第30話 ボス撃破、そして
「本当にこれで勝てるの?」
「うん。問題、無い」
不安そうな表情で真理を見ながらそう言うと、いつも通りの無表情でそう答えられた。
でもなあ、作戦が作戦だからなあ。
「大丈夫おにいちゃん!私がついてるから!」
と、元気な声で俺を励ましてくれるのはニッコリと笑っている猫耳少女。瞳は爛々と輝いており、その輝きからは狂気も感じられる。
嫌な予感しかしない。本当に。
「まあ、ユウならなんとかなるでしょう。パパッと終わらせてきなさい」
姉貴ィ、俺もう心が折れそうです。逃げてもいいですか?
「ダメです」
リークさん、あなたも遂に心が読めるようになりましたか。嬉しくもありますが悲しいです。
バンジージャンプ直前のようにへたれた様子の俺に痺れを切らしたのか、脳内でリルが罵ってくる。
『この根性無し!意気地無し!さっさと行きなさいよ!』
でもさあ……他の生物と合体しろとか、並みの精神してるならそんなことしねえだろ。
俺が今からしようとしていることは、他の生物と合体すること。
そう、あの白色スライムと。
「計算上では、何も問題ない」
倫理的に問題があるんだよ。
「私の薬に不可能はないよ!」
それ、多分違法薬物だよ。
真理と猫耳少女は、俺たちがスライムとドンパチ繰り広げている間に、あいつをぶっ倒す作戦を編み出していたのだ。
そしてその作戦とは、『自然回復での殴り合い』作戦だ。
その名の通り、自然回復で殴り合うだけ!
どのように競うかというと、猫耳少女の作った薬で肉体を合体させ、それと同時に魂も合体する。そして、上手く合わさらなかった魂を自然回復Sで無理矢理繋ぎ合わせるというもの。
本来その薬を使うと、2つの生物が1つになったときに魂も合わさろうとするが、反発しあう2つの魂がそのままになり、1つの肉体に2つの魂を持った二重人格になってしまうのだ。
しかし、自然回復・Sなら肉体が合わさったとき、システムのバグか何かで、魂も1つにまとめてしまい、色々な情報によって判定された1つの魂がその肉体の自我に確定されるのだ。
真理が言うには、自然回復Sの数は俺の方が9個多いし、ステータスにも問題ないから勝てるらしい。
リルの魂はリークの魔法で保護してもらった。
また1人だけ楽しやがって、許せない。
このように、また俺1人だけが苦労するハメになったのだ。
重い腰をゆっくりと持ち上げ、机の上に置かれた赤色の液体が詰まった試験管を手に持つ。
俺は決意に満ちた表情で指輪に触れると、この空間を後にした。
一瞬で空間が切り替わると、俺の目は開かないまま、異常な反応を始めた。
出てきた瞬間にスライムに飲み込まれて溶かされた試験管の中にあった薬が出てきたんだろう。
スライムに飲み込まれてしばらく経ったとき、一瞬だけ思考がフリーズしたかと思うと、次の瞬間には体の感覚は戻っていた。
俺は全裸の状態から服を取り出し着替えていると、何処からか人の声が聞こえてきた。
『うわー、これが人間の体かあー』
リルかな?声がかなり違うような気がするけど。
『何でこんなのと間違えるのよ!二度とそんな間違いしないで欲しいわ!』
いたわ。うるさいやつ。じゃあこいつは?
『僕はエンシェントポイズンスライムのクゥーレ。さっきのスライムだよー』
誰やねーん。さっきのスライムというのは分かったけど、いきなり誰やねーん。
『えーと、性別は女だよー』
色々と突っ込みどころは多いが、それより先に聞きたいことは、その一人称が『僕』ってのは、スライム時代に男だったから?それとも元々?
『違うよー。そもそもスライムに性別なんて無いし、この姿は魂の形かなー?』
リルはクゥーレの姿見えてる?
『見えてるわ!私には及ばないけど、中々可愛いわよ!』
OK、採用。
『わあーい。ありがとー』
『ちょっ、ちょっと!何が採用なのよ!この部屋は私だけの部屋だわ!』
はあ?お前がいない方が良いんだけど?
ていうか、部屋って何よ。人の頭の中を部屋って言うな。
『あ、何かあるー。なにこれー?』
『あ、それはモ○ハンよ』
何でモン○ンがあるんだよ。
『あんたの頭の中だからよ。ほとんどがエロ本だから困っちゃうわ』
別にいいだろ!エロ本ぐらいならほとんどの人が持ってるわ!
『おー、この○ンハンっていうやつ面白いねー』
『でしょ?一狩り行きましょう』
いいなー、俺もモンハ○したいなー。
そう考えていると、急にミルたちが現れ、俺の周りでガヤガヤと騒ぎ始めた。
「うん。倒したみたいね」
「成功してよかったですね!」
「私のおかげだね!」
本当に。体ずっと溶かされてたから流石に死ぬんじゃ?って思ったけどどうにか生きてた。
「まあ、無事にクリアしたことだし、そのまま次に進もう」
俺がそう言うと、近くにいた真理が俺の瞳をじっと見つめていた。
「どうした?」
「もしかして、また変なの、増えた?」
真理は魂まで情報が分かるんだな。
ていうか真理、変なのって言うなよー。可哀想だろー。
「そうだよー。変なのじゃないよー」
そう言ったのは、桃色の髪を首の辺りで切り揃えている、12歳くらいの眠そうな顔をした女の子だ。
え、誰この子?急に出てきたんだけど?
「誰とは失礼な。僕だよ僕。エンシェントポイズンスライムのクゥーレだよー」
あ、クゥーレさんすか?こんにちは。
顔は12歳ぐらい、なのだが……胸がでかい!
なにその胸!デッカ!胸、デッカ!
「うわー、変態ー」
「……俺、今何か言った?」
嘘だろ。いつの間にか口に出してたか?無意識だった。
「同じ体を共有してるからねー。考えてることは筒抜けだよー」
マジかよ。全部バレてるのか。もしかしてリルにも、
『バレてるわよ』
バレてたか。まあ、仕方ない。
でも何で急にクゥーレが?リルは一度も出てきたことないのに。
「それはねー、優の体がスライムにも出来るからだよー」
「あ、俺の名前知ってたの?」
「いや、記憶の狭間に書いてあった」
何それ。格好良いな。
「その人の魂の記録が載ってるところだよ。そこにはその人が忘れてる事も記録が載ってるよー」
俺のプライバシーは?
……そんなこと今さらだな。知ってました。
それより、俺の体がスライムになるってどういうこと?
「んーとー、体が合体したよねー?そのとき優の体が再構築されて、スライムに変化できるようになったらしいよー」
「……スゲー」
「だよねー。それで、優の体の一部をスライムにしてー、そこに魂を移したらこうなったー」
マジか。そんな器用な事も出来るのか。
じゃあリルも呼び出せるの?
「それは無理だねー。魂と器が本質的に合わないからねー」
スライムと精霊じゃあそうなるか。そもそも精霊って肉体あったっけ?
と、俺がクゥーレと会話していると、邪魔をするように横から口を挟む声が聞こえてきた。
「私たちを置いていかないで欲しいのだけど?」
「ああ、ごめん」
ニッコリとした笑顔でそう言うミル。
後ろの三人は、少し冷たい目で見てくる。
真理、クゥーレの胸見てた事謝るから頭を潰さないで!痛い!
……こんなときこそスライムになればいいんじゃないか?
体を液体にするようなイメージで魔力を込める。
すると、体全身が崩れ去り、俺がいた地面には灰色の液体が散らばっていた。
「……スライムになった?」
「なりましたね」
「……気持ち悪い」
そんなこと言うなよー。悲しいじゃんかよー。
しばらくスライムのままだったが、魔力を込めずに放置していたら元の体に戻った。便利だ。
「それじゃあ気を取り直して、出発!」
「「「「…………」」」」
……そんな目で見ないで欲しい。
「優ってアホだよねー」
「意外と辛辣だな」
俺がクゥーレと会話すると、四人の目付きが更に厳しくなった。なんでー。
皆に厳しい視線を向けられながらも、1人で前に進み始める。
「あ、あそこ」
ミルが指を指した方向を見ると、見慣れた看板が立っていた。
そういえばここが最下層だったよな。
看板に何が書かれているかを見ると、そこにはこう書かれていた。
『よくここまでこれたね、すごい!ダンジョンを攻略した君たちはなんと!僕の隠れ家に来れる権利が!行ったら良いことあるかもよ?拒否権は無い!さあ行くよ!』
最後まで読み終わると同時に看板が割れたかと思うと、次の瞬間には空間が裂けたかのように穴が空いており、俺たちはその中に吸い込まれてしまった。
閉じていた目を開くと、辺りは真っ暗だった。
数メートル先に光源がある。近づいて見てみるとそれは……パソコンだった。
その画面には、途中まで進められたネトゲが放置されており、辺りを見回すとコタツや布団、カップラーメンやスナック菓子など、生活感の溢れた部屋が広がっていた。
ここが神の隠れ家?それよりも、引きこもりの実家って方が似合いそうだな。
みんなが警戒しながら辺りを見回す中、俺がパソコンの画面を見てみると、急に画面が切り替わり、そこには何かのステータス画面が現れた。
《荒瀬優》。これって俺のことだよね?
他の項目を見てみると、レベルは1159となっている。おそらく、俺の魂が全てカンストで990、リルとクゥーレのレベルを合わせて169、合計で1159Lvだ。
ステータスはいわずもがな。化物級となっていた。
スキルは《白炎》の他に新しいものがいくつか増えており、《液化》《増殖:S》《魔法貫通:S》《猛毒:S》《魔力吸収:S》といった5つだ。
おそらくだが、どれもクゥーレのスキルだ。俺の防御を貫通したのは《魔法貫通》だろう。
それにしても凄いステータスだな。この世界に来てから何日経ったっけ?
いや、今はいい。それよりもこの画面が問題だ。
なぜ俺のステータスが神の部屋に?こいつが俺をこの世界に送ってきたからか?
俺の中で様々な推測が飛び交っていると、目の前の画面がまた切り替わった。
『個体番号、No.04。《ドミネーター》。
何だこれ。ドミネーター?魔神?意味分からん。
『宇宙で5番目に産まれた神。原初の神、《創造神》の子の中で、《創造》の力を受け継いだ唯一の個体。膨大な知識を得ており、無限の魔力と《支配》の力を操る。その能力は作り主である創造神をも越える。《創造》の力の結晶、《賢者の石》を体と切り離され、魂が封印状態となっていた。現在の魂の居場所は不明。《賢者の石》はこの世界のどこかにある』
へえ、そうなのか。だが、俺にはどうでもいいね。
しかし、気になるのは《賢者の石》。創造の力の源で、創造神と魔神のみが使っていたらしい。
いいなー、《賢者の石》。錬金術では金だの銀だのをああしたりこうしたりして作り出すらしいが、細かいところは覚えていない。
しかし、賢者の石の能力は大体覚えている。
寿命を無限にしたり、あらゆる病気を治したり、非金属を金に変えたりと色々な効果がある。
その中でも、賢者の石は無限の
他にも、色々な能力や説明があるが、これぐらいしか覚えていない。
賢者の石かあ。いいなあー。
この世界にあるらしい《賢者の石》を考えていると、またまた画面が切り替わった。
『クリア報酬:Lvを消費することにより、好きなスキルを取得できます』
マジか!俺のためにあるような報酬だろ!
俺は表示されたスキルを、一つ一つじっくりと閲覧していく。
Sランクのスキルの取得に必要なレベルは100、そこから70、50、30といったように減っていき、一番少ないのは5だ。
そこで俺が選んだのがこれらの14個だ。
《自然回復:S》《光魔》《重力魔法》《空間魔法》《魂魔法》《魔力:S》《魔力:S》《破壊》《魔導の極地》《未来予知》《物理貫通》《属性付与》《封印の魔眼》《液体操作》《反射》
最初の7個が100、その後からは70が4、50が2で30が2。合計で1140のレベルを使った。
そのため、現在のレベルは19となっている。
『報酬の獲得を終了しました。直ちにダンジョンの入り口へ転送します』
「「「「「え?」」」」」
俺たちがそう言った瞬間、いつの間にか夜の森に放置されていた。
「……追い出された?」
「そうらしいですね……」
リークの見る方向を向くと、池の水が全てなくなり、半球状となっていた地面にあったマンホールが無くなっていた。
「「「「…………」」」」
なんだか釈然としないが、ダンジョンも攻略したし報酬も貰ったからよしとしよう。
こうして、数日に渡る《神の巣窟》の攻略は幕を閉じた。
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