【シーン3:対策チーム】②

GM:解散の合図の後、美堺はひとり溜息をついて自省していた。


美堺 菜麻:「…………はぁ……」


美堺 菜麻:「みなさん空気凍るぐらいドン引きしていましたね……私またえげつない言い方しちゃったんでしょうか……はぁ……」




印南 標:「美堺さん」


GM:そんな時、一旦散り散りになったメンバーの中から、印南が声を掛けてくるる。


印南 標:「あらためてはじめまして、印南 標といいます。貴方の噂はかねがね。今回の任務、ご一緒できてうれしいです」


美堺 菜麻:「あっ、印南さん」


美堺 菜麻:「こんにちは初めまして。先ほどはフォローありがとうございます」


美堺 菜麻:「私も印南ちゃんの血生臭いお噂はかねがね伺っていますよ」


印南 標:「いえ、リーダーとして“締まる”お言葉だったと思います」

 クックック、と苦笑してみせる。



印南 標:「たしかに、僕の最近の評価はあまり芳しくないようですね。正直、文句を言いたいのはこちら……ってくらいなのですが」


GM:血生臭い噂……というのは印南が担当するグレーゾーンジャームを使い潰している、という評判についてだ。これに対し印南は自分の運用についてこられない、グレーゾーン達に非があるのだ、と語る。


印南 標:「……さっきはこのチーム、少数精鋭って説明しましたけど」

 少しだけ声のトーンを落とし、周囲を気にする素振りを見せる。


印南 標:「ここだけの話、僕は上層部が何かの意図をもってこのメンバーを集めたのだと考えています」


印南 標:「例えば……内通者自身が、この中に居る、とか」



美堺 菜麻:「……あぁ」

 印南の話を聞いてなるほどーっと頷く。


美堺 菜麻:「実は私も同じ事思っていました」


印南 標:「……流石」

 目を細めてみせる。


美堺 菜麻:「じゃないと吾妻ちゃん、吾妻夏稲ちゃんの妹である彼女がぶっ殺したと噂されてる印南ちゃんと同じチームに組み込まれるのはちょーっとおかしいですから」


印南 標:「ああ……なるほど」


────────────────────

※事前に吾妻秋穂の姉である夏稲(なつね)はグレーゾーンであり、印南の管理下で死亡した旨は提示していた。そのあたりの情報をPLはさらっと話題に出してきたのである。

────────────────────


印南 標:「吾妻さんの妹……仰る通り、彼女はこの対策チームに入れる水準の人物ではない」


GM:印南にとって“吾妻”というのはあくまで姉である夏稲を指すようだ。


印南 標:「あらかた上の方に取り入ったんでしょう。ま、彼女が内通者……とは思えませんけど」


印南 標:「……」


印南 標:「僕が疑っているのはあの人。田岡 夕比です」

 そう言って、視線を部屋の隅でドリンクを飲んでいる女に向ける。


印南 標:「あの人は……オーヴァード殺し、ですからね」


美堺 菜麻:「先程見てましたものね、田岡ちゃんのこと」


美堺 菜麻:印南の視線を追うように目を向ける。


田岡 夕比:「~♪」

 気付いていない。


美堺 菜麻:「確かに彼女も怪しいですよね。何考えてるかわかりませんし」


印南 標:「何も考えてないだけですよ……」

 ギリ、と僅かに、けれど強く歯噛みする。


印南 標:「とにかく、貴方が誰を疑うかはお任せしますが。あの人には注意した方が良いと思いますよ、美堺さん」



美堺 菜麻:「……その忠告」


美堺 菜麻:「田岡ちゃんに意識を向けさせて自分に疑いの目が向けられないようにしている、とも取れるんですけれど」


美堺 菜麻:「大丈夫ですか?」


印南 標:「そう認識してもらっても構いません」


印南 標:「僕の実力と潔白さは、僕自身の能力で証明しますから」


GM:そう答える印南の口調には自信が満ちている。オーヴァードとしての能力に誇りがあるのだろう。


印南 標:「というか、安心しました」


印南 標:「指導者に求められるのはそういうフラットな目線でしょうからね」


美堺 菜麻:「フラットと言うか」

 田岡から視線を外して吾妻と宵野間を見る。


美堺 菜麻:「この中で一番『強い』のは、彼女の手綱を握っている印南ちゃんでしょうから」


美堺 菜麻:「敵に回したくないですねと思っただけですよ。ッッッヒヒッ」


印南 標:「アレが居なくとも、強いのは僕ですよ」

 また苦笑すると、踵を返す。


印南 標:「じゃ。頑張りましょう。美堺リーダー」


美堺 菜麻:「ッッッヒヒッ、こちらこそ」


美堺 菜麻:「お互い無残にぶっ殺される前に犯人ぶっ殺しましょうね」


GM:その言葉に軽く引き笑い。汗を拭きながら自分のデスクの方へと向かう印南であった。


────────────────────


GM:一方。印南が会話している最中、監視下にある宵野間は暇である。


GM:それを見計らってなのか、吾妻 秋穂が声を掛ける。背を印南に向け、話す内容を宵野間のオーナーである彼女に伝わらないようにしながら。



吾妻 秋穂:「助っ人に選ばれた人だよね。たしか……宵野間 灯ちゃん」


宵野間 灯:「……そうですけど、いいんですか。そんな風に話しかけて」


吾妻 秋穂:「何言ってるの。おんなじチームじゃない」


吾妻 秋穂:「それに……私の姉も、グレーゾーンのジャームだったから……」

 優しく微笑んでみせる。


宵野間 灯:「……だった?」


吾妻 秋穂:「死んじゃったんだ」


吾妻 秋穂:「ううん……殺された」


吾妻 秋穂:「あの人……印南 標さんに、ね」




宵野間 灯:「……何が言いたいんですか?」


宵野間 灯:「だから私に気をつけろと?それとも復讐の機会を伺ってるとか?」


宵野間 灯:「その話をして、あなたに何かメリットでもあるんですか?」


吾妻 秋穂:「メリット……?ううん、貴方が言う通り、気をつけて欲しいだけ」


吾妻 秋穂:「彼女は、自分が監視するグレーゾーンを何人も使い潰してきた人」


吾妻 秋穂:「貴方が……、私の姉と同じように、あの人の犠牲になって欲しくないだけなの」


GM:そう宵野間に語る吾妻の表情は真剣なものだ。言葉の通り、本気で宵野間を心配しているのである。



宵野間 灯:「あなたは幾つか勘違いをしています」


GM:対し、宵野間は決然と言い放つ。


宵野間 灯:「一つ、グレーゾーンは人ではありません。心配は無用です」


宵野間 灯:「二つ、彼女は優秀なオーナーです。使い潰してもなお、任務を達成した。そのことは称えられるべきです」


宵野間 灯:「三つ、私はUGNのためなら死んでも構いません。元より、そうなるようにチルドレンとして、教育を受けてきました」


宵野間 灯:「……今更それがグレーゾーンなのか、普通のエージェントなのか、そこに違いはありません」


宵野間 灯:「ですから心配はご無用です」



吾妻 秋穂:「……貴女は、」

 宵野間の言葉に、二の句が継げなくなる。


吾妻 秋穂:視線を逸らして俯いて


吾妻 秋穂:「それでも……放っておけないよ……」

 とだけ、小さな声を絞り出して呟いた。


宵野間 灯:《七色の直感》により相手の感情を色として感じ取る。


GM:吾妻は宵野間を心配しているし、それはグレーゾーンということで姉と宵野間を重ねているからだろう。だがそれ以上に、今この瞬間は宵野間から投げられた言葉に、ショックを受けているらしかった。


宵野間 灯:うるさかった。


宵野間 灯:目の前の女からあふれ出す青色の感情が酷くうるさく見えた。


宵野間 灯:今目の前にいるこの女の感情が恐ろしく感じる。それが酷くうるさい。


宵野間 灯:「私は、あなたの姉とは違います」



宵野間 灯:自分へ向けられる好意、憐み、様々な感情は、やがて別のものへと変わるタ イ タ ス と な る


宵野間 灯:であるならば、最初からマイナスの感情ロイスである方が、怖がらなくて済む。


宵野間 灯:「では」

 そう告げて部屋を後にした。




吾妻 秋穂:「……」


GM:その言葉には何も吾妻は言い返せない。ただ宵野間が立ち去るのに、悲しそうに俯くだけあった。


~シーン終了~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る