡 夕比:駆けだそうとする美堺の背を、虚ろな目で追いかける。


田岡 夕比:「えーっと、なんていうか」




田岡 夕比:「……あとは、よろしく。美堺」



美堺 菜麻:返事をすることなく走り出す。

 手を振るつもりで上げた拳に炎を纏わせ、宵野間の攻撃で弾き飛ばされたネズミを殴り飛ばす。


美堺 菜麻:標的はブロークンスマイル。

 当たっても当たらなくてもいい。



美堺 菜麻:「待て」


美堺 菜麻:注意がこっちに。



美堺 菜麻:「待て」


美堺 菜麻:向いてくれたら。



美堺 菜麻:「待てって言ってるだろクソ女っ!!」

美堺 菜麻:それでいい。



GM:美堺は一瞬の隙をつき、乱戦の輪を抜け出した。

 四足歩行のジャーム達は美堺を追おうとするが、残ったメンバーによってそれを阻まれ、倒される。


GM:ブロークンスマイルは一心不乱に駆けていく。

 その速さは尋常のそれではない。ハヌマーンのシンドロームのそれによるものだろう。



GM:やっとブロークンスマイルが後方を一瞥した頃には、美堺は仲間達から遠く離れていた。




ブロークンスマイル:「…………(ニィ)」


GM:追ってきたのが1人だと把握してか、妖しい笑みを浮かべてみせる。



美堺 菜麻:「はぁ……はぁ……」


美堺 菜麻:このまま引き離されるかと思っていた追いかけっこに終わりが見えてくる。


 私一人だけと知って余裕を見せたか、元から誰かを誘い出すつもりだったのか。

どちらかなんてわからないけど、酷く悪質な笑みを向けられてキッと睨み返す。



美堺 菜麻:「はぁ……はぁ……口があるなら喋りなよ、ブロークンスマイル、いや」



美堺 菜麻:「吾妻夏稲」




ブロークンスマイル:「……ふふ」



ブロークンスマイル:「そう、そう。そうだね」



ブロークンスマイル:「それが名前だ」


ブロークンスマイル:「覚えてくれているのは───本当に、嬉しい」


ブロークンスマイル:「ふふ、ふふふふふふっ」


ブロークンスマイル:「はははははははははははははははははは!」



GM:ブロークンスマイル──────ジャームは嗤う。何が可笑しいのか、それは常人には理解できないだろう。


ブロークンスマイル:「これが、キミの選択」



ブロークンスマイル:「キミは得られない。何も、何も、何一つ」



美堺 菜麻:「その笑い方、気持ち悪いです」


美堺 菜麻:自分のことは棚に上げて相手に言い放つ。

 正直何を言って何が面白いのか見当はつかないけれど、真面目に返事をするのは危ないように思えた。



美堺 菜麻:「アナタの目的はなんですか? どうしてこんなことをっ」


美堺 菜麻:するのか、と繋げようとして、こんな得体の知れない相手に暴れるのに理由なんてあるのかと言葉を飲んだ。



ブロークンスマイル:「ふふっ」


ブロークンスマイル:「じきに知ることになる」


ブロークンスマイル:「そうでしょう?そう、そうだろうとも」


ブロークンスマイル:「ふふふふふふふふふふふ」



ブロークンスマイル:「キミが、彼女が、あの人が、誰も、彼も」



ブロークンスマイル:「全員知ることになる」


ブロークンスマイル:「私が──────一番凄いってこと」



美堺 菜麻:「……自分の力を誇示したいからって人様に迷惑かけていいと思っているんですか?」


 背後を気にする。みんなが来る気配は無い。

 当たり前だけど手こずっているのだろう。



美堺 菜麻:「そもそもアナタ、本当に吾妻夏稲ですか?」

 やっぱり自分一人でどうにかするしかない。



美堺 菜麻:「資料によると彼女は」

 気付かれないよう少しだけ足を引く。



美堺 菜麻:「随分と前に死んだはずですけど」

 地面を蹴って飛び出し。



美堺 菜麻:「ねっ!!」

 そのにやけ顔に向けて右ストレートを放った。



ブロークンスマイル:「……ニィ」


ブロークンスマイル:「そうだよ」



GM:首を傾け、拳を避ける。そのまま反撃の膝蹴りを放つ。哄笑と共に。



ブロークンスマイル:「キミもそう呼んだじゃない。吾妻夏稲、って」



美堺 菜麻:顎を上げて体を逸らせる。



美堺 菜麻:「言いにくいんですよっ! ブロークンスマイルってっ!!」

 間一髪で避け。


美堺 菜麻:「吾妻って名前の方が言いやすいのですっ!! 色々あってっ!!」

 腹部目がけて回し蹴りを入れようとする。



ブロークンスマイル:「ははははは!」



ブロークンスマイル:「ならそう呼べば良い。それで合ってるんだから」



GM:瞬時にステップして蹴りを捌く。

 反撃にエフェクトでの雷撃を放つ。



ブロークンスマイル:「でも、気にする必要もないかもしれないね」



ブロークンスマイル:「キミは得られない。何も、何も」


ブロークンスマイル:「失うばかりだ、何もかもを」



ブロークンスマイル:「はは、はははははははははっ」



GM:互いにほぼ互角の攻防が繰り広げられる。



GM:美堺も時間を稼ごうとしているが、ジャームの方も実力を見せていない───どこか楽しんでいるように見えた。



GM:だが、あるタイミングで均衡が崩れる。



GM:美堺の放った蹴りを避けようとして、ジャームが態勢を崩した。


GM:互角な攻防において、決定的な隙!



美堺 菜麻:まるで手応えの無い攻防の最中に見せた一瞬の隙。



 罠かも知れないそれに飛び込むのは愚策に思えたけど、自分は足止め。



美堺 菜麻:「こっのっ!!」

 もし何かあっても後から来る誰かが何とかしてくれるだろうと託して。



美堺 菜麻:「死にさらせぇっ!!」

 渾身の一発を叩き込んだ。





ブロークンスマイル:「!」



GM:美堺の拳がブロークンスマイルの顎を捉える!


GM:オーヴァードの膂力による打撃は細い顎を打ち砕き、そのまま首を捻じ曲げる!


GM:よろけたジャームの身体がたたらを踏み、うしろへ下がった。



ブロークンスマイル:「ギ……ぃ」



GM:通常であれば致命的な一撃……。

 しかし、敵は強大なジャームである。


 単純な致命傷では死なない悍ましい生命力がある!



GM:それでも、この一打による影響は大きい。

 この再生に力を割いている相手に対し、追撃が可能だろう!










GM:──────美堺が、仲間を連れてきていたのなら。



GM:美堺は一人だった。

 彼女はそれを選択し、此処に来た。

 ゆえに、効果的な一撃を敵に与えた後、次の者に手番を譲ってしまうことになる……。





GM:突然。横殴りの衝撃が美堺を、そしてブロークンスマイルを襲うだろう!



GM:その不意打ちは強大だ。一瞬で意識すら奪いかねない。



GM:周囲の床がめくれ上がり、瓦礫として舞う中で、ブロークンスマイルの身体がよろけ───



GM:土煙に紛れ、美堺は見るだろう。その横やりを入れた誰かの姿を!



???:「…………」


────────────────────

※セッション時は以下のリンクから見れる立ち絵を表示するギミックをとった。

https://kakuyomu.jp/users/romanesco/news/16817139555137399537

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美堺 菜麻:「っっっ!」


 衝撃に呼吸ができない。息が止まる。


 視界は宙を浮いていて、自らの体が吹き飛ばされたことを理解した。


 端っこに吾妻夏稲ブロークンスマイルが見える、見える、見える。



 彼女も吹き飛ばされている。


 じゃあ、私達を攻撃したのは、一体……?





美堺 菜麻:回る、視界が。



 暗転する、目が。

 

 彼女を捉える。




美堺 菜麻:私が友達だと勘違いしていた人。


 一時的とはいえ友達だった人。



 私と、私達と一緒に騒動の解決に走り回った仲間。



美堺 菜麻:その姿……姿? に、何か呼びかけようとして。




美堺 菜麻:「……ッッヒヒッ」



美堺 菜麻:そんなのってないよと意識を閉ざした。

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