二子玉家の妹は今日も仲良くデート中

「…て。ねぇ、正樹くん起きてよ!」


俺のことを誰かが呼んでいる。


まだ覚醒していない意識の中でそれだけを認識できた俺は、重石がのっているのかと錯覚するぐらい重い瞼を強い意識で持ち上げる。


まず目に入ってきたのは太陽の光をいっぱいに吸収した金色に輝く髪の毛。その後、少し怒った雰囲気を醸し出す顔が俺のことを覗き込んでくる。


「おはよう、鈴」


「おはよう、正樹くん…って違う!どうして正樹くんが凛の部屋で寝てるの?」


「昨日ここに泊まらせてもらったんだよ。鈴こそなんで凛の部屋に居るんだ?」


「今仕事から帰ってきたんだけど、凛の事起こしてから寝ようかな?って」


「まだ鈴に起こされているのか…」


普段は、完璧超人の凛だが、致命的な弱点が一つだけある。


それはこと。


本人曰く低血圧のせいらしいが、アラームをかけても自力で起きることができない。


昔から鈴や母親に起こされているのは知っていたが、まさかこの年になっても直っていないとは思わなかった。


「で、なんで私のこと差し置いて2人でお泊まり会してるのかな?」


やっぱりまだ怒っているらしい。寝ている俺に覆いかぶさるように圧をかけてくる。


「ちょっと近くないか?」


「あっごめんね!」


どうやら気づいていたわけではないらしい。慌てて距離を取る鈴の耳が少しだけ赤くなっていた。


「2人でゲームしてたんだよ。ほら、鈴はそういうの興味ないだろ?」


「そうなんだけど…2人だけずるい!」


「ずるいって…」


「私だって正樹くんと遊びたいもん!」


「じゃあ、来週の休日にでも遊びに行くか?」


「行く!絶対行く!」


鈴がなぜか興奮して、また距離が近くなってきたので引き剥がす。


「分かったから落ち着けって。また顔が近いぞ」


「あ、ごめん。でも約束だからね!」


「分かったよ。行きたいところきめておいてくれ」


「うん!」


どうやら機嫌を取り戻してくれたらしいので、とりあえずよかった。


その後、2人がかりで凛を起こしたのだが、なかなか起きてくれなかったのは言うまでもない。



後日、鈴から送られてきたメッセージには時間と駅前に集合という旨だけだった。


お隣さんだから待ち合わせは家の前でいいんじゃないかと言ったのだが…


「それじゃダメ!」


と強く言われてしまった。


行き先についても教えてもらう事ができなかった。どうやら当日までのお楽しみらしい。




約束当日、集合時間ちょうどに着いた俺は鈴を探す。


すると、後ろの方で鈴らしき声が聞こえてきた。


「すみません。やめてください」


「なんでよ、いいじゃん。連絡先ぐらい交換してよ」


どうやらナンパされているらしい。


今日の鈴の格好は、帽子を目深まぶかにかぶって伊達メガネまでしているおかげで、『二子玉 鈴』だとバレてはいないようだが、バレるのも時間の問題かもしれない。


俺は急いで間に割って入ることにした。


「俺の連れに何か用か?」


「ちっ!男連れかよ。だったら先に言えよな」


そう言い放ち、鈴をナンパしていた男はそそくさと立ち去っていった。


それを見届けた俺は鈴に声をかける。


「鈴、大丈夫だったか?」


「あ、うん。大丈夫…」


「それならなによりだ。それで、今日はどこに行く予定なんだ?」


一瞬俺の方を見て呆けていたようだが、すぐにいつもの調子を取り戻したのか、俺の手をひいてくる。


「それはまだヒミツ!ついてきて!」


「分かったから、あまり引っ張るなって」


今日も今日とて忙しくなりそうだ。

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学校で人気な二子玉家の双子はいつでも仲がよろしい(?)ようです 暁 Fiar(フィア) @Fiar

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