閑話 勇者(苦労人)と預言者(苦労人)の受難

 ここはとある王城の一室。


 そこは異世界から召喚された勇者の部屋だ。


 その勇者の名を、閃光刃という。


 異世界から召喚され、魔王を倒すという役目を負わされた彼は、くたびれた様子で死にそうな顔をしている。


 その姿はまるで、ブラッド企業に勤める社畜のようだった。


 彼がこんなことになった理由は、今日のダンジョンを攻略しているときのこと。


 クラスメイトの全員がレベル20を越え、新たなダンジョンでレベリングをしようということになった。


 しばらく進み、最初の方は順調だったのだが……


「おい!こっちに隠し通路があるぜ!誰か一緒にいかねえか?」


「あ、あのモンスター!めっちゃレアな素材落とすやつじゃん!俺ちょっと行ってくるわ!」


「む、虫!キモいキモい絶対に無理だって~!」


 そんな様子を見た刃はキレた。


「……静かにしろ!ダンジョンだぞ!モンスターが寄ってくるだろうが!1人でどっかに行こうとすんじゃねえ!」


 彼は怒鳴り声でそう言ったが、自由気ままなクラスメイトたちは半数が指示に従わない。


 彼の指示に従うのは陰キャの男子と大半の女子だけだ。


 もう色々と諦めた彼は目のハイライトを消し、幽霊のように歩きだした。


 そんな彼の様子を見た女子たちは、『今がチャンス!』というように目を輝かせると、


「キャッ!怖い!」


 と言って刃に抱きついたり、


「じ、刃くん、助けて~!」


 とか言いながらベタベタと体を触ってくる。


 2次元にしか興味がない彼はそんな女子たちを鬱陶しいと思いながら、自分についてきてくれた数少ない男子に目を向ける。


 彼らは気の毒そうな目で見ていたが、刃がこちらを向いていることに気づくと、サッと目をそらした。


 自分の今の状況を悲観し、目の光を完全に途絶えさせると、勇者としての役目だけを考え彼は歩き出した。


 ダンジョンの攻略を始めて約2時間、刃についてきているクラスメイトは17人。


 途中途中、交代で見張りをしながら休憩を取り、ゆっくりながらも着実にダンジョンを進んでいたときだった。


「ん?あれ何だろ?」


 1人の男子がそう言った。


 彼が指す方向を見てみると、人の大きさほどの何かが倒れていた。


 近くに行って見てみると、数時間前に1人でモンスターを追いかけていた男子生徒だった。


 刃は急いでその男子に駆け寄り、生きているかを確かめる。


 呼吸はしているし脈はある。しかし、いくら起こそうとしても一向に起きる気配はない。


 しばらくして、その男子は目を閉じたまま起き上がると、近くにいた刃に向かって魔法を放った。


「……むにゃむにゃ、俺は~強い~冒険者だ~」


「てめえ何寝ぼけたこと言ってんだ!」


 紙一重で魔法を躱した刃は、振り向き様にその男子を殴り、壁に叩きつけた。


「っ!ゴホっ!……痛ってえ!ん?俺何してたっけ?」


 先程自分がやったことを覚えていない様子で、彼はみんなから冷たい視線を向けられているとことに気づいていない。


 みんなにタコ殴りにされた彼は、唯一の被害者であり、一番ダメージを与えた刃に回復させて貰い、刃たちと一緒に進むこととなった。 

 

 その後も、死んではいないものの何らかのダメージを負ってダンジョン内で倒れていたクラスメイトを回収して進んでいた。


 時間は夕方になっており、彼らはほとんど成果を得られぬまま王城へ帰った。


 帰ったあと夜になり、刃は1人王座の前に呼び出されていた。

 

 クラスメイトの内、1人もレベルが上がっていなかったことに対して宰相やその他の代官たちにネチネチと理由を追求され、王様に哀れみの視線を向けられて数時間後、ようやく部屋に戻れた。


 そして冒頭に戻る。


 彼はベッドに倒れこむようにして横になると、ゆっくりと天井を見上げ、周りの迷惑も気にせずに叫んだ。


「あーーーーーー!勇者ダリぃーーーー!」



 その叫びを他の部屋で聞いた預言者は、水晶を磨いていた手を止め溜め息をつくと、もう一度水晶を磨きだした。


 叶がいなくなったあと、色々と手回しをして騒動を小さく収めた預言者だが、その後が酷かった。


 最初は預言通りに動いていた世界だったが、優がやらかしたせいで色々と未来が変わった。


 預言者の預言は、占いとしては最高の腕だが、その未来は絶対ではない。


 確率としては96%ほどだが、優が残りの4%を見事に当て、一番楽な未来をぶっ壊した。


 死ぬはずだったリークやリル、クゥーレは仲間になって今も生きているし、どの未来にも出てこなかった猫耳の少女が出てくる。


 すぐに再会するはずだった叶にも未だに会えていないし、優は預言者のことも忘れているだろう。


 優に会って直接言いに行ったら自分が死ぬ確率が増えるし、魔法で遠くから見ようとしたら真理に阻害される。


 手詰まりとなった預言者は大量の金貨を取り出すと、機械のように金貨の数を数え始めた。


 しばらくして金貨を数え終わったとき、何もかもを諦めた預言者はベッドに体を預けると、


「あーーーーーー!帰ってネトゲしてええーー!」


 預言者は大声でそう叫ぶと、急に冷静になって預言を発動しながら目を閉じた。


 実は部屋が隣同士の刃と預言者は、数分後に部屋にやってきたメイドさんに叱られ、死んだような顔で眠りにつくのだった。

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