第3話 何もないんだろ? ならせめて……頼むから、魔力くらいは人並みにあってくれよ

 人型巨大操縦兵器。通称、オートマトン。

 理由は知らないが、この世界の高校生は、こいつの操作方法を学び、実演するのが、必修のカリキュラムになっている。


(……高校生っていう表現は、俺の適当だけど)


 神は、確かにこれが、延長戦だと言っていた。ならば、今の俺は、元の世界で言うところの、高校に通っているはず。


(正確には……なんだっけ? プテューラ学園だっけか)


 集合場所がどこなのか、まるでわからなかった俺は、案の定、迷子になった。だが、冷静になって考えてもみれば、巨大ロボットを動かせる場所なんて、一つしかない。校庭に決まっている。


(なんで、気がつかなかったんだろ……)


 俺が校庭に着いたころには、すでに、生徒の全員が集まっていた。

 つまり、俺は遅刻をしたというわけで。




「……すみませんでした」




 どこの世界も、ガチムキな教師がいるんだな、という感想を抱きながら、歩いていけば、遅刻した罰として、俺は思い切り頭を殴られていた。元の世界じゃ大騒ぎだろうが、あいにくと、こっちはこれがふつうなのだろう。まあ、残念な意味での特別待遇は、俺だけなのかもしれないが……。それでも、今朝の短時間だけで、他人から殴られすぎていた俺には、その教師の行動に、あまり新鮮さを見いだせなかった。

 病気だ。

 そのあとは、単調な座学からはじまった。

 バカな俺に言わせれば、聞いた内容なぞ、次から次へと、耳よりこぼれ落ちるに決まっている。授業を真剣に聞こうとするだけ、時間の無駄だ。実際、聞いても何を言っているのか、さっぱりわからなかった。半分、寝ていたせいもあるのかもしれない。

 みなが移動する音で、俺はたたき起こされる。真実は、本当にだれかが、俺を殴っただけなのかもしれないが、痛みを感じなかったので、あまり気にならない。すでに、大量に殴られているのだから、多少の数が増えたところで、今更だ。

 俺は寝ぼけまなこを、みんなが歩いていくほうに向けた。


(あれが……オートマトン)


 青い機体。

 いったい、人の何倍というでかさなのだろう。

 角張っているのではないかという、俺のイメージに反し、そいつらは全体的に、どことなく丸みを帯びている。ハッチを開け、人数ぶん用意されている機体の、操縦席に勇んで乗りこめば、直後に、当然の疑問が俺の頭をよぎった。


(どうやって動かすんだ、これ)


 ……いや、大丈夫だ。

 なんとなくだが、思いだしてきた。

 たしか、ここの注ぎ口に、呪力を流しこむんだったはずだ。




「……呪力?」




 言いながら、自分がとんちんかんなことを、しゃべっているのに、俺は気がついていた。




「魔力みたいなもの……か」




 ここは異世界なのだ。魔法くらいあっても、別に不思議じゃない。あいにくと、存在したのは、巨大ロボットのようだったが。

 呪力を流しこむ方法は、いまいちわからないが、たぶん手をあてるのだろう。そうして、必死になって、俺が手のひらを押しあてていれば、かろうじてモニターが光りだす。


〈動力が不十分ですが、起動させますか?〉




「嘘だろう……」




(何もないんだろ? ならせめて……頼むから、魔力くらいは人並みにあってくれよ)


 冷たい金属の操縦席を、力なくたたきつけた俺だったが、画面の表示が変わることは、決してなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る