第35話 乱入者

 今度の試合は、6位と7位の試合だったのだが、7位の冒険者はかなり強いらしく、圧倒的な差を見せつけて6位に勝利した。


 そして、リークと俺の番。


 リークはいつも使っている妖精王の杖ではなく、そこそこ大きめな木の杖を持っている。


 対して俺は、さっきも使っていた片手剣、クラスメイトとモンスター狩りに行ったときに貰ったやつではなく自腹で買ったものだ。


 あの魔法剣使ってるとクラスメイトにバレるかもしれないから念のためだ。

  

 コロシアムの中央まで進み、リークと対面する。


「それでは、両者位置について、始め!」


 審判の始めの合図と同時に俺は走り出す。


 リークはその場から動かずに詠唱を始めた。


 数秒後、俺がリークの間合いに入った瞬間にリークの詠唱が完了し、至近距離から魔法が放たれる。


 俺はその攻撃に構わず真っ直ぐに突き進み、真正面から体で魔法を相殺する。


 そして、突き進んだ先にいたリークを押し倒し……


「キャアアアアアアアアアアアァァァァァァ!」


 会場に女性たちの嬉しい悲鳴が轟いた。


 俺の腕のなかでは、リークが羞恥に顔を赤らめ、必死に顔を隠そうとしている。


 至近距離で目を合わせたまま、数秒が経過したところでリークが言った。


「こ、降参です……」 


 審判が俺たちをじっと見つめ、引き締めていた頬を崩しそうになった瞬間に言った。


「しょ、勝者、セラ・ユウア選手!」


 その一声で、会場に歓声が響き渡る。


 俺は気絶してしまったリークをお姫様抱っこで運び、会場をあとにした。


 会場から控え室に向かっていると、通りかかったミルと真理にジト目を向けられたため、リークを預けて観客席に逃げる。


 観客席に向かう途中、偶然にも26位の少年と出くわしたため、声をかけてみる。


「君、あの老人との戦い、凄かったね。あれって何かのスキル?」


 俺はそう聞くが少年からの反応はなく、俺の方をジッと見つめたまま動かない。


 何だろうこの子。もしかしてファンになっちゃったのかな?


「やっぱり」


「え、何が?」


 少年が何か呟いたので聞き返してみるが返答はなく、そのまま顔を背けて通りすぎてしまった。


 不思議な子もいるもんだね。でも、さっきの声、どっかで聞いたことある気がする。


 気のせいかな?気のせいだね。


 自分の中でそう結論がついたので、ひとまず3人のところに戻る。試合を見る気も失せたし。


 控え室にあるモニターを見てみると、俺とリークの試合から4試合が過ぎており、現在8位と18位が戦っている。


 18位の魔法使いがかなり強かったらしく、終盤で特大の魔法を打ち付けて8位の冒険者に勝った。


 勝つためとはいえ、あんな本気の魔法を使うのか。みんな必死なんだな。

 

 そしてお次は26位と20位、どちらも暗殺者のような服装で手にはナイフを持っている。


 さっき出くわした26位の暗殺者は顔を隠しているが、20位の冒険者は隠しておらず、幼い童顔が晒されている。

 

 なんでもホビット族らしく、大人になっても幼いままの容姿らしい。


 ショタとロリの集まり、いいね。


 そう思っているうちに決着がついており、26位の少年の圧勝で終わった。


 20位のホビット族は、一回目の戦いでは10位の大剣使い相手に相性の良さで勝利したが、26位の少年の完全な下位互換だったようだ。


 これでトーナメントの一回戦で勝利した人たちの二回戦が終了し、残っているのは7位、俺、2位、9位、11位、18位、26位、1位となっている。


 そして、その残った人たちでそれぞれの三回戦が行われる。


 俺は一回目なので、そのまま会場に残って7位の魔法剣士と向き合う。


 開始の合図と同時に双方飛び出し、互いの剣がぶつかって甲高い金属音が響く。


一応手加減して戦っていると、相手はどんどん強くなり、剣で切ってもすぐに回復してしまう。自然回復持ちだろうか?


 面倒くさいが本気で戦うわけにもいかないので、相手の力が増すたびにこちらも力を上げていくのだが中々終わる気配がない。


 やっぱり面倒くさいので魔法を使い始める。


 俺は軌道を操作して変則的な初級魔法を放ち、ジワジワと相手にダメージを与えていく。

 

 問題が起こったのは魔法でダメージを与え、相手の回復が回らなくなったときだった。


 地面に大きな影が写ると、その影は7位の冒険者と俺を目掛けて飛び込んできた。


 その影は俺と7位の間に入り、7位の冒険者を庇うように俺に対面し、怒りの咆哮を上げた。

  

 うるさかったのでミルのスキルから《多重術式》を使用し、光の初級魔法を10乗で放つ。


 大きい図体で7位を庇っているその影は黒竜だったようだが、俺の放った初級魔法にあっさりと心臓を貫かれ、登場して10秒と経たずに撃沈した。


「ローランドォー!」


 7位の冒険者は絶命した黒竜に近づき、謎の雄叫びを上げながら黒竜の亡骸に抱きついている。


 やがて、俺の方を睨み付け憤怒の形相を浮かべると、叫びながら俺に斬りかかってきた。


「ローランドの恨み、ここで晴らさせてもらう!」


 こいつ俺のこと殺す気だろ。俺はそんなやつには容赦しないぞ?


 面倒くさいので俺はグーパンで冒険者を吹き飛ばした。


 その男は血を吐きながら壁に衝突すると、壊れた壁に横たわり、肉体をみるみるうちに変化させていく。


「あ、あれは魔族だ!」


 7位の冒険者は魔族だったらしく、変化した肌は赤褐色になり、額には2本の角が生えていた。


「勇者様!お助けを!」


 観客席の誰かが、来賓のところの刃に助けを求めた。


 俺も刃の方を見てみると、互いに抱き合ったり床に踞って頭を抱えているクラスメイトたちがいた。


 その中で、勇者の刃は額に青筋を浮かべながら立ち上がると、こっちの方まで跳躍し、魔族の男に斬りかかった。


「チッ!面倒なことを!」

 

 刃が重要っぽい魔族を殺そうとしたので、俺は咄嗟に剣で防いだが、刃の怒りを買ったそうだ。


「今殺したらダメだろう?魔族は重要っぽいポジションなんだから」


「……チッ」


 疲労かストレスからか、完全にヤバイやつとなった刃を宥め、観客席に帰ってもらう。


 俺は魔族を縛り付けて兵士に引き渡したあとに、黒竜の亡骸を指輪の倉庫エリアへ運んだ。


 1日で終わるはずだったSランク冒険者交流戦は、魔族と黒竜の乱入によって次の日まで持ち越されることになった。

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