第34話 フードを被った少年
今年、Sランクの資格を手に入れたものは5人で、俺たち4人の決闘が終わった今、残りは26位の決定戦だ。
入場してきたのは、旧Sランクのドルムントという男。俺たちが所属している町のギルドで襲いかかってきた双剣使いだ。
新Sランク26位は、小学生高学年ぐらいの身長の、フード付きのローブを着た暗殺者っぽい少年。
互いにスピード戦を得意としているのか、開始早々に双剣とナイフでの激しい攻防が行われていたが、肩で息をしているドルムントに対し、少年の方はどんどん速度を上げているようだった。
やがて、少年の速度に追い付けなくなったドルムントが降参を告げ、26位決定戦は少年の勝利で終わった。
あの子、若いのにかなり強い。さっきの戦いを見る限り、ほとんど力を出していなかった。むしろ、かなり手を抜いているようにも見えた。
一体何者なんだ?
俺がそう考えたところでアナウンスが始まった。
『どれも白熱した戦いでしたが、すべて新Sランクの勝利で終わりましたね!それでは、1時間後、クジで相手を決め、その相手と決闘を行う本戦が始まります!しばしお待ちを!』
アナウンスがそう言うと、各々が休憩に入った。
控え室では30人のSランク冒険者が揃っており、それぞれが好きなことをして時間を潰している。
俺たちは4人で集まって作戦会議をしていた。
「俺たちが当たった場合はどうする?」
「ユウに勝たせればいいんじゃない?」
「ええ。そこそこの戦いをして、いい感じのところで私たちが負けましょう」
「うん。それでいい」
ということに決定した。なんだか悪いな。
「それにしても、さっきの子。一般人にしてはかなり強かったわ。しかも、まだまだ力を隠してる。かなり注意した方がいいわね」
「そうですね。他に注目すべきなのは、1位の女もですね。エルフなのですが、かなり腕が立ちそうです」
「エルフかあ」
エルフ、というとあのエルフ?ファンタジー世界に出てくるようなあのエルフなのか?
「たしかにあの女はエルフだったわね。正確にはハイエルフだけど」
真理はそう言うが、そんなに違いってある?
「エルフとハイエルフって何が違うの?」
俺のその疑問に対し、太古から生きているミルが答えた。
「エルフとハイエルフの根本的な違いはないわ。ただハイエルフの方がステータスが優れてて寿命が長いだけなんだけど……ハイエルフ族はエルフ族をあからさまに下に見ているわね。一緒にしたら絶対に殺されるわよ」
なるほど。豚と猪みたいなもん?
「そして、エルフ族は人と共存してるけど、ハイエルフ族は他の種族との関わりを一切持たない排他的な種族で、下手に手を出すと痛い目を見ることになるわ」
「うん。肝に銘じておく」
うん。でもいつかは行きたいよな。
「その顔、絶対に行くつもりね」
バレたか。でもこれが男の性だ。仕方ない。
「それはともかく、もうすぐ1時間が経ちます。それぞれ、武運を祈りましょう」
リークはそう言うが、そんな相手強くないよ?
「まあ、適当に相手と互角みたいな感じで戦えばいいんでしょ?それなら簡単よ」
ミルの言う通りだ。何事もなくさっさと終わらせよう。
そして、それぞれ番号が書かれたクジを引き、同じ番号が書かれた相手と戦うこととなった。
なったのだが……
「3番は……」
「私」
真理と戦うことになった。
そして、一回戦で6位と12位が戦って6位の勝利。二回戦で5位と7位が戦って7位が勝利した。
そして三回戦。俺と真理の番だ。
互いに礼をすると、真理は大剣、俺は片手剣を持ち、力を抑えて振るう。
そして、真理の隙を付いたようにして魔法を放って俺の勝利。
いい感じにして力を抑えてくれたが、全力の10%も出していなかっただろう。
そして、四回戦だが……これまた同じパーティーからでミルとリーク。
最初は本気で戦おうとしていた二人だが、俺が二人と約束を結びつけられて、渋々力を抑えた形だ。
ちなみに勝者はリーク。ミルは出るのが面倒くさいそうだ。
そして五回戦以降も順調に戦っていき、たまに下位のものによるジャイアントキリングが起こり、観客を大いに賑わせた。
そして、十三回戦。1位のハイエルフと3位の槍使いの決闘が行われたが……勝負は一瞬だった。
ハイエルフの女は、一瞬にして魔法を放ち目眩ましをすると、姿を隠したまま槍使いの近くへ移動し、拳一発で相手の槍使いを気絶させた。
槍使いはこの王国の騎士団の副団長も兼ねており、この国屈指の実力者だったのだが……手も足も出なかったようだ。
そして十五回戦、フードの少年と4位の弓使いの戦いだ。
弓使いは70代ぐらいの老人なのだが、なんでも隣国で最強と言われたほどの弓隊を率いてきた元兵士らしい。
現在はこの国の弓隊の教官をしながら冒険者をしているらしいが……筋力は衰えているものの技術には更なる磨きがかかっており、現役時代よりも強くなっているそうなのだ。
誰もが弓使いの勝利を確信しているこの状況を、俺たちだけは違う目で捉えていた。
「あの黒ローブ、今スキルを使ったわ」
「マジで?」
「そうですね。かなり魔力を消費していましたから」
らしいです。しかし、魔力を使って今の一瞬で何をしたのだろうか?
そう考えていると、開始の声が響き渡った。
俺は咄嗟に視線を戻すと、既に何らかのスキルが作用していたらしい。
弓使いの左右と後方は数メートルほどの巨岩3つで逃げ道を防がれており、前方にはフードの少年が迫ってきている。
弓使いは一瞬にして3本の矢を放ったが、確実に捉えたと思ったはずの矢は全て避けられていた。
跳躍して上に逃げたらその隙に倒されるし、ここから逃げ道はもうない。
即座に諦めの判断を下した弓使いは、小さく『降参』と呟き、フードの少年の勝利が確定した。
少年は何も言わずにその場から立ち去ろうとする。
そのとき、一瞬だけ俺の方を見たような気がした。
気がしただけだから違うと思う。
それにしてもあの少年、どこかで会ったことあるような気がするんだよな。
俺はそう思いながらも自分の出番が近いので、装備とスキルの準備をしてその場をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます