第32話 いざ王都へ

 珍しく馬車に乗っています。


 俺たちは王都へ行くまでの道のりを馬車で進むこととなっていた。


 といっても、馬車に乗るまでにテレポート使ったけど。


「おっちゃん、どのぐらいで着きそう?」


「あー、あと2時間ぐらいだー」


 2時間か。結構長いよな。


「リーク」


「あ、名前はなしです」


「じゃあ、リボン!……あ」


 ミル、リーク、猫耳少女は、かれこれ3時間ほどしりとりを続けていたが、ミルのミスで幕を閉じた。


「ねえ、次何する?」


「もう、ほとんどやりましたからね」


「じゃあ私の薬で遊ぼー!」


 あっちは賑やかだな。


 ちなみにこっちはというと、


「真理ー。足動かさないでよー」


「違う。今のは優が」

  

「足痺れてきたんだけど」


 スライム化した俺の身体から出てきたクゥーレと真理の俺たちは三人でゆっくりしている。


 地べたに足を伸ばして座っている俺の上に真理、俺に座っている真理の足の上にクゥーレが座っている。


 ……どういう状況?


 俺は何も考えないままボーッとしていると、俺の足の上に座っていた真理が小声で呟いた。


「また来てる」


「またかあ」


「んー?何か来たー?」


 俺は気づかなかったが、クゥーレも気づいたようだ。


「次誰行くー?」


 と、俺がミルたちの方に声をかける。


「じゃあ、ジャンケンで決めよう」


「ジャンーケーン……」


「あ、あと10メートル」


 馬車の前には、大きな斧を持った大男が走りこんできている。


「じゃあ僕がいくねー」


 誰が行くかをジャンケンで決めようとしていると、真理に座っていたクゥーレが立ち上がった。   


 そして欠伸をしながら、その男の前に立つ。


「てめえらがSランクになったばっかの新参者か!本当のSランク冒険者の実力を見せてやる!」


 斧男は大きく振りかぶってその斧を上から叩きつける。


 避けなかったクゥーレには自分の体よりも大きな斧が脳天に直撃した。


 直撃……したのだが。


「お、俺の斧がぁ!」

 

 クゥーレの頭に当たった瞬間に斧が溶けていき、地面に振り下ろしたときには斧の刃のほとんどがなくなっていた。


 なんたらポイズンスライムだったもんな。そのぐらいなら溶かしそうだよな。


「冒険者になったときに金を貯めて買った斧だったのに、どうしてくれるんだあ!」


 逆ギレかよ。そんなことでキレるな。


 斧じゃない斧が残った元斧男は、顔を真っ赤にしてクゥーレに襲いかかる。


 襲いかかってくる男を前に、クゥーレが指をパチンと鳴らすと、地面から大量のスライムが湧き出してきた。


「な、なんだこれは!」


 大量スライムたちは斧男の全身を呑み込むと、数十秒経ったあとに、唾を吐くようにして斧男を吐き出した。


 吐き出された斧男は服を着ておらず、パンツ1丁で体を縮こませていた。


「ひっ、ひい!助けてくれえ!」


 そう言いながら馬車のおっちゃんに助けを求めるが、おっちゃんは鼻で笑ったあとにその男を無視して進み出した。


 クゥーレが戻ってくると、何事もなかったかのように、ゲームや昼寝が再開する。


 これを3回ほど繰り返している。


 そして、そこから2時間が経ったとき。


「あ、なんかめっちゃいる」


「どれどれ?……ホントだ」


 大きな城門の前に50人ほどの集団が馬車の進行を邪魔するように佇んでいる。


「あれ、どうしましょうか」


「今さらだけど、俺たちって何で狙われてんの?」


「Sランク冒険者の座を奪われた人たちに、じゃない?」


 そうかもしれない。Sランク冒険者がどうのこうの言ってたしな。


「じゃあ、あの人数は何?」


「……取り巻きとか?」


 ミルの兄のときみたいにか。取り巻きって面倒だよな。


「じゃあ、今度は俺が行く」


「頑張ってー」


 俺は馬車から飛び降りると、前方にいる集団の前まで進む。


「こいつだけか?」


「いや、後ろの方に馬車がある。あそこに仲間もいるんだろう」


「ハハッ!囮にさせられたのか!流石のSランク冒険者も数には勝てねえからな!」


 チンピラっぽい奴らが俺を見て騒いでいる。


「お前たちは何者だ?」


 なんとなく雰囲気に合わせてそう言う。


「俺たちは……」


「待て。あの方の名を口にするな。このことが言及されたら、あの方に俺たちが殺される」


「それもそうだな……てめえに名乗る名なんかねえ!とりあえずさっさとくたばりやがれ!」


 そう言って前方にいた数十人が襲いかかってきた。


 俺は《身体強化》を使用して一人一人殴り飛ばしていく。


 レベルが低くなったとはいえ、こんな奴らでは相手にならないか。


 俺は冷静に攻撃を対処しながら最初に襲いかかってきた敵を全て気絶させた。


「おお、不正でSランク冒険者になったくせに中々やるじゃないか。まあ、あいつらはEランク、Dランク帯の雑魚だからな。俺たちC、Bランク帯には敵わねえだろうよ!」


 そう言って十人ほどが襲いかかってくるが、どれもこれも雑魚ばかりだった。


 冒険者って全員弱くない?


 最初は50人近くいた敵だが、残っているのは6人だけだ。


 その中で三つ子らしき三人が前に出る。


「俺たちが相手だ」


「俺らは三つで一つ。俺に勝てるかな?」


「……」


 うっぜえ。何かキモいし。


「「「それじゃあいくぞ!」」」


 そう言って殴りかかってきた三人を一発ずつ殴り倒していく。


 残るは3人。


「ふっ、やつはAランク四天王の中でも最弱。今度は俺が……俺たちが相手だ」


「あれ?一人ずつ行くんじゃ?」


「静かにしろ!仕方ないだろ!あいつめっちゃ強いんだから」


 二人の会話を聞いていた一番強そうなやつが俺の方を見て言った。


「というわけで!俺たち3人で相手をする!」


 もう面倒くさいからかなり威力を弱くして魔法を放つ。


 使うのは火属性魔法。


「あっ、熱い!何でこんなところから火が!」


「魔法に決まってんだろ!誰か水魔法使えねえのか!」


「水属性以外なら使えるんだが……」


「「「熱い!」」」


 三人でジタバタ転げ回っているので、放置して馬車に戻る。


 そして数十分後、俺は久しぶりの王都へやってきた。

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