第33話 Sランク冒険者決定戦
Sランク冒険者の交流戦に出場すべく、王都の冒険者ギルドにやってきた俺たちは、受付のお姉さんに連れられて闘技場へ向かっていた。
「それにしても若いですよね。こんなに小さい子もSランク冒険者とは、世界はまだまだ広いですね」
お姉さん、ミルは少なくとも千歳は越えてるよ。
「ところで、ユウさんでしたっけ?彼女っているんですか?」
「いえ、いませんよ」
不意にそんなことを聞いてきたお姉さんに対して俺がそう言うと、ミル、真理、リークが不機嫌そうな顔でこちらを見てくる。一体何なんだ。
「へえ、そうですか……よければ今日の交流戦が終わったあと、私と飲みに行きま……ひぃっ!」
少し頬を赤らめながら話していたお姉さんは、急に怯えたような声を出すと無言で前を向き、早足で進み出した。
何があったのかと後ろを向いていると、すごい剣幕でお姉さんを睨み付ける3人がいた。
「三人とも、どうした?」
俺がそう聞くとミルとリークはそっぽを向き、真理は俺と腕を組んで、横に並んだ。
「何でもない。優がドロボウ猫にとられそうになったから」
「どういうこと?」
真理のその言葉に、俺はそう反応したが誰も答えてくれない。分からん。
「着きました。ここです」
急に静かになったお姉さんの方を向くと、その先にはローマのコロッセウムのような大きい建物があった。
「ここがシルム王国の闘技場です」
この国、シルム王国っていうんだ。知らなかった。
「それでは皆さん。ご健闘をお祈りします」
「ありがとう」
俺が笑いながら片手を振ると、お姉さんは頬を赤らめながら去っていった。
すると、俺と組んでいる方の手をギリギリと締め上げる者がいた。
「優、今の何?無自覚のたらし?」
「な、何でそうなるの?俺、手を振っただけじゃん!」
俺の腕を締め上げたまま目のハイライトを消している真理から逃れるため、ミルとリークに助けを求めるが、二人とも真理と同じような目で俺を見ていた。
「よし!早く行こうか!」
俺は肩の部分をスライム化させ真理の手から逃れると、足早に闘技場の中へと入っていった。
闘技場の観客席はかなりの人数で満たされており、ざっと計算しただけでも三万人は越えている。
なんとなくだけど、あっちの世界でいうオリンピック的な存在だろうか?それにしてもすごい熱気だ。
「あっちの方じゃないかしら?」
ミルの指差す方向には、屈強な男やイケメンっぽい男、気の強そうな女の子が20人ほど集まっている。たしかにSランク冒険者っぽいな。
俺はその方向へ足を進めながら観客席を見渡していると、一瞬だけ見知った顔がちらついた。
「あ、あれ」
「どうかしましたか?」
俺が見つけたのは、観客席でお偉いさんがいるようなところに座っている20人ほどの集団。
その中に俺の見知った顔があった。
そいつの名前は閃光刃。俺のクラスメイトでこの世界に召喚された勇者様……なのだが。
「なんかあいつ窶れてない?」
刃の目の下には真っ黒なクマができており、高校生というよりかはブラック企業に勤める社畜のような顔つきになっていた。
「……御愁傷様」
「あ、あれが今回召喚された勇者なんですね……かなりやつれてますが」
リークも勇者の気配を感じ取ったようだが、想像と違ったらしい。
「あそこにいるのはクラスメイトたちかな?バレないように顔でも変えとくか」
俺はそう言って一部をスライム化し、全身をスライムで覆う。イメージするのはクゥーレの大人バージョン。理由は、何故かクゥーレの姿は造りやすいから。
ピンク色の長髪に、眼は赤色。クゥーレの本来の瞳の色は銀色だが、これは譲れない。
胸は付いてたら自分が違和感を感じるので、できるだけ小さくする。
「うん。なかなか似合ってるじゃない。クゥーレをイメージしたのかしら?」
「そうですね。これなら違和感ないでしょう。でもなんでクゥーレさんに?」
いつも俺と一緒に行動しているミルとリークからのお墨付きだ。これなら誰も気づかないだろう。
「……いつもの方がいい」
真理、バレないようにしないとダメだから仕方ないじゃん
そんなこんなで、他のSランク冒険者が集まっているところに向かう。
その後、数十分待ったところで全員が集まり、開始のアナウンスが流れた。
『それでは、第269回!Sランク冒険者交流戦を行います!』
すると、観客席からは大きな歓声が上がり、各冒険者は一人ずつ入場していく。
そして、アナウンサーの次の声で歓声が収まる。
『それでは、今年はあれをやっちゃいましょう!Sランク冒険者決定戦の開始です!元Sランク冒険者の方々は前に出てきてください!』
すると、5人の男たちが反対の入り口から入ってきた。
『ここ6年行われていなかったSランク冒険者決定戦ですが、なんと!今年は5名のSランク冒険者が新たに生まれました!それでは、新、旧のSランク5人ずつで1対1の決闘を行って貰います!』
へえ、そんなのもあるのか。それで勝った方がSランク冒険者の座を手に入れると。
『この勝負に勝利した方はSランク冒険者の座を手に入れ、敗者はAランクに戻ってしまいます!それでは、新旧30位の二人は前に出て、その他の選手は控え室へ』
他のSランク冒険者たちは、そのアナウンスに促されて控え室へ戻っていく。
そして残ったのは俺と大男。大男は大剣を肩に担いでこちらを見下している。
あれ?どっかで会ったことある?
『それでは、旧Sランク30位のグロットさんと、新Sランクのセラ・ユウアさんの決闘を開始します』
セラ・ユウアとは俺のことだ。
『ルールは簡単。相手を戦闘不能にするか、リングから退場させる。もしくは、相手に降参を認めさせた方の勝利。それでは、両者前に出てください』
俺は頭に付けていたフードを外す。すると、観客席から大きな歓声が沸き上がった。何だかんだ言って、女性の冒険者は同じ女性に人気があるからな。
大男は、あれ?というように顔を不思議そうに歪ませたが、やがて気を取り戻すようにして表情を引き締めると、両手で持つ大剣を握りしめた。
『それでは、始め!』
開始と同時に、急接近して大剣を横薙ぎに振るう大男。筋力は8000ぐらいだろうか?
一般人にしては中々だが、それでも俺の《身体強化》なしの筋力の半分もない。
俺は最初の横薙ぎをバックステップで躱すと、その後の攻撃も流麗な動きで避け続け、相手が体勢を崩した瞬間に、片手に持っていた長剣を相手の首に突き付けた。
『そこまで!勝者は新Sランク30位のセラ・ユウアさん!これによりセラさんはSランク30位へと昇格し、グロットさんはAランクに降格します』
その言葉に、観客からの歓声が響き渡る。
その声は、主に若い女性からの黄色い声援だ。
俺はだらしなく崩れそうになった表情をキッと引き締め、綺麗な動作でお辞儀をすると、ピンと背筋を伸ばしたまま、会場をあとにした。
そういえばさっきの相手、ここにくるまで馬車を襲ってきたやつの一人だったわ。
その後も、馬車を襲ってきた奴らとミルたちが戦い、29位で真理、28位でリーク、27位でミルがそれぞれ勝利し、無事4人ともSランクに昇格した。
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