第7話 そんな難しい話を俺にされても、わからないよ!

 ゆっくりと、ムシノが近づいてくる。

 校舎の陰に隠れた俺は、その様子を横目で確認していた。




「坊主、どこにいるのかな~?」




 楽しそうにムシノが拳を振るう。

 そのたびに、校舎のどこかに凹みができ、あるいは壁の一部が、パラパラと地面に落ちてきた。


(どうする、どうする――どうする?)


 爽夜さわや先輩を救いたい。

 だが、そのためには、まずあいつをどうにかしないといけない。

 それも俺だけの力で。


(無理だろ……できるわけがない。俺は正義のヒーローから、ほど遠い人間なんだぞ)


 俺は力の限り、首を横に激しく振って、弱気な考えを追い払おうとした。

 この際、もはや自分の安全は望まない。


(だけど、先輩だけは助けたい……)


 どうすれば、それがかなえられるというのか。




『お困りのようだね、マコト』




 本気で、心臓が止まるかと思った。

 聞き覚えのある声。

 絶妙に不愉快な音の正体を、思いだそうとするまでもなく、頭の隅には、イメージが勝手に浮かんでいた。


(……神)




『俺は神さまじゃないよ。でも、そうだね……。名前がないと不便だというなら、コーザ(名無し)とでも呼んでくれ。まっ、君の前に現れるのも、これで最後だと思うけれど』




 着弾。

 ムシノが放つ衝撃波が、自分の、すぐ近くにまで迫ってきたので、俺は慌ててその場から避難した。


(助けてくれる……のか?)




『まさか。俺がそんなことを、するわけがないだろう? それは今まで、君がいじめられていても、何もしてこなかったんだから、そのくらいは、理解していてほしいところだよ』




(じゃあ、なんだって再び、現れたっていうんだ……!)


 胸中でつぶやきながら、俺は特別棟のほうへと、滑りこむようにして逃げていく。




『ちょっとした、アドバイスだよ。君がもっている世界呪のね』




(……世界呪?)




『うすうすは、君も気がついているんだろう? この世界には、特別な力が存在している、っていうことに』




(呪力のことか……? でも、あれはオートマトンを、動かすためのもので――)


 何か特別な機能が、備わっているわけじゃない。




『違うな。呪力はふつう、世界呪の行使に必要なものさ。でも、みんながみんな、世界呪を使えるわけじゃないし、便利なものを、必ず持っているわけでもない。そこで生まれたのが、オートマトンさ。まあ、このあたりのことは、おいおい自力で、知っていけばいいよ』




(その……世界呪を――)


 俺が持っているというのか。

 馬鹿な、今まで俺は、一度もそんなものを使ったことがない。




『当たり前だよ。だってまだ、発芽していないもの。……ああ、発芽っていうのは、能力が発現することだね。正式な名前は、世界呪の種子だから、そこから発芽、っていう言い方をしているんだよ』




(そんな難しい話を俺にされても、わからないよ!)


 頭の中にいる神は、結構簡単なことを話していると、そう言いたげな顔をしていた。ああ、神じゃなくて、コーザと言うんだったか?

 そこでまた、コーザは以前のように、態度を急変させた。

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